Gehraiyaan

4.0
Gehraiyaan

 2022年2月11日からAmazon Prime Videoで配信開始されたヒンディー語映画「Gehraiyaan(深み)」は、浮気を含む複雑な人間関係をじっくりと描き出した大人向けのロマンス映画である。プロデューサーはカラン・ジョーハルなど、監督は「Kapoor & Sons」(2016年)のシャクン・バトラーである。カラン・ジョーハルが監督した「Kabhi Alvida Naa Kehna」(2006年)をさらに洗練させたような内容になっている。

 キャストは、ディーピカー・パードゥコーン、スィッダーント・チャトゥルヴェーディー、アナンニャー・パーンデーイ、ダイリヤ・カルワー、ナスィールッディーン・シャー、ラジャト・カプールなどである。

 ムンバイー在住のヨーガ・インストラクター、アリーシャー(ディーピカー・パードゥコーン)は、売れない作家カラン(ダイリヤ・カルワー)と7年間付き合っていた。彼女が幼い頃、母親は自殺をしており、アリーシャーはその責任を父親ヴィノード(ナスィールッディーン・シャー)に押しつけていた。ヴィノードはナースィクに一人で住んでいた。

 ある日、米国在住の従姉妹ティア(アナンニャー・パーンデーイ)が許嫁のザイン(スィッダーント・チャトゥルヴェーディー)を連れてムンバイーにやって来る。ザインは裕福なデベロッパーで、ムンバイー近郊に住宅地を開発しようとしていた。アリーシャーとカランはアリーバーグにある別荘に呼ばれ、そこでティア、ザインと共に楽しい時間を過ごす。

 この出会いをきっかけにアリーシャーはザインと接近し、二人は肉体関係を持つようになる。また、アリーシャーはヨーガのアプリを作ろうとしていたが投資家が見つからなかった。ザインはアプリに投資し、しかも彼女にヨーガスタジオを提供する。だが、カランがアリーシャーにプロポーズし、アリーシャーも承諾したことで、アリーシャーはザインとの関係を終わらせようとする。だが、アリーシャーとカランは仲違いし、婚約はキャンセルとなる。ザインも、ティアと別れると約束し、アリーシャーとよりを戻す。その直後、アリーシャーの妊娠が発覚する。

 ザインのプロジェクトに投資する投資家がマネーロンダリングで逮捕されたことで、ザインは資金調達をしなければならなくなる。ティアが所有するアリーバーグの邸宅を売って資金を確保することにするが、そのためにはティアと別れられなくなる。ザインはティアを騙し、抵当に入れて借金するだけだと言って、彼女にサインをさせる。また、妊娠したアリーシャーが邪魔になり、ザインは彼女をヨットで殺そうとするが、彼の意図に気付いたアリーシャーの抵抗にあって海に落ち、死んでしまう。

 ザインが帰って来なかったためにティアは通報し、すぐにザインの遺体が発見される。自殺ということになったが、ザインのビジネスパートナーだったジテーシュ(ラジャト・カプール)は、アリーシャーがザインの死に関わったことを知っており、彼女にアリーバーグの邸宅に関する契約書を出させる。ティアは、邸宅が売却されたことにショックを受けるが、アリーシャーに真実を打ち明ける。なんとその邸宅は本来ならばアリーシャーの名義になるはずのものだった。ティアの父親はアリーシャーの母親と不倫関係にあり、アリーシャーはティアの父親の娘だったのである。ヴィノードもそれを知っており、母親の自殺の原因も彼女自身の不倫にあったが、ヴィノードはそれをアリーシャーに明かさなかった。

 2年後・・・。カランの婚約式でアリーシャーとティアは久々に顔を合わせる。この間、二人はほとんど連絡を取っていなかった。だが、過去を清算することを決める。

 シャクン・バトラー監督は、デビュー作「Ek Main Aur Ekk Tu」(2012年)のときからインド映画離れした映画作りをしてきた。インド映画離れというよりも、破壊的と形容してもいいくらいである。たとえば「Ek Main Aur Ekk Tu」では、主役の男女が結ばれないという結末を打ち出し、世間を驚かせた。「Gehraiyaan」からもインド映画らしさはほとんど感じられず、まるでヨーロッパ映画のようであった。

 メインとなるのは2組のカップルである。アリーシャーとカラン、ティアとザインだ。アリーシャーとティアは従姉妹で、カランと合わせて3人は長い付き合いだった。そこへザインが加わる。アリーシャーとザインが急速に惹かれ合い、浮気関係になることで、物語は動き出す。

 アリーシャーとカランの仲は冷え切っており、アリーシャーがザインになびくのは時間の問題だった。カランがアリーシャーに突然のプロポーズをしたことで、アリーシャーとザインの関係に終止符が打たれるかと思ったが、やはりアリーシャーとカランの間でわだかまりは解けず、破局に至る。そしてアリーシャーとザインの関係が復活する。ザインはティアと別れることを約束した。

 アリーシャーの妊娠により早めの選択を迫られるわけだが、そこでザインは、仕事上での資金調達の必要性から、ティアとの関係を簡単に解消できなくなる。

 また、アリーシャーと父親の関係も、彼女の心理状態に影響する。アリーシャーの母親は自殺しており、彼女は父親のせいで母親が死んだと思い込んでいた。アリーシャーは母親のようにはなりたくないと強く思っていたが、彼女の選択は知らず知らずの内に母親と同じ結末へ向かっていた。

 結局、アリーシャーを殺そうとしたザインは死に、アリーシャーとティアは未婚のままで、カランは新しい相手を見つけた。しかも、結末で全てが解決されていたわけではない。アリーシャーは、生前のザインと浮気関係にあったことをティアに明かしていなかった。結末で全てをスッキリさせるためにコントロールされた脚本ではなく、まるでリアルな人生のように、いくつかは解決され、いくつかは未解決のまま、その後も人生が続いていく、そんな切り上げ方だった。

 30代半ばになるディーピカー・パードゥコーンは、今回はスターとしてのオーラを脱ぎ捨てて、スッピンの演技をしていた。ベッドシーンにも物怖じなく挑戦しており、スターから女優への脱皮を試みようとしている意気込みがヒシヒシと感じられた。もちろん、彼女のその挑戦は、「Piku」(2015年)や「Chhapaak」(2020年)でも見られたものだが、今回の「Gehraiyaan」はキャリアベストといっていい素晴らしい演技だった。

 ディーピカーに比べると、「Gully Boy」(2019年/邦題:ガリーボーイ)でデビューしたばかりのスィッダーント・チャトゥルヴェーディーは経験が浅く、まだスターへの階段を上っている途中であるが、2010年代を支配したスター女優を相手に一歩もひるむことなくザインという物語でもっとも重要な役柄を演じ切った。

 さらに、ティアを演じたアナンニャー・パーンデーイも、「Student of the Year 2」(2019年)でデビューしたてであり、どちらかというと正統派ヒロイン路線を行くのかと思われていた。だが、「Gehraiyaan」ではディーピカーと同じく女優としての演技を目指しており、それに成功もしていた。ディーピカーとのスクリーン上の相性もよく、また少しも劣っておらず、彼女が次世代を担うスターの一角であることを強く印象づけた作品だった。

 一応ヒンディー語映画の扱いではあるが、教養層の若者の言葉遣いをリアルに再現しており、英語の台詞が混じる割合がヒングリッシュ映画並みに高い。通常のヒンディー語娯楽映画の言語設定ではない。

 「Gehraiyaan」は、シャクン・バトラー監督らしい、インド映画離れしたインド映画である。ディーピカー・パードゥコーン、スィッダーント・チャトゥルヴェーディー、アナンニャー・パーンデーイといったスター俳優たちが共演しているが、その派手なイメージとは裏腹に、複雑に絡み合う人間関係をしっかり演じる硬派なドラマ映画に仕上がっていた。いい映画である。