Jersey

3.5
Jersey

 2022年4月14日公開の「Jersey(ジャージ)」は、2019年に公開され大ヒットとなった同名テルグ語映画のヒンディー語リメイクである。遅咲きのクリケット選手を主人公にしたスポーツ映画だ。

 ヒンディー語版の監督は、テルグ語版原作の脚本を書き監督したゴウタム・ティンナヌーリがそのまま担当している。そのため、原作の忠実なリメイクだと思われる。音楽も、両方ともアニルッド・ラヴィチャンダルだ。

 ヒンディー語版の主演はシャーヒド・カプール、ヒロインはムルナール・タークル。他に、シャーヒド・カプールの父パンカジ・カプール、ギーティカー・メハンドル、ローニト・カムラー、プリト・カマーニーなどが出演している。

 舞台はチャンディーガル。アルジュン・タルワール(シャーヒド・カプール)は1980年代にクリケットの国内カップであるランジー杯で活躍したクリケット選手だったが、26歳のとき、ヴィディヤー(ムルナール・タークル)との駆け落ち結婚を機に引退し、下級役人として働いていた。だが、職場の汚職事件に巻き込まれ停職となり、その後は裁判が続いていた。ヴィディヤーはホテルで働いていたが、アルジュンは無職だった。二人の間にはケータン(ローニト・カムラー)という息子がいた。アルジュンは36歳になっていた。

 ケータンは誕生日にインド代表のジャージを父親にねだったが、アルジュンにはそれを買うための500ルピーの持ち合わせもなかった。かつてアルジュンの才能を見出して伸ばしたコーチ、バーリ(パンカジ・カプール)は、チャンディーガルで開催されるパンジャーブ・チーム対ニュージーランド代表のチャリティー親善マッチに彼を推薦する。アルジュンはクリケットと関わるのを頑なに拒絶していたが、ケータンへの誕生日プレゼントを何としてでも買ってあげたかったため、金欲しさに試合に出場する。この試合でアルジュンは大活躍し、世間の注目を集める。だが、出場しても金はもらえず、アルジュンは失望する。結局彼は息子にジャージを買ってあげられなかった。

 アルジュンはパンジャーブ・チームの副コーチに誘われていたが、彼は考えを変え、現役選手として復帰することを決意する。36歳のアルジュンの現役復帰をまともに取り合う者は、妻を含め、周囲にいなかったが、息子だけは彼の夢を応援してくれる。アルジュンはランジー杯のパンジャーブ州代表選手に選ばれ、試合で活躍する。アルジュンのおかげでパンジャーブ・チームは決勝戦まで勝ち進む。

 しかし、アルジュンは体調不良を訴えるようになっていた。決勝戦で彼はカルナータカ・チームと対戦する。アルジュンはオープナーとして孤軍奮闘し、カルナータカに競り勝つ。だが、その2日後に彼は心臓発作で死んでしまう。

 2022年。アルジュンの息子ケータンは、スポーツジャーナリストのジャスリーン・シェールギル(ギーティカー・メハンドル)が出版したアルジュンの伝記出版イベントに母親と共に出席する。そこでアルジュンの主治医から、アルジュンは26歳のときから自分が不整脈であり、クリケットを続けることでいつでも命に危険があることを知っていたと明かされる。また、死の直前、アルジュンはインド代表に選ばれていたことも分かる。ケータンは、パンジャーブのクリケット協会からインド代表のジャージを受け取る。

 高年齢のスポーツ選手が現役復帰するという映画は、ヒンディー語映画界のスターたちが高年齢になってきたからか、好んで作られるようになってきている。アクシャイ・クマール主演の「Brothers」(2015年)、サルマーン・カーン主演の「Sultan」(2016年/邦題:スルタン)、そしてカンガナー・ラーナーウト主演の「Panga」(2020年)などが挙げられる。この「Jersey」もカムバック型スポーツ映画の一種といえる。また、カムバックではないが、同じ2022年4月には、41歳でデビューした実在のクリケット選手プラヴィーン・ターンベーの伝記映画「Kaun Pravin Tambe?」(2022年)があった。

 主人公のアルジュンは、技術と経験を兼ね備えた超一流の選手だった。だが、26歳のときに突然現役を引退し、その後は下級役人として細々と生活するようになる。しかも、汚職事件に巻き込まれて停職になり、事実上無職の状態だった。彼はまともに職探しもせずに妻の収入に頼って情けない人生を送っていた。そんな彼が再びクリケット選手として現役復帰を試みる。

 観客には、アルジュンが現役引退した理由は、ヴィディヤーとの結婚だと説明される。ヴィディヤーの父親は、娘が三文クリケット選手と結婚することを許さず、最終的に二人は駆け落ちをするのだが、結婚した途端に彼はクリケットを辞め、仕事をし始める。だが、彼がクリケットを辞めた理由はそれだけなのか、どこか釈然としないところが残る。

 このまま終わっていたら消化不良だったのだが、映画の最後でアルジュンが引退した本当の理由が明かされる。彼は不整脈で医者からクリケットを止められていたのである。ヴィディヤーとの結婚を機に、彼はクリケットよりもヴィディヤーを選んだことには変わりがないが、その理由はもっと深いところにあったのである。

 クリケットを失ったことで彼は生き甲斐を失ったが、それでもまだ彼には愛するヴィディヤーがいた。だが、不幸にも無職になったことで、彼は尊厳まで失ってしまう。妻の収入に頼るヒモになり、次の職を探すこともしなかった。唯一の救いは、息子のケータンが無条件に慕ってくれることだった。

 ケータンがインド代表のジャージを誕生日プレゼントに欲しがったことかきっかけとなり、アルジュンはクリケット選手に復帰する。題名になっている「Jersey」とはもちろんこのことだ。復帰してからのアルジュンは10年のブランクを感じさせない快進撃をするが、その展開はあまりに単純すぎるように感じた。クリケットの試合をじっくり見せるような映画でもなく、各試合はかなり駆け足で描写される。映画のクライマックスになっていた、ランジー杯での対カルナータカ戦だけは、時間を掛けてスリリングに描かれていたが、先の見える展開ではあった。

 妻のヴィディヤーが夫の現役復帰に理解がなかったことも気になる点だった。ヴィディヤーはクリケット選手としてのアルジュンの大ファンであり、それがきっかけで彼と付き合うようになって駆け落ち結婚までした。生き甲斐だったクリケットを失ったアルジュンが屍のようになっていたのを一番そばで見ていたのも彼女のはずである。それなのに、アルジュンが現役復帰を決めたとき、彼女はそれを支えてあげられなかった。最終的には彼女もアルジュンを後押しするのだが、そこに至るまでの長い冷遇期間は、よく理解できなかった。

 ヴィディヤーの行動が微妙だったこともあって、「Jersey」はより父と子の物語として輪郭がはっきりしていた。アルジュンがカムバックしたのも息子の言葉がきっかけであり、たとえ死のうとも、たとえ妻の理解が得られなくとも、息子が応援してくれる限り、アルジュンはクリケットを続けようという気持ちを維持することができた。題名になっているジャージも、アルジュンがケータンに贈ると約束したアイテムであり、それは何十年もの時を経て果たされるのである。

 シャーヒド・カプールは撮影時40歳前後だったはずだが、元々童顔のため、20代~30代の役を演じるのにも無理は感じない。クリケットのフォームもしっかり学んだようで、天才クリケット選手としてのオーラを十分に感じた。ヴィディヤーを演じたムルナール・タークルも好演していたし、ケータンを演じた子役俳優ローニト・カムラーは絶賛に値するだろう。また、シャーヒド・カプールとパンカジ・カプール父子の共演も特筆すべきだ。二人の共演は「Shaandaar」(2015年)以来2回目である。また、パンカジ・カプールが監督した「Mausam」(2011年)でもシャーヒドは主演を務めたことがあった。

 「Jersey」は、同名テルグ語映画のヒンディー語リメイクであり、同じ監督が撮っている。クリケットを題材にしたカムバック型のスポーツ映画である。原作は大ヒットになったが、ヒンディー語版は興行的に失敗に終わった。シャーヒド・カプールの演技などはいいし、ストーリーも父子の絆を中心にした心温まるものだが、二番煎じ感が強かったためか、うまくいかなかったようだ。とはいえ、観て損はない映画である。