Phone Bhoot

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Phone Bhoot
「Phone Bhoot」

 2022年11月4日公開の「Phone Bhoot」は、最近ヒンディー語映画界で流行りのホラー・コメディー映画である。「ヒンディー語ホラー映画」の祖と呼ばれるラームセー兄弟をはじめとして、様々な映画のパロディーも盛り込まれており、コント劇のノリの映画である。題名の「Phone」は「電話」、「Bhoot」は「幽霊」で、主人公が立ち上げた幽霊退治屋およびアプリの名前である。

 監督は「What the Fish」(2013年)のグルミート・スィン。主演はカトリーナ・カイフ、スィッダーント・チャトゥルヴェーディー、イーシャーン・カッタルの3人。他に、ジャッキー・シュロフ、シーバー・チャッダー、マヌ・リシ、プルキト・サムラート、ヴァルン・シャルマー、マンジョート・スィンなどが出演している。

 舞台はムンバイー。シェールディル・シェールギル、通称メジャー(スィッダーント・チャトゥルヴェーディー)とガリレオ・パールタサーラティ、通称グッルー(イーシャーン・カッタル)はホラー映画好きの親友であったが無職だった。両者の父親から就職を強要されていた彼らは、ある晩出会った女幽霊ラーギニー(カトリーナ・カイフ)のアイデアを盗み、幽霊退治屋「フォン・ブート」を立ち上げる。彼らは父親たちから3ヶ月以内に5千万ルピーを稼げと言われる。

 メジャー、グッルー、ラーギニーはチームを組んで、生きた人間に憑依した幽霊を成仏させて取り除く仕事を軌道に乗せる。ところが、成仏できない幽霊を組織して悪事を行っていた呪術師アートマラーム(ジャッキー・シュロフ)はグッルーとメジャーを目の敵にする。また、ラーギニーはアートマラームに囚われた、恋人ドゥシュヤントの救出しようとしていた。ラーギニーはアートマラームに捕まってしまうが、メジャーとグッルーはアートマラームの隠れ家に突入し、アートマラームを退治する。

 めでたくドゥシュヤントの魂は解放され、ラーギニーと共に成仏した。だが、アートマラームの片腕ジョニー・ドゥシュマンが復讐のために立ち上がろうとしていた。

 ハリウッドの「ゴーストバスターズ」シリーズを思わせる幽霊退治の映画で、ホラーの要素もあるものの、ほとんどギャグのようなものであり、基本的にはコメディー映画に分類して差し支えない。以前、「Bhoot Police」という似たような映画があったが全く無関係だ。

 ホラー映画好きで、オカルトのことばかりを考えて暮らしている天然ボケの男性二人組メジャーとグッルーが主人公である。彼らの部屋は、「ラーカー」と呼ばれるフランケンシュタイン的な怪物の像をはじめ、オカルトグッズが並べられており、典型的なオタク部屋だ。天然ボケなので、本物の幽霊に出会っても幽霊と気付かず、逆に幽霊に迷惑を掛けてしまう。そんな彼らがラーギニーという女幽霊と出会ったことで物語が動き出す。

 父親たちから宿題として課された多額の稼ぎを実現するため、メジャーとグッルーは幽霊退治屋「フォン・ブート」を立ち上げる。当初は冷やかしの電話しか掛かって来ないが、やがて本物の依頼が舞い込み、彼らの事業は軌道に乗り始める。

 あくまでコメディー映画なので、彼らの幽霊退治方法もギャグ要素が強い。例えばタミル人の幽霊は、タミル語映画界のスーパースター、ラジニーカーントを使って屈服させる。パンジャーブ人の魔女が刺客として現われると、今度はバングラー音楽を流して魔女を踊らせる。幽霊に対するこのようなコミカルな対処方法は、「インド初のゾンビ映画」を謳ったホラー・コメディー映画「Go Goa Gone」(2013年/邦題:インド・オブ・ザ・デッド)を思わせる。

 また、各種パロディーが散りばめられた映画で、それらひとつひとつが特定できる人にとってはさらに笑えるポイントが増えるだろう。「Gadar: Ek Prem Katha」(2001年)、「Kabhi Khushi Kabhie Gham」(2001年)、「Koi… Mil Gaya」(2003年)、「Fukrey」(2013年)など、分かりやすいものもあったが、マニアでなければ特定できないようなものもあり、近年のヒンディー語映画ではもっともマニアックな仕掛けが施されている。

 思わずクスッと笑ってしまうようなシーンは多いものの、日本のTV番組のコント劇のような安っぽさがプンプンする映画で、全体的な満足感は低い。続編を匂わす終わり方だったが、興行的にも失敗しており、「Phone Bhoot 2」が本当にリリースされるか不明である。

 「Gully Boy」(2019年/邦題:ガリーボーイ)や「Gehraiyaan」(2022年)で上り調子のスィッダーント・チャトゥルヴェーディーと、「Dhadak」(2018年)や「Khaali Peeli」(2020年)に出演していたイーシャーン・カッタルは、2020年代のヒンディー語映画界を担う新世代の俳優たちであり、彼らの共演は非常に重要だ。どちらも好演していたし、かなりダンスの腕を上げたことも確認できた。

 一方、カトリーナ・カイフはミスキャスティングだった上に演技に気合が入っていなかった。確かにA級の女優ではあるが、既に30代後半であり、20代の若い俳優たちとの共演にも無理があった。もっと若い女優を起用した方がフレッシュさがあって良かっただろう。ジャッキー・シュロフは最近、ヘンテコな役でよく顔を見る。

 「Phone Bhoot」は、カトリーナ・カイフを主演に起用し、若手で成長株のスィッダーント・チャトゥルヴェーディーとイーシャーン・カッタルも同じく主演を務める、「ゴーストバスターズ」的なホラー・コメディー映画だ。笑えるシーンは多いが、安っぽいコント劇の作りで、満足感は高くない。無理して観る必要のある映画ではないが、マニアックなパロディーが散りばめられているので、自身のマニア度を自己点検するために観るのはありだろう。