Rocket Gang

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Rocket Gang
Rocket Gang

 近年、ヒンディー語映画ではダンスシーンが挿入されることが少なくなり、それに伴って今までヒンディー語映画のダンスシーンを支えてきたコレオグラファーやバックダンサーなどが職にあぶれているという話を耳にするようになった。その反動として、ダンス関連職の人々に仕事を与えるため、ベテランのコレオグラファーがダンスを前面に押し出した映画を作るようになった。例えばレモ・デスーザ監督の「ABCD: Any Body Can Dance」(2013年)がその好例だ。他にもファラー・カーンやプラブデーヴァなど、コレオグラファーたちが監督に転向し、ダンスで彩られた映画を作り続けている。

 2022年11月11日公開の「Rocket Gang」も、ボスコ・シーザーとして知られるコレオグラファー・デュオの一人、ボスコ・マルティスが初監督を務めるダンス映画である。キャストは、アーディティヤ・スィール、ニキター・ダッター、ジェイソン・タム、モークシュダー・ジャイルカーニー、セヘジ・スィン、テージャス・ヴァルマー(子役)、アードヴィク・モーンギヤー(子役)、ジャイシュリー・ゴーゴーイー(子役)、ディーパーリー・ボールカル(子役)、スィッダーント・シャルマー(子役)などである。

 特別出演陣も豪華で、ランビール・カプールが「エンジェル」役でカメオ出演している他、ボスコ・シーザー、ラフタール、アハマド・カーン、ファラー・カーン、ノラ・ファテーヒーなど、コレオグラファーやダンサーたちが総出演している。

 舞台はムンバイー。アマルビール(アーディティヤ・スィール)、タニア(ニキター・ダッター)、バンヌー(ジェイソン・タム)、ピヤー(モークシュダー・ジャイルカーニー)、サーヒブ(セヘジ・スィン)は仲良し五人組だった。ある日、アマルビールは「ワンダー・ヴィラ」への無料招待券を手に入れ、仲間たちと訪れる。ワンダー・ヴィラは5人の子供たちによって経営されていた。ジェジェ(テージャス・ヴァルマー)、モントゥー(アードヴィク・モーンギヤー)、セヘル(ジャイシュリー・ゴーゴーイー)、キヤーラー(ディーパーリー・ボールカル)、ガネーシュ(スィッダーント・シャルマー)である。ところがすぐに、その子供たちは「ロケット・ギャング」を自称する幽霊であることが分かる。

 子供たちはかつて、インド最大のダンス・コンペティション番組「Dance India Dance(DID)」に「ロケット・ギャング」のチーム名で出場するダンス仲間だった。決勝戦まで進出し、強豪スコーピオンズとの激突を前に、アマルビールが仲間を乗せて無謀な運転をする自動車のせいで崖に落ちて死んでしまい、そのまま幽霊になってこのワンダー・ヴィラに住み着いていたのだった。子供たちはアマルビールたちを奴隷にしようとするが、子守歌を歌うと眠ってしまったため、その隙に彼らは脱出に成功する。

 その後、アマルビールはロケット・ギャングのことを調べ同情する。そして仲間たちを誘って自らワンダー・ヴィラに戻り、子供たちに謝罪する。死んでしまった彼らを生き返らせることはできないが、彼らを自身の身体に憑依させ、ロケット・ギャングを名乗ってDIDに出場し、彼らの夢であるDID優勝を叶えたいと申し出る。子供たちはそれを快諾する。

 こうしてダンスが上手な子供たちの霊を宿したアマルビールたちはDIDで勝ち上がり、決勝戦に辿り着く。やはり対戦相手はスコーピオンズであった。アマルビールたちは、サーヒブの発明を使って子供たちの姿を投影し、ステージ上で一緒に踊りを踊る。踊りの後、子供たちは思いを遂げ、天国に昇り、エンジェル(ランビール・カプール)と出会う。

 基本的には子供向け映画であり、ストーリーはとてもシンプルかつ観客の期待通りに進む親切設計だが、作りが安っぽく、大人の鑑賞に耐える作品ではない。しかしながら、コレオグラファー出身の監督が総力を結集して作り上げたダンス映画であり、ダンスのレベルは超一流だ。特にTVのリアリティー番組で発掘された小さなダンサーたちが大人顔負けのダンスを繰り広げ、驚かされる。主演のアーディティヤ・スィールやニキター・ダッターを含め、基本的に踊れる俳優たちが起用されており、ダンスの面で抜かりはない。

 ダンサーたちに仕事を与えるために企画されたダンス映画という点も重要だが、ホラー・コメディーである点も興味深い。ヒンディー語映画界では21世紀に入り、インド映画の枠内でホラー映画の製作が模索されてきたが、最近では本気のホラー映画よりもコメディー仕立てのホラー映画の方が受けがいいことが分かってきており、「Bhool Bhulaiyaa 2」(2022年)など、ホラー・コメディー路線の映画がよく作られるようになっている。「Rocket Gang」も幽霊が登場する映画だが、決して怖くなく、むしろ明るい雰囲気の映画だ。そして、子供たちの母親に対する慕情が最後にはあふれ出す、感動モノの映画としてまとめられている。

 成人の仲良し五人組の中に東洋人顔のメンバーが加わっているのは日本人には気になるところだ。彼はジェイソン・タムで、米国生まれの中国人である。ただ、両親の仕事の関係でデリーで育ち、ヒンディー語も流暢である。ダンスのリアリティーショー番組に出場して有名になり、過去に「Happy Phirr Bhag Jayegi」(2018年)に出演している。おそらく映画の中ではノースイースト人をイメージしているのだろうが、メインキャストに東洋人の俳優が加わるのは一般化していくのには大きな時代の変化を感じる。

 ものすごい細かい点をふたつだけ挙げる。ひとつは「こっくりさん」だ。日本で子供たちの遊びとして行われる「こっくりさん」に似たものがインドにもあり、時々映画にも登場する。「Rocket Gang」でも、主人公のアマルビールたちがワンダー・ヴィラで「こっくりさん」的な遊びをするシーンがあり、それが、ワンダー・ヴィラで働く子供たちが幽霊であることが分かるきっかけになっていた。もう一点は「かめはめ波」だ。言わずと知れた日本の少年漫画「ドラゴンボール」に登場する必殺技の名前だが、スコーピオンズのダンスの中で「かめはめ波!」と言って「かめはめ波」のポーズをする瞬間があったのを見逃さなかった。

 「Rocket Gang」は、ボスコ・シーザーの片割れボスコ・マルティスが初監督を務める、ホラー・コメディー仕立ての子供向けダンス映画である。内容は全くの子供だましで大人が真剣に鑑賞するものではないが、特に子供たちのダンスが素晴らしく、目を奪われる。ダンスを楽しむためだけなら鑑賞するのもありだろう。