A Thursday

3.0
A Thursday

 2022年2月17日からDisney+ Hotstarで配信開始されたヒンディー語映画「A Thursday」は、幼稚園児16人を人質に取って立て籠もった幼稚園教諭の物語である。

 監督は「Blank」(2019年)のベヘザード・カンバーター。主演はヤミー・ガウタム。他に、アトゥル・クルカルニー、ネーハー・ドゥーピヤー、ディンプル・カパーリヤー、カランヴィール・シャルマー、マーヤー・サラーオ、カリヤーニー・ムレー、ボロラーム・ダース、シュバーンギー・ラトカルなどが出演している。

 舞台はムンバイー。ある木曜日、幼稚園教諭のナイナー・ジャイスワール(ヤミー・ガウタム)は、4週間の休暇を3週間で切り上げて仕事に復帰した。幼稚園は、ナイナーの許嫁ローヒト(カランヴィール・シャルマー)の家を間借りして運営されており、16人の園児を預かっていた。園児たちがアニメを観ている間、ナイナーは警察に電話をし、16人の園児を人質に取ったと自ら通報する。また、たまたま幼稚園を訪れた、二ハーリカーという子供の運転手ゴーヴェーカル(ボロラーム・ダース)と、園でアシスタントをするサーヴィトリー(カリヤーニー・ムレー)も捕まる。

 まず現場を訪れたのはキャサリン警部(ネーハー・ドゥーピヤー)だった。キャサリン警部と連絡を取ったナイナーは、ジャーヴェード・カーン警部補(アトゥル・クルカルニー)を呼ぶように要求する。ジャーヴェード警部補が到着すると、ナイナーは1時間以内に5千万ルピーを彼女の銀行口座に振り込むように言う。要求が聞き入れられないなら、子供を一人ずつ殺していくと脅す。

 キャサリン警部は突入して一気に片を付けようとするが、メディアが現場の状況を生中継していたために警察の動きがナイナーに筒抜けになってしまった。ナイナーはライブでアーカーシュという子供を殺す。この失態によりキャサリン警部は担当を外され、代わりにジャーヴェード警部補が担当となる。

 ナイナーは5千万ルピーの振り込みを確認すると、今度はラーケーシュ・マートゥルとチャラン・スィンという2人の男性を連れてくること、そして首相を呼んでくることを要求する。また、ナイナーは少しずつ人質を解放していく。アーカーシュも実は生きていた。

 ちょうどその頃、ムンバイーをマーヤー・ラージグル首相(ディンプル・カパーリヤー)が訪れていた。事件を知ったラージグル首相は現場を訪れる。一方、キャサリン警部は、ナイナーの家を捜索し、ラーケーシュも発見する。また、ジャーヴェード警部補はナイナーの母親クスム(シュバーンギー・ラトカル)から事情を聞く。

 ようやくナイナーの動機が明らかになってきた。ナイナーは16歳の頃にレイプの被害に遭っていたが、犯人は捕まらなかった。その事件を担当していたのがジャーヴェード警部補だった。ナイナーは首相に対し、強姦犯の極刑を要求する。そして、自分をレイプしたのが、捕虜にしたゴーヴェーカルであると明かす。ゴーヴェーカルは実はチャラン・スィンだったが、名前を変えて、園児の運転手をしていた。ナイナーは首相やジャーヴェード警部補の目の前でゴーヴェーカルを殺す。ナイナーは逮捕されるが、ナイナーの主張は世論を動かした。

 幼稚園教諭が園児を人質に取って首相との面談を要求するというショッキングな内容のクライムサスペンス映画だった。その行動も衝撃的であるが、序盤では主人公ナイナーの動機がよく分からず、サスペンスを生んでいた。一旦は、ナイナーは鬱病であることが分かり、病的な衝動によってこのような犯罪を犯しているのかと思われるが、最後には彼女は14年前にレイプされた被害者であることが分かる。ナイナーは強姦犯の極刑と強姦被害者の救済を求めて、このような極端な行動に出たのだった。

 人質を取るなどして世間の注目を集め、自分の主張を広く宣伝するという流れの映画は、過去に「Madaari」(2016年)があった。また、似たような題名の映画「A Wednesday!」(2008年)も、一般市民が警察を翻弄して目的を達成しようとする筋の物語だった。

 ナイナーの動機が過去のレイプだったというのは、意外性という点ではパンチ力不足だ。主人公のナイナーだけでなく、女性の警部、女性の首相など、「A Thursday」には女性の登場人物が多く、それが意図的なものだと仮定すれば、映画が何かしら女性問題と関係していることは容易に推測できたからである。また、レイプ問題を扱った映画はこの10年間で多く作られるようになり、食傷気味になってきていることもある。

 ただ、映画が発信したいメッセージは明確である。2012年のデリー集団強姦事件を受けてレイプの厳罰化や裁判の迅速化などの法整備が進んだが、インドにおいて強姦事件は減少していない。その抑止のためには極刑しかないというのがナイナーの主張であり、それがそのまま映画の主張になっていた。

 「A Thursday」に弱さを感じたのは、ナイナーの動機だけではない。一人の素人の女性が拳銃を片手に園児を人質に取って警察や首相と対峙するという筋書きはあまりに非現実的だったのである。しかも、思い立ってから実行までは3週間しか経っていないことになっている。どこで銃を手に入れ、どこで銃の扱い方などの訓練を受けて、このような犯行を犯したのか、全く説明がない。

 キャサリン警部とジャーヴェード警部補の関係も、もっと掘り下げると面白かったかもしれない。二人は元々夫婦だったが、子供ができず、別れているようだった。キャサリン警部は別の男性と再婚して妊娠しており、大きなお腹を抱えて指揮を執っていた。しかも、ジャーヴェード警部補の上司となっている。

 ジャーヴェード警部補はすぐに発砲するスーパーコップとして知られていたようだが、なぜかこのナイナーの事件に関しては、キャサリン警部の方が先走った行動をしており、ジャーヴェード警部補がブレーキを踏む役に徹していた。

 ヤミー・ガウタムは2010年代に順調にキャリアアップしてきた女優であり、初めて単独の主演を勝ち取った。サイコな役柄を鬼気迫る演技で表現していたが、まだ演技に自然さがないように感じた。むしろ印象に残ったのはネーハー・ドゥーピヤーだ。「Sanak」(2021年)に引き続き、テキパキと現場の指揮を執る女性警官を演じていた。かつてセクシー系女優として名前を売っていた頃とは打って変わったスッピン勝負の演技で、一皮剥けた女優になった。

 往年の女優ディンプル・カパーリヤーは女性首相役を演じていた。インド政治史において女性首相といえば、1966年から77年、そして1980年から84年まで首相を務めたインディラー・ガーンディー以外にいない。だが、「A Thursday」は現代が舞台の映画である。インディラーに影響を受けたキャラではあったが、完全に一致はしていない。秘書から「感情的な決断をしてはいけない」と諫められるシーンがあったが、これは女性リーダーへの偏見を示しているのだろう。この点でも女性問題を扱った映画といえる。ただ、ディンプル演じるラージグル首相は、その諫言に対し感情を理解した決断をすることの重要性を唱えていた。

 様々な最新テクノロジーがさりげなく小道具として使われていたのは興味深かった。幼稚園の扉は電子ロックになっていたし、ナイナーはスマートフォンを使ったライブ配信を活用して自分の主張を世間に伝えていた。ナイナーが園児たちにヘッドフォンを付けさせ、同時に音楽を流していたのは、サイレントディスコ用のヘッドフォンであろうか。

 「A Thursday」は、幼稚園教諭が園児を人質に取って警察に要求を突き付けるクライムサスペンス映画である。主人公である犯人の動機が当初はよく分からないため、サスペンスがある。だが、その動機に意外性は少なく、事件の流れにも現実感は少ない。順調にキャリアアップしてきたヤミー・ガウタムが主演を張るまでに成長した姿や、グラマラスなイメージのあったネーハー・ドゥーピヤーが迫真の演技をしていたことなど、いくつか見所のある作品だった。