Forensic

4.0
Forensic

 2022年6月24日からZee5で配信開始されたヒンディー語映画「Forensic(法医学)」は、殺人事件の鑑識などを専門とする法医学者を主人公にした変わり種のスリラー映画である。

 監督は「Chhorii」(2021年)のヴィシャール・フリヤー。メインキャストはヴィクラーント・マシー、ラーディカー・アープテー、そしてプラーチー・デーサーイー。他に、ローヒト・ロイ、ヴィンドゥ・ダーラー・スィン、アナント・マハーデーヴァン、スブラタ・ダッターなどが出演している。

 真犯人は意外な人物であり、劇中では何度も予想を裏切られる。下のあらすじでは全てを明かしてしまっているため、今後観る予定がある人は読まないことをオススメする。

 ウッタラーカンド州マスーリーで、少女が誕生日に殺される事件が起こった。警察官メーガー・シャルマー(ラーディカー・アープテー)が事件の担当になる。鑑識として呼ばれたのは、メーガーのかつての恋人ジョニー・カンナー(ヴィクラーント・マシー)であった。ジョニーの兄アバイ(ローヒト・ロイ)はメーガーの姉と結婚し、2人の娘アーディヤーとアーンニャーをもうけていたが、5年前にアーディヤーは事故で死に、アバイの妻も自殺してしまった。メーガーは二人の死の責任はアバイにあるとし、アーンニャーをアバイから引き離して養育していた。以降、ジョニーとメーガーは決裂したのだった。

 ジョニーは天才的な法医学者であり、現場に残ったわずかな証拠から犯人の足取りや特徴を割り出す。だが、その一方で一人、また一人と、誕生日を迎えた少女が殺される事件が起き、連続殺人事件に発展する。ジョニーは犯人を10-12歳の少年だと推定し、容疑者として浮かび上がったローハンという少年が逮捕される。だが、ローハン逮捕後も殺人は起き続ける。

 メーガーの姪アーンニャーが死体を運んでいる動画がTV局にリークされたため、メーガーは捜査の担当から外される。同時に新しい法医学者が任命されたため、ジョニーもお役御免となる。また、アーンニャーは突然、行方不明になる。失意のメーガーはアーンニャーの身を案じながら自宅軟禁に置かれてしまう。

 一方、ジョニーは担当を外された後も捜査を独自に続け、犯人に成人男性がいることを突き止める。メーガーとジョニーはアバイの別荘へ行く。そこで二人は、アバイとアーンニャーを見つける。だが、アバイが少女たちを殺したわけではなかった。

 また、5年前にリシケーシュで同じような連続殺人事件があったことが分かる。ジョニーとメーガーは共にリシケーシュに向かい、そこで児童精神科医のラメーシュ・グプター(アナント・マハーデーヴァン)が犯人として浮上する。ラメーシュはリシケーシュで3人の少女と養子のシャシを殺していた。ラメーシュの娘ランジャナー(プラーチー・デーサーイー)はアーンニャーの主治医であり、アーンニャーの誕生日は今日だった。ジョニーとメーガーは、ランジャナーとアーンニャーの命が危ないと考え、マスーリーに急いで引き返す。

 二人がランジャナーの家に着くと、ラメーシュが一人でいた。彼も犯人ではなかった。ラメーシュの息子シャシは死んだとされていたが、なんと性転換して生きており、それがランジャナーだった。ランジャナーはアバイに呼ばれて彼の別荘に行っており、そこでアバイを刺してアーンニャーを誘拐する。ジョニーとメーガーは、ランジャナーが隠れ家にしていた廃屋に突入する。ジョニーはアーンニャーを発見し、メーガーとランジャナーは戦うが、最後はジョニーがランジャナーを撃ち殺す。

 見事なスリラー映画だった。何と言っても真犯人がなかなか分からない。一応、観客には犯人らしき者が仄めかされるのだが、それらは全て噛ませ犬であり、実は犯人ではない。そんなパターンが何度も繰り返される。最初は小人のチャーリー、次は不良少年ローハン、そして真打ちと思われたアーンニャーも真犯人ではなく、一瞬だけアバイに疑いの目が向き、すぐにランジャナーの父ラメーシュが容疑者になる。だが、彼も無関係だった。一体誰が黒幕なのか?ますます分からなくなる。

 それと同時に、天才的な法医学者であるジョニーが、現場に残された手掛かりなどから犯人の特徴を推定していく。当初は左利きで低身長という特徴が示されたため、チャーリー、ローハン、アーンニャーなどが容疑者になるのだが、再び殺人事件が起き、新たな証拠が見つかったことで、犯人は成人男性であることが分かる。そうなると容疑者はかなり絞られるのだが、アバイやラメーシュも犯人ではなかった。

 真犯人はなんとランジャナーであった。ランジャナーは女性なので、ジョニーの見立てと全く違うのだが、実は彼女は男性から女性に性転換していたというオチであった。ラメーシュが養子にした少年シャシは、幼少時に児童虐待を受けており、そのトラウマから、他人が誕生日を祝われることに異常な嫉妬を覚えていた。ラメーシュが癌になったことで精神が不安定になり、リシケーシュで連続殺人事件を起こす。被害者の中にはアバイの娘アーディヤーも含まれていた。その後、シャシは性転換手術を受けて女性になり、児童精神科医としてアーンニャーの診断もしていた。

 ランジャナーは父親から児童のマインドコントロール術を受け継いでおり、子供を意のままに操ることができた。彼女が狙うのは誕生日を迎えた少女だけだが、それ以外の子供は洗脳して操り、遺体の処理などをさせていた。だからジョニーの鑑識により連続殺人の容疑者としてまずは子供が浮かび上がったのだった。

 ヴィクラーント・マシーやラーディカー・アープテーの演技も良かったが、連発される大どんでん返しと同じくらい驚いたのは、ランジャナーを演じたプラーチー・デーサーイーの演技だった。どちらかといえばきれいどころの女優で、「Rock On!!」(2008年)での幸運な映画デビュー以来、演技力よりも雰囲気で売っていたが、ヒット作が続かず伸び悩んでいた。4年の空白期間を経て「Silence… Can You Hear It?」(2021年)でカムバックした。この「Forensic」で彼女が演じたのは、元男性、児童虐待のトラウマを抱え、児童を洗脳する特殊能力を持った連続殺人犯というかなり込み入ったキャラであり、その演技も鬼気迫るものがあって、彼女の強い意気込みを感じずにはいられなかった。今後、大化けするかもしれない。

 また、法医学者ジョニーが犯人特定のため、最新テクノロジーを駆使していたのが印象的だった。現場に残された足跡から3Dモデルを構成し、それを3Dプリンターで模型にして、犯人に小さな子供が含まれている可能性を指摘した。犯行に使われた廃屋を、これまた3Dスキャナーでデータ化し、内部構造を明らかにした。さらに、FDPという聞き慣れない技術も紹介されていた。これは「Forensic DNA Phenotyping」の略で、DNAサンプルからその人の容姿を構築することが可能という最先端技術である。これによって、真犯人がランジャナーであることが発覚したのだった。

 「Forensic」は、犯罪映画などで普段は脇役として登場しがちな鑑識官および法医学者にスポットライトを当てたユニークなスリラー映画である。どんでん返しに次ぐどんでん返しが心地よいサプライズを与えてくれる。また、最近好調のヴィクラーント・マシー、演技派女優の一角を担うラーディカー・アープテーが好演している他、プラーチー・デーサーイーが確変モノの鬼気迫る演技を見せており、注目である。観て損はない映画だ。