Suraj Pe Mangal Bhari

3.0
Suraj Pe Mangal Bhari
「Suraj Pe Mangal Bhari」

 時代劇映画というと、中世や近世を時代背景とした映画を思い浮かべるが、とうとう1990年代も時代劇の対象となってしまった。新型コロナウイルス感染拡大に伴う映画館閉鎖明けの2020年11月15日に劇場一般公開(定員50%)されたヒンディー語映画「Suraj Pe Mangal Bhari」は、1995年、都市名がボンベイからムンバイーに変わる頃を舞台としたコメディー映画である。特筆すべきは、別に無理に1995年を時代背景としなくても成り立つような映画だったことだ。それでも敢えて25年前のボンベイを選んだのは、その時代が醸し出す雰囲気を大事にしたかったのであろう。

 監督は「Tere Bin Laden」(2010年)など、ライトなコメディー映画を得意とするアビシェーク・シャルマー。主演はマノージ・バージペーイー、ディルジート・ドーサンジ、ファーティマー・サナー・シェーク、アンヌー・カプール、スプリヤー・ピルガーオンカル、ヴィジャイ・ラーズ、スィーマー・パーワー、マノージ・パーワー、ニーラジ・スード、ネーハー・ペーンドセー、カリシュマー・タンナーなど。大スターはいないが、曲者俳優が揃っており、キャスティングから映画の性格が分かる。

 マノージ・バージペーイーが演じるマドゥ・マンガル・ラーネーの職業は結婚探偵。結婚相手の素性を調べる仕事であり、今までに49組の縁談を破談にして来た。マドゥは、ボンベイで牛舎を営むスーラジ(ディルジート・ドーサンジ)の縁談を破談にする。怒ったスーラジは、マドゥに復讐を誓う。だが、スーラジはマドゥの妹トゥルスィー(ファーティマー・サナー・シェーク)に恋をしてしまう。スーラジは、トゥルスィーが表向きは「理想的なインド人女性」と思われているが、実際にはクラブでDJをしていることを知り、それを新聞社にたれ込む。トゥルスィーの縁談が進んでいたが、その記事が新聞に掲載されたことで、トゥルスィーの縁談は破談となる。トゥルスィーは、スーラジがたれ込んだと知って怒るが、すぐに彼を許し、二人はデートをするようになる。

 マドゥは、トゥルスィーがスーラジとデートしていることを知り、スーラジの家に縁談を持ち込む。2人の縁談はトントン拍子に進み、婚約式が行われることになる。だが、婚約式のときにマドゥは公衆の面前でスーラジの親に持参金として数々のアイテムを渡す。持参金の要求は犯罪であり、スーラジの一家は逮捕される。トゥルスィーも、スーラジが持参金を要求したことにショックを受け、別の人と結婚することを決める。だが、心の中ではスーラジのことを好きだった。このような物語である。

 メインのプロットは、結婚探偵のマドゥと牛乳屋のスーラジの間の意地を張った騙し合いであり、それにトゥルスィーが巻き込まれるという非常にはた迷惑な構図である。とは言え、陽のコメディアンであるディルジート・ドーサンジと、陰のコメディアンであるマノージ・バージペーイーの競演が目新しく、トゥルスィーの心情もあまり深刻に取り上げられていないので、軽い気持ちで観ていられるドタバタ劇コメディーとなっている。

 前にも書いたが、1995年を時代背景としたのは、ムンバイーがまだボンベイと呼ばれていた最後の時代の雰囲気を映画に取り込みたかったからなのだろう。スーラジとトゥルスィーがページャー(ポケベル)で連絡を取り合ったり、路上に渋滞が全くなかったり、写真撮影が一般化していなかったりと、古き良き時代がスクリーン上で再現されていて、その懐古的な空間の中で、やや古風なドタバタ劇が繰り広げられる。途中にマラーティー語劇が挿入されていたため、マラーティー語の舞台劇が原作の映画なのではないかと感じたが、そういう訳でもないようだ。

 持参金を逆手に取って新郎方の家族を罠にはめるシーンもあったが、別に持参金の受け渡し禁止に関して社会的な意識を高めるような啓蒙的メッセージを発する映画でもなかった。マドゥはかつてカーストの違いから恋人と結婚できなかったが、カースト制度を取り上げた映画でもなかった。パンジャービーとマラーティーの結婚も本当は一筋縄ではいかないと思うのだが、これについては全く言及すらされなかった。

 唯一、何らかのメッセージが発信されているとしたら、トゥルスィーや、その母親レーカー(スプリヤー・ピルガーオンカル)の生き方である。トゥルスィーはボンベイ初の女性DJを目指しており、レーカーはビューティーパーラーを経営していた。どちらも、単なる主婦ではない生き方を貫いており、それが肯定的に描写されていた。ただ、この点は1995年を時代背景としたために、曖昧にされてしまっていたところもある。女性が家事・育児以外の仕事をすることに対する批判的な眼差しは現代インドでも完全には解消されていないと思うが、「90年代はそういう時代だった」として済まされているような印象も感じた。

 題名となっている「Suraj Pe Mangal Bhari」とは、占星術用語で、「太陽に(凶星である)火星がのしかかっている」みたいな意味となる。マノージ・バージペーイー演じるマドゥ・マンガル・ラーネーが火星、ディルジート・ドーサンジ演じるスーラジが太陽であり、題名がこの2人の関係を暗示している。

 「Suraj Pe Mangal Bhari」は、マノージ・バージペーイーとディルジート・ドーサンジの競演が楽しいライトタッチなコメディー映画である。1995年、ボンベイからムンバイーに都市名が変わる頃を時代背景となっている点が変わった雰囲気を醸し出している。軽いノリで鑑賞することができるが、鑑賞後に何かが残る映画ではない。