OMG 2

4.0
OMG 2
「OMG 2」

 「OMG: Oh My God!」(2012年)は、人間が神様を相手取って訴訟を起こすという法廷コメディー映画で、大ヒットした。2023年8月11日に公開された「OMG 2」はその続編という位置づけである。ただし、ストーリー上の連続性はなく、アクシャイ・クマールが神様役を演じることくらいが共通しているだけだ。テーマも全く異なる。「OMG 2」が取り上げているのはズバリ、性教育である。

 「OMG 2」の監督はアミト・ラーイ。「Road to Sangam」(2010年)以来、監督作はなく、突然復帰したように感じる。キャストは、アクシャイ・クマール、パンカジ・トリパーティー、ヤーミー・ガウタム、パヴァン・マロートラー、ゴーヴィンド・ナームデーヴ、アルン・ゴーヴィル、ブリジェーンドラ・カーラー、アールシュ・ヴァルマー、ギーター・アグラワールなどである。

 ところで、「OMG 2」は中央映画検定局(CBFC)から多数のカットや改変を指示されたと報道されている。たとえば前作でクリシュナ神を演じたアクシャイは今作でシヴァ神を演じる予定だったが、CBFCから物言いが入った結果、彼のキャラは「シヴァの使徒」に変更された。元々、マディヤ・プラデーシュ州にあるヒンドゥー教聖地ウッジャインが舞台の物語だったが、特定の地名の言及を止められ、架空の街の物語に変更された。その他、性的なキーワードや映像などにもカットが入ったとされるが、性教育の啓蒙を目的とする映画に過度のカットが入ったことは残念だ。映画を観ていると映像やストーリーが飛んでいるところがあるが、これは監督の落ち度ではなくCBFCによる指示の結果だと差し引いて鑑賞すべきである。

 カーンティシャラン・ムドガル(パンカジ・トリパーティー)は、マハーカール寺院の門前町でお供え物を売る店を経営する敬虔なシヴァ神の信徒だった。妻のインドゥマティー(ギーター・アガルワール)、息子のヴィヴェーク(アールシュ・ヴァルマー)、娘のダムヤンティーと共に住んでいた。カーンティはマハーカール寺院のプジャーリー(ゴーヴィンド・ナームデーヴ)にも一目置かれた存在だった。

 ある日、ヴィヴェークが病院に搬送されたと知り、カーンティは駆けつける。医者ガガン・マールヴィーヤ(ブリジェーンドラ・カーラー)によると、ヴィヴェークはペニスを大きくするために怪しげな精力増強剤を大量に摂取し体調を崩したとのことだった。ヴィヴェークは学校でペニスが小さいとからかわれたことで気にするようになり、あらゆる方法を試していた。友達からマスターベーションをするといいと言われ、学校のトイレでマスターベーションをしたこともあったという。カーンティは穏便に事を済ませるためヴィヴェークを家にそっと連れ帰り、母親や娘には詳しいことを話さずにいた。

 ところが、ヴィヴェークのクラスメートが、彼が学校のトイレでマスターベーションをしている姿を盗撮して動画にし、SNSにアップロードしてしまった。この動画はあっという間に世間に広まる。カーンティとヴィヴェークはアタルナート・マーヘーシュワリー校長(アルン・ゴーヴィル)に呼ばれ、退学処分を言い渡される。ヴィヴェークはいじめっ子を殺そうとするが警察に捕まり、カーンティは今度は警察署に呼び出される。カーンティは一家を連れて町から出ようとするが、そこで警察署にもいた謎のヒッピー(アクシャイ・クマール)に止められる。彼はヴィヴェークの自殺も止めてくれた。彼こそは、カーンティの祈りを聞き届けたシヴァ神が地上に送り込んでくれた使徒であった(以後、マハーカールと呼ぶ)。カーンティは、ヴィヴェークの自信を取りもどすため、訴訟を起こすことをマハーカールから入れ知恵される。

 カーンティは、ヴィヴェークを騙した5人に対して訴訟を起こす。その内の一人はマーヘーシュワリー校長であり、自分自身も被告となっていた。そして、弁護士を立てず、自分で弁護することとする。マーヘーシュワリー校長が雇ったのは敏腕女性弁護士カーミニー(ヤーミー・ガウタム)であった。彼女はマーヘーシュワリー校長の義娘でもあった。カーンティの一家はマハーカール寺院付きの宿舎に住んでいたが、マーヘーシュワリー校長と親交のあったプジャーリーは彼の行動に怒り、家から追い出されてしまう。それでもカーンティはめげずに訴訟を続ける。

 カーンティが論点としたのは、マスターベーションを「卑猥な行為」とするカーミニーの主張であった。カーンティは、マスターベーションは間違った行為ではないとし、学校がヴィヴェークにきちんと性教育をしていればこういうことは起こらなかったと訴える。裁判で行き詰まると必ずマハーカールが現れ、彼にヒントをくれた。そのおかげでカーンティは危機を乗り切り、勝訴まであと一歩のところまで行く。

 マーヘーシュワリー校長はカーンティに1千万ルピーの小切手を渡し、示談を提案する。カーンティは息子の将来のことを考え、示談書に署名をしてしまう。その帰りにカーンティは事故に遭う。カーンティは死んだと思われたが、マハーカールに復活してもらう。

 裁判所では判決が言い渡されようとしていた。カーンティが提起した性教育の必要性は多くの共感を呼び、この裁判は全国的に注目されるようになっていた。カーミニーはカーンティが署名した示談書を提出し、裁判の中止を訴えるが、そこに現れたカーンティは示談書への署名を取り消し、小切手を返却する。ヴィヴェークも現れ、性教育の必要性を訴える。裁判所に集った若者たちもヴィヴェークの味方になる。プルショッタム・ナーガル裁判長(パヴァン・マロートラー)は被告たちに対し、原告の要求する慰謝料の支払いを命じ、学校にはヴィヴェークの復学を命じた。

 近年のヒンディー語映画ではLGBTQが大きなトレンドになっており、同性愛、トランスジェンダー、ヒジュラーなどの問題が映画の中で盛んに取り上げられている。だが、より広い視野でこの潮流を眺めると、映画界の関心はLGBTQのみに留まっていないことが分かる。真の主題は性教育である。インドでは、性に関する事柄がタブー視され、学校での性教育が足らないために、LGBTQを含む多くの問題が引き起こされている。本丸は、インドでなかなか減少しない強姦問題であるが、それ以外にも、避妊、不妊、生理、精子ドナー、代理母など、生殖関連の多岐に渡るテーマが映画になってきた。「OMG 2」の総論は、過去に公開された「Khandaani Shafakhana」(2019年)、「Made in China」(2019年)、「Chhatriwali」(2023年)などと同様に、性教育の喚起である。だが、その各論として選ばれたのは、十代の男性が陥りがちな性の問題であった。具体的には、ペニスのサイズやマスターベーションといった問題である。

 主人公カーンティの息子ヴィヴェークは、友人から「ペニスが小さい」と悪口を言われ、自分のペニスのサイズを気にするようになる。しかも、実際にペニスを見られてそう言われたわけではない。指の長さがペニスの長さに対応しているという迷信から、彼は「ペニスが小さい」と決め付けられたのである。さらに、「マスターベーションをすればペニスが大きくなる」という間違った助言も受ける。真に受けたヴィヴェークは寝ても覚めてもマスターベーションをするようになる。学校のトイレでマスターベーションをしてしまったことで、彼は退学の憂き目に遭うのである。

 また、ヴィヴェークはマスターベーション以外にも、ペニスを長くするためにいくつかの怪しげな手段を試す。インドの街角では精力剤として「ジャーパーニー・テール(日本油)」なるものが盛んに宣伝されている。「OMG 2」の中ではこれは「ジャープニー・テール」と若干名前が変えられて売られていた。ヴィヴェークはこの「ジャープニー・テール」を使ってみた。また、バイアグラの偽物のような勃起不全治療薬を処方箋なしで手に入れ、大量に服用し、入院してしまったこともあった。

 カーンティは、息子のこれらの失敗を、学校で性教育をしないためだと主張し、裁判所に訴える。「OMG 2」は前作と同様に法廷ドラマであるが、今回裁判で争われるのは、マスターベーションは間違った行為ではないということと、学校のカリキュラムに性教育をきちんと入れ、正しい知識を子供たちに身に付けさせることである。

 巧みなのは、ストーリーにシヴァ神を絡めて来ているところだ。インドの寺院において、シヴァ神は人の形よりもシヴァリンガの形で祀られることがほとんどだが、シヴァリンガとは男根のことだ。しかも、シヴァリンガはヨーニとの結合状態で象られる。ヨーニとは女陰のことだ。シヴァリンガを祀った寺院の聖室に入ると、そこでは女陰に男根が突き刺さった姿を子宮側から見ることになる。つまり、ヒンドゥー教徒は普段から男根崇拝、女陰崇拝、そしてセックス崇拝をしている。本来ならばインド文化において性は大っぴらに語られるものであった。1500年以上前に書かれた有名な性の奥義書「カーマスートラ」や、カジュラーホーのミトゥナ像にももちろん触れられる。それにもかかわらず、家庭では性に関する事柄は覆い隠され、学校では性教育が避けられ、社会でも性をオープンに語る者は爪弾きに遭う。おかげで子供たちは正確な性の知識を持たないまま、ネットなどの情報に踊らされることになり、トラブルに巻き込まれたり、トラブルを起こしたりするようになってしまう。

 法廷の再現性の正確さという点では妥協があったと感じる。裁判の進行はかなりいい加減なもので、チープなコント劇のようだ。本来ならば法廷ドラマとしては致命的なのだが、性教育の必要性を訴える姿勢は真摯なもので、「意識高い系」の映画である。むしろ、コメディータッチにしたことで説教臭さが緩和されており、より多くの観客に受け入れられるソフトさが生まれた。現にこの映画は大ヒットした。

 演技面ではパンカジ・トリパーティーとヤーミー・ガウタムが素晴らしかった。アクシャイ・クマールはどちらかといえばサポート役であったが、タイミング良く登場しては助け船を出すおいしい役でもあった。

 映画の冒頭では素っ裸のサードゥたちが沐浴をするシーンがあった。これはヒンドゥー教四大聖地であるイラーハーバード、ハリドワール、ウッジャイン、そしてナーシクで3年ごとに持ち回りで行われるクンブメーラー祭に他ならない。ウッジャインでのクンブメーラー祭は2016年に行われたので、この物語の年も2016年と特定してもいいかもしれない。

 「OMG 2」は、前作との共通点は少ないものの、性教育の必要性を訴える真面目な内容のコメディー映画になっており、インド人の共感も呼んだ作品だ。アクシャイ・クマールがシヴァ神を演じたが、それが宗教的な感情を傷付けるとしてシヴァ神の使徒に変更されたりと、検閲を通すのに苦労したようだが、それでもこの映画が訴えたかったことはよく伝わってきた。パンカジ・トリパーティーとヤーミー・ガウタムの好演も光った。2023年を代表するヒット作であり、必見の映画である。