Badhaai Do

4.5
Badhaai Do

 いい年をした母親が妊娠してしまったことから平凡な一家に起こったドタバタ劇を描いた「Badhaai Ho」(2018年)は、その類い稀なシチュエーションとウィットに富んだ展開が受け、その年を代表する大ヒットとなった。2022年2月11日公開の「Badhaai Do(祝ってくれ)」は、題名が似ていることからも分かる通り、「Badhaai Ho」の制作陣が再結集して作られた映画である。しかも、今回の主題は、今流行の同性愛だ。

 プロデューサーのヴィニート・ジャインは、世界最大の英語紙Times of Indiaなどを発行するベネット・コールマン社の社長であり、「Badhaai Ho」も製作した。脚本は、「Badhaai Ho」と同じアクシャト・ギルディヤールなどである。ただ、監督は交代し、「Hunterrr」(2015年)のハルシュヴァルダン・クルカルニーになった。

 主演はラージクマール・ラーオとブーミ・ペードネーカル。どちらもヒンディー語映画界を代表する演技派俳優で信頼性がある。他に、チャム・ダラング、スィーマー・パーワー、シーバー・チャッダー、グルシャン・デーヴァイヤー、ラヴリーン・ミシュラー、ニテーシュ・パーンデーイ、ディーパク・アローラー、アペークシャー・ポールワールなどが出演している。

 シャールドゥル・タークル(ラージクマール・ラーオ)はデヘラードゥーンの女性専用警察署に勤める警察官だった。彼はゲイで、カビール(ディーパク・アローラー)という恋人がいたが、ハルドワーニーにいる家族には黙っていた。一方、学校で体育教師をするスマン・スィン(ブーミ・ペードネーカル)はレズであったが、やはり家族には言えていなかった。スマンにはかつてコーマル(アペークシャー・ポールワール)という恋人がいたが、彼女は男性と結婚し、子供もできていた。シャールドゥルもスマンも家族から激しい結婚圧力が掛かっていた。

 ある日、シャールドゥルはスマンと出会い、彼女の性的指向も知る。カーストも一致していた。そこで、同性愛者同士結婚し、ルームメイトとして暮らすことを提案する。スマンもそれに同意し、二人の結婚式が執り行われる。シャールドゥルはカビールと別れてしまったが、スマンは病院に勤めるリムジム・ジョンキー(チャム・ダラング)と恋仲になり、同棲し始める。彼らは警察官用のアパートに住んでいたため、周囲には「いとこ」ということで説明していたが、疑いの目で見られていた。また、シャールドゥルには弁護士グル・ナーラーヤン(グルシャン・デーヴァイヤー)という新しい恋人ができる。

 結婚から1年が経ち、子供ができないことを両家からいぶかしがられるようになる。そこでシャールドゥルは、ディーワーリーで帰郷した際に、スマンが不妊症であると言い訳をするが、心配した叔母(スィーマー・パーワー)はスマンの検査をし、正常であることが分かる。叔母は、シャールドゥルの母親(シーバー・チャッダー)を偵察のため、二人と一緒に住まわせる。同棲していたリムジムは急いで外に出る。

 今度はスマンがシャールドゥルの母親に、彼が無精子症であると言う。リムジムが勤める病院で検査をし、結果を捏造して、シャールドゥルは無精子症ということになる。だが、おかげで養子縁組をすることができるようになる。二人は孤児院を訪れ、手続きを始める。ところが、母親にスマンとリムジムが情事をしているところを目撃されてしまう。

 スマンは実家に戻され、シャールドゥルの実家では家族会議が開かれる。そこでシャールドゥルは自分もゲイであることを告白する。一度はスマンと離婚しようともするが、同性愛者のカップルは養子縁組できないという事実を知り、子供を手に入れるため、結婚を維持する。シャールドゥル、スマン、グル、そしてリムジムは一人の子供の親となる。

 おそらくインドの各映画界の中でもっともLGBTQに積極的なのはヒンディー語映画界だ。近年、本当に多くのLGBTQ映画が作られるようになった。先日も性転換者を主人公にした「Chandigarh Kare Aashiqui」(2021年)が公開されたばかりだが、この「Badhaai Do」はどちらかといえば、それより前に公開された「Hum Bhi Akele, Tum Bhi Akele」(2021年)に近い。同性愛者の男女が家族や世間の奇異な視線や圧力から逃れるために結婚しようとする筋書きである。

 ただし、「Hum Bhi Akele, Tum Bhi Akele」は同性愛者同士が結び付く結末を避けていたことから、同性愛者にとっては肩透かしの内容だったかもしれない。それに比べたら「Badhaai Do」は、同性愛者同士が結び付く上に、その先に起こることまで描写する努力をしており、より一歩先んじたLGBTQ映画と評することができる。

 まず、やはりLGBTQ映画にとってもっとも重要なのは、カミングアウトの描写だといわれている。特に、家族に対するカミングアウトだ。この瞬間を丁寧に描写したLGBTQ映画は、同性愛者たちから高い評価を受ける傾向にある。その点、「Badhaai Do」はインド映画史上最高レベルといえるほどカミングアウトのシーンを情緒的に描き出していた。

 主人公シャールドゥルの家族は、ジョイントファミリー制を採る保守的な家系である。また、劇中ではカーストにこだわる場面がいくつか見られたが、彼らは「タークル」、つまりラージプートであり、上位カーストに位置づけられる地主階級だ。一家からは軍人や警官を輩出しており、尚武の気風まである。そんなタークル家にとって、家族内から同性愛者を出すことは、その家の名誉を汚すことに他ならない。シャールドゥルの妻スマンがレズビアンであることが発覚すると、彼らは「同性愛者には虫唾が走る」と嫌悪感を露にする。だが、そんな家族の前でシャールドゥルはスマンを擁護し、自分も同性愛者であることをカミングアウトする。そして、カミングアウトしたことをスマンに涙ながらに報告する。

 スマンの新恋人はリムジムというノースイースト系の女の子だった。映画の中で出身地は明示されていなかったと思われるが、リムジムを演じるチャム・ダラングはアルナーチャル・プラデーシュ州出身である。ノースイースト系の俳優がヒンディー語映画に登場するのは珍しい上に、レズビアン役ということで、かなりセンセーショナルなキャスティングと人物設定だ。ノースイーストの女性たちはメインランドのインド人から「性的にオープン」という偏見を持たれ、差別の対象になることが多く、「Badhaai Do」でのこの描写の仕方はなまじっかそのイメージを助長してしまう恐れもあるのだが、映画に面白い効果をもたらしていたのも確かだ。例えば、スマンとリムジムが同棲し始めたとき、周囲には「いとこ」ということで説明をしていたが、見た目が明らかに違う二人が「いとこ」であることは普通有り得ないのである。

 同性愛者がどのように恋人を見つけているのかは、異性愛者からすると興味深い点である。「Badhaai Do」でも、残念ながらその過程はオブラートに包まれたままだった。シャールドゥルとグル、スマンとリムジム、どちらの出会いも大いに直感に依存するもので、お互い阿吽の呼吸で通じ合っていた。

 「Badhaai Do」は優れた映画なのだが、LGBTQ映画として新たな地平を切り拓く内容でもあった。それは、同性愛者カップルの養子縁組問題に切り込んでいたことである。インドでは2018年に同性愛が合法化されたが、これは単なる第一歩であり、まだまだ同性愛を巡る問題は山積している。インド社会に同性愛者に対する差別が根強く残っていることは「Badhaai Do」などのLGBTQ映画で指摘されている通りだ。また、同性の結婚もまだ合法化されていない。それに加えて子供が欲しい同性愛者カップルにとって大きな問題なのが、同性愛者カップルに養子縁組が認められていないことである。「Badhaai Do」ではたまたま同性愛者の男女が結婚し、男性側が(偽造ではあるが)無精子症の検査結果を持っていたために、養子縁組をすることができた。だが、一般的な同性愛者カップルは、いくら子供が欲しくても養子をもらうことはできない。

 「Badhaai Do」において、シャールドゥルとスマンがセックスをして子供を作るという解決法も提示されてはいた。だが、二人とも同性愛者であり、いくら子供を作るためとはいえ、異性とセックスをすることがなかなかできなかった。しかも、スマンの恋人であるリムジムは、スマンがシャールドゥルとセックスすることを認めなかった。同性愛者には、生物学的に、また感情的に、こういう難しい事情があるのだということを知るのは新鮮な体験である。この辺りが丁寧に描写されていたのも「Badhaai Do」が高く評価されている理由のひとつであろう。

 ラージクマール・ラーオとブーミ・ペードネーカルの演技は今更改めて取り上げるまでもない。どちらもキャラクターの中に入り込み、物語と調和する、素晴らしい演技だった。また、ラージクマールはボディービルダーとして身体作りもしていた。そういえば「Chandigarh Kare Aashiqui」でも主演のアーユシュマーン・クラーナーがボディービルディングをしていた。どうもゲイというと筋肉バカというイメージがあるようだ。

 「Badhaai Do」は、同性愛者同士が家族や世間の目を欺くために偽装結婚するという筋書きのLGBTQ映画である。同性愛者がこのような映画に対してもっとも期待するのはカミングアウトのシーンであるが、とても繊細に描かれていた。その上、同性愛者カップルの養子縁組問題にも触れており、現在最先端のインド製LGBTQ映画と評価できる。2022年最初の話題作であり、同性愛者だけでなく、全ての人にとって必見の映画である。