A Wednesday!

4.0
A Wednesday!
「A Wednesday!」

 ここのところ、毎週すさまじい数の映画が公開されており、落ち着く暇がない。さすがにこのペースだと片っ端から全ての映画を観ることは不可能であり、先週は「Chamku」、「Mukhbir」、「C KKompany」を見送った。2008年9月5日にも3本同時公開。その中でもっとも評価の高そうな「A Wednesday!」を観ることにした。

監督:ニーラジ・パーンデーイ
制作:ロニー・スクリューワーラー
出演:ナスィールッディーン・シャー、アヌパム・ケール、ジミー・シェールギル、アーミル・バシール、ディーパル・シャー、チェータン・パンディト、ヴィーレーンドラ・サクセーナー、ガウラヴ・カプールなど
備考:PVRプリヤーで鑑賞。

 ムンバイー警察の警視総監プラカーシュ・ラートール(アヌパム・ケール)は、ある水曜日、謎の男(ナスィールッディーン・シャー)から電話を受ける。男は、ムンバイーの5ヶ所に爆弾を仕掛けたと伝える。ラ-トール警視総監は州首相(チェータン・パンディト)から全権を委任され、極秘で対策を取り始める。アーリフ・カーン(ジミー・シェールギル)とジャイ・プラタープ・スィン(アーミル・バシール)が直属の実働部隊として動き、情報を収集する。また、ニュース番組のアナウンサー、ナイナー・ロイ(ディーパル・シャー)のところにも男から電話があり、カメラマンと共に警察へ取材へ行く。

 男の要求は、服役中のテロリスト4人の釈放であった。男は本気であることを示すため、5つの爆弾の内、1つの場所を教える。それは警察本部の建物であった。捜索の結果、RDXが見つかり、男の言うことが悪戯ではないことが分かる。ラ-トール警視総監は男の要求に従い、アーリフとジャイに四人のテロリストを護送させる。だが、アーリフは四人をみすみす釈放することに納得が行かず、その内の一人、イブラーヒーム・カーンを連れ戻す。ところが、残りの三人のテロリストは、仕掛けてあった爆弾によって爆死してしまう。

 男は、テロリストを解放しようとしていたのではなく、殺そうとしていたのだった。男は自分のことを「ただの庶民」と表現し、インドの罪のない市民たちを恐怖に巻き込んだテロリストたちを、同じテロの手法で抹殺しようとしたのであった。男は、爆弾の位置情報と引き替えにイブラーヒーム・カーンの殺害も要求する。ラ-トール警視総監はそれを認め、イブラーヒーム・カーンを殺させる。四人のテロリストが死んだことを確認した男は、他に爆弾はないと伝え、電話を切る。

 だが、ラ-トール警視総監はこのときまでにハッカーを雇っており、電話から男の居場所を突き止めることに成功する。単身現場へ急行すると、一人の男とすれ違った。ラ-トール警視総監はその男が犯人だと知っていながら見逃す。なぜなら、彼のやったことは間違いとは言えないからである。

 映画は、定年退職間近の警視総監プラカーシュ・ラートールが、在任中に一番印象に残った事件を思い出すという構成になっていた。だが、その事件は公式記録には残っておらず、ただ彼の記憶の中にある事件であった。なぜそれほど彼の心に残った事件が、記録には残らなかったのか?それが100分の上映時間の中で語られる。

 それは、ある水曜日に起こった爆弾テロ未遂事件であった。

 爆弾テロの犯人と警察との間の駆け引きと書くと、テロ時代を迎えた21世紀には珍しくないプロットの映画だと感じられるだろう。実際、そのような映画はいくつも作られている。「A Wednesday!」は、スピーディーかつスリリングな展開のおかげで退屈しなかったものの、もしそれだけだったら多少失望と共に映画館を去ることになっただろう。

 だが、この映画の真価はそこにはない。驚くべきことに、テロの犯人は、プロのテロリストではなく、テロに怯える一般庶民なのである。テロがいつまでも撲滅されないことに苛立った「庶民」の男は、たった4週間の準備期間により、爆弾テロを計画する。彼の目的は、テロによって一般人を無差別虐殺したり恐怖のどん底に突き落とすことではなく、逆にテロリストを抹殺することであった。彼は4人のテロリストを無作為に抽出し、爆弾テロの手法を使って警察を脅して彼らを抹殺する。

 果たしてその手法が正しいのか間違っているのか、映画の中では答えが出されていない。だが、ラ-トール警視総監自身は、最後に彼を捕まえるチャンスがありながらわざと見逃すことで、完全なる間違いではないと結論づけている。

 情報化社会を迎え、爆弾の作り方までネットで知ることができるようになった今、テロを利用できるのはテロリストだけではないという逆転の発想が衝撃的なメッセージとなって映画から発出させられていた。非常に物議を醸しそうな作品だと言える。

 しかし、そのメッセージを伝えるために、映画では下の手段とされる演説の手法が採られていたため、端折った印象は否めなかった。映像でそのメッセージが伝えられていたら満点だっただろう。

 ナスィールッディーン・シャーとアヌパム・ケールという二人のベテラン男優の好演が、映画の緊迫感を支えていた。いつの間にかジミー・シェールギルも渋い演技ができる俳優になっており、驚いた。アーミル・バシール、チェータン・パンディトなどもいい演技をしていた。ディーパル・シャーは、「Kalyug」(2005年)でデビューした女優だが、今回久々にスクリーンで見た。しかし将来性はなさそうだ。

 「A Wednesday!」は、爆弾テロ犯と警察との緊迫感溢れる攻防が売りの映画だと思いきや、ただの庶民がテロの手法によってテロリストを殺すという驚きの結末を迎える奇作である。庶民が爆弾テロ実行犯にさせられてしまう危険性を描いた「Aamir」(2008)と共に、テロを題材にした突然変異的映画としてカテゴライズできそうだ。