Antim: The Final Truth

3.5

 ヒンディー語映画界に20年以上君臨する3カーンの一人、サルマーン・カーンは、他のカーンと同じくプロデューサー業にも進出している。自分が主演の映画もプロデュースするのだが、若い才能にもチャンスを与えている。今まで、「Hero」(2015年)、「Loveyatri」(2018年)、「Notebook」(2019年)など、若手俳優主演の映画をプロデュースしている。

 2021年11月26日公開の「Antim: The Final Truth」は、マラーティー語映画「Mulshi Pattern」のリメイクである。プロデューサーはサルマーン・カーン、監督はマヘーシュ・マーンジュレーカル。サルマーン・カーン自身も出演しているが、主演といえるのは、「Loveyatri」(2018年)でデビューしたアーユシュ・シャルマーである。ヒロインは、テルグ語映画に出演作があるもののヒンディー語映画は初となるマヒマー・マクワーナー。他に、ローヒト・ハルディーカル、ジーシュー・セーングプター、ニティン・ディール、サチン・ケーデーカル、ウペーンドラ・リマエー、サーヤージー・シンデーなどが出演している。また、マヘーシュ・マーンジュレーカル監督自身も端役で出演している。それに加えて、ヴァルン・ダワンが「Vighnaharta」で、ワルーチャー・デスーザが「Chingari」で特別出演している。

 題名の「Antim」とは、「最後の」という意味の形容詞である。

 ラーフル(アーユシュ・シャルマー)の父親ダッターラーム(サチン・ケーデーカル)は、かつては有名な力士だったが、娘の結婚式のために土地を売り払い、現在は自分がかつて持っていた土地の警備員をして生計を立てていた。だが、その土地からも追い出され、家族と共にプネーにやって来る。ダッターラーム、ラーフル、そして彼の親友ガニヤー(ローヒト・ハルディーカル)は市場の人夫として働き出す。

 しかし、ラーフルとガニヤーは市場を牛耳っていたサルヴィーに刃向かい、逮捕される。そのとき初めて、ラージヴィール・スィン警部補(サルマーン・カーン)と顔を合わせる。刑務所でギャングのボス、ナニヤー(ウペーンドラ・リマエー)に認められたことで、二人はすぐに釈放され、彼の忠実な部下となる。早速二人はサルヴィーを殺し、再び逮捕されるが、証拠不十分のために釈放される。さらに、農村の地上げに関わるようになり、ラーフルは、農民の土地売却に反対していた教師まで殺す。それもナニヤーや、彼と親しい州議会議員アンビールの意向でお咎めとなる。遂にラーフルはナニヤーまで殺し、プネーのドンとなる。

 ラージヴィール警部補は、ラーフルの台頭を冷静に見守っていた。あるギャングを一網打尽にしても、また次に新たなギャングが現れることを彼は知っていた。しかも、ギャングは政治家と密通しており、逮捕してもすぐに釈放されるのが常だった。そこでラージヴィール警部補はギャング同士を争わせることにする。ラーフルと対立するピティヤー(ジーシュー・セーングプター)のギャングに情報を流すことで、うまるラーフルとピティヤーの抗争を作り出し、殺し合いをさせる。

 ラーフルは今や巨万の富を築き上げていたが、両親や妹からは疎外され、孤独を感じていた。また、市場で出会って恋に落ちたマンダー(マヒマー・マクワーナー)にも絶縁されてしまった。マンダーは別の男性と結婚することになり、しかも妊娠していた。ラーフルは、それが自分の子供だと考えたが、どうすることもできなかった。父親からは、全ての罪を償ったら受け入れると言われる。

 その頃、ラーフルの身に危険が迫っていた。ガネーシュ・チャトゥルティー祭の日、ラーフルに対して暗殺の指令が出ていたが、その場に彼はいなかったため、ガニヤーだけが犠牲になった。ガニヤーの火葬場にピティヤーのギャングが押し寄せ、ラーフルは逃げ出す。市場に駆け込んだラーフルは、応援に駆けつけたラージヴィール警部補と共にラーフルたちを撃退し、自身は自首する。だが、そこにラーフルが面倒を見ていた少年が駆けつけ、ラーフルを撃つ。実はその子は、ラーフルが殺した教師の息子で、ラーフルへの復讐の機会をうかがっていたのだった。

 映画の冒頭では、インドの農民たちが土地を失い、かつての自分の土地で小作人になったり警備員になったりしている惨状が伝えられる。この映画の主人公ラーフルの父親も土地を失った農民であり、サルマーン・カーンが演じる警察官ラージヴィール警部補の父親もそうだった。だが、「Antim」はあくまで娯楽映画の作りであり、農民問題に切り込む意図は感じられなかった。

 「Antim」の主題は因果応報である。農民の土地を取り上げて贅沢する者たちが農民上がりのギャングから復讐される。土地を失ってギャングとなった元農民が、今度は農民から土地を取り上げる稼業をするようになる。そして殺した相手の子供に自分が殺される。全ての行動が車輪のように巡って返って来る様を2時間以上の上映時間の中で描き出していた。

 全体的に黄色掛かった映像になっており、一見すると現代から少し前の時代の映画かと思わせられるのだが、スマートフォンなどが見えるため、そう昔の話ではないだろう。もしかしたら今現在の話なのかもしれない。とはいえ、チャーイが1杯1ルピー、スペシャルチャーイが1杯3ルピーというやり取りもあった。現在では普通のチャーイが1杯5ルピー以上するのではなかろうか。そうすると、やはり20年以上昔の話と受け止めることもできる。

 アーユシュ・シャルマー演じるラーフルは、急速に台頭するギャング役であり、珍しい役柄ではない。だが、まだデビュー2作目にしては非常に気合の入った演技をしている。デビュー作の「Loveyatri」ではロマンスヒーローだったが、今回は影のあるアンチヒーローを演じ、ガラリと雰囲気を変えての出演となった。今後伸びて行く予感がする。

 むしろユニークだったのは、サルマーン・カーンが演じたラージヴィール警部補だ。インド映画に登場する警察官は、とにかく自分が現場に駆けつけて銃をぶっ放して物事を解決するタイプのキャラクターが多いが、ラージヴィール警部補はやたら達観しており、ほとんど手を出すことがなかった。そして、ギャング同士を争わせて勢力をそぐ作戦に出ていた。頭脳を使って目的を達成しようとする斬新なタイプの警察官であった。しかしながら、サルマーンが映画に出てアクションシーンを演じないはずがなく、上半身裸になって格闘するシーンからギャングとの銃撃戦を繰り広げるシーンまで、観客が期待するようなシーンはきちんと要所を押さえて盛り込まれていた。

 舞台はマハーラーシュトラ州だが、サルマーン・カーン演じる警察官がスィク教徒という設定もユニークだった。スィク教徒が多いのはパンジャーブ州をはじめとした北インドなのだが、わざわざプネーの警察官にスィク教徒を持って来ていた。しかも、マハーラーシュトラ州生まれとのことだった。何のためにこのような斜め上の人物設定をしたのかよく分からなかった。特に伏線になっているわけでもなかった。だが、彼がスィク教徒を演じたのはこれが初とのことである。

 もしかしたら、2020年から21年にかけてインドを騒がせた農業改革を意識しているのかもしれない。モーディー政権は農産物の流通を自由化し、農業に市場経済の原理を導入して活性化させようとしたが、農民たちからの理解が得られず、特にパンジャーブ州やハリヤーナー州で大規模な抗議活動が断続的に続くことになった。これらの州にはスィク教徒が多い。ちょうど「Antim」も農民の土地の問題が物語の起点となっており、それと関連づけるために、敢えて主人公の一人をスィク教徒にしたのかもしれない。

 「Antim」は、農村部から都市部に流れ込んだ農民の子供がギャングに台頭する一方で、農民出身の警察官がギャングの抗争を裏から操り、一網打尽にしようとするアクション映画である。サルマーン・カーン主演の映画ではあるが、彼は一歩後ろに下がり、若手の成長株アーユシュ・シャルマーのアップダウンに主な焦点が当てられていた。娯楽映画として一定の出来にあると評することができる。