Tere Bin Laden

4.0

 数ヶ月前からインドの映画ファンの間で密かに話題になっていたのが「Tere Bin Laden」である。アル・カーイダのリーダー、ウサーマ・ビン・ラーディンのそっくりさんを使って一儲けを企むという筋書きのコメディー映画で、初めて予告編を見たときからそのコンセプトのユニークさと危険さに惹かれていた。パーキスターンではテロリストの報復を恐れて上映禁止となってしまったが、インドでは2010年7月16日に満を持しての公開となり、評判も上々。主演が、パーキスターンの人気歌手アリー・ザファルという点もユニークである。アリー・ザファルはこれが俳優デビュー作となる。監督は新人のアビシェーク・シャルマー。題名は「Tere Bin(君なしに)」と「Bin Laden(ビン・ラーディン)」と「Tere Bin Laden(君のビン・ラーディン)」を掛けた言葉遊びになっている。

監督:アビシェーク・シャルマー(新人)
制作:プージャー・シェッティー・デーオラー、アールティー・シェッティー、シャラン・カプール
音楽:シャンカル・エヘサーン・ロイ
歌詞:ジャイディープ・サーニー
出演:アリー・ザファル(新人)、プラドゥマン・スィン(新人)、スガンダー・ガルグ、ニキル・ラトナーパールキー、ピーユーシュ・ミシュラー、ラーフル・スィン、スィーマー・バールガヴァ、バリー・ジョン、チラーグ・ヴォーラー、チンマイ・マンドレーカル
備考:DTスター・サーケートで鑑賞。

 アリー・ハサン(アリー・ザファル)は幼い頃から米国へ渡って一旗揚げることを夢見ていた。大人になり、彼の夢は、米国のニュース局ニュース・オブ・アメリカでレポーターになることへと固まった。911事件後、しばらく運航休止になっていたカラーチー~ニューヨーク便が再開された途端にアリー・ハサンは飛行機に乗り込み、米国を目指す。ところが飛行機内でハイジャック犯に間違われてしまい、米国でみっちり尋問を受けた後、強制送還されてしまう。

 7年後、アリー・ハサンはカラーチーのローカルTV局ダンカーTVでしがないレポーターを務めていた。カメラマンのグル(ニキル・ラトナーパールキー)と毎日駆け回っていたがドジばかりで、社長のマジード(ピーユーシュ・ミシュラー)からは叱られてばかりだった。この間、アリー・ハサンは何度も米国行きを試したが、一度強制送還を喰らったアリー・ハサンにヴィザは下りなかった。アリー・ハサンは、密かにムジャーヒディーンを支援するブラックな旅行代理店に米国ヴィザの取得代行を依頼するが、それには大金が必要だった。

 ある日、アリー・ハサンとグルは闘鶏大会の取材を行う。そこで優勝者のヌーラー(プラドゥマン・スィン)が、眼鏡を外すとウサーマ・ビン・ラーディンにそっくりであることを発見する。当初は、ウサーマ・ビン・ラーディンが正体を隠して養鶏者として暮らしているのだと考え、ウサーマの首に賭けられた懸賞金目当てでヌーラーを探し出すのだが、ヌーラーはただ顔がそっくりなだけで、ウサーマ本人ではなかった。しかし、アリー・ハサンはヌーラーを使って一儲けを思い付く。

 アリー・ハサンは、グルはもちろんのこと、アラビア語が出来る同僚のラティーフ、自分の美容室を開くことが夢のメイクアップ・アーティストのゾーヤー(スガンダー・ガルグ)、米国嫌いのラジオジョッキーで変幻自在の声を持つクライシー(ラーフル・スィン)を巻き込んで、ヌーラーをウサーマ・ビン・ラーディンに仕立て上げ、ジョージ・ブッシュ米大統領に対する挑発的なビデオメッセージを作る。アリー・ハサンはこのビデオをマジードに高額で売りつける。マジードはさらに高値を付けてそのビデオを大手ニュース局に売りつける。こうして、偽造されたウサーマ・ビン・ラーディンのビデオは速報として全世界で放送された。あまりによく出来すぎていたため、米国政府もそれを本物と断定してしまう。

 事態を重く見た米国政府はウサーマ・ビン・ラーディンを追跡するため、テッド諜報部長(バリー・ジョン)をパーキスターンに派遣する。テッドはパーキスターンの諜報部長ウスマーンと共にビデオを分析し、そのビデオがパーキスターンで撮影されたことを特定するが、ウサーマ追跡のために多額の予算が付いてしまったために、アフガニスタンとパーキスターンの国境地帯を大規模空爆して予算を消費する。一方、ビデオの入手経路を調べることでマジードが容疑者として浮上する。テッドとウスマーンはマジードを誘拐して尋問する。その結果、ダンカーTVで働くアリー・ハサンに行き着く。

 ところでアリー・ハサンは、マジードから得た金を仲間と山分けした後、米国へひとっ飛びしようとしていた。ところが、自身が偽造したウサーマのビデオが予想以上に国際的な騒動を巻き起こしてしまっており、米国ヴィザも全く発行されない状態となってしまっていた。状況を打開するため、もう一度ウサーマのビデオメッセージを撮影し、ブッシュ大統領に停戦要求をすることにした。再びグル、ヌーラー、ゾーヤー、クライシー、ラティーフらメンバーを集め、ダンカーTVのスタジオで第二弾を撮影しようとする。

 ところがそのときウスマーンがダンカーTVを家宅捜索していた。しかもヌーラーは誤って手榴弾を爆発させてしまい、可愛がっていたスィカンダルという名の鶏を死なせてしまって気が動転していた。ヌーラーはトラックに乗って逃げ出す。アリー・ハサン、グル、ゾーヤー、クライシー、ラティーフはヌーラーを追いかける。何とかヌーラーを捕まえ、道端でビデオを撮影しようとするが、既に彼らの居所は米国の衛星によって察知されており、ミサイル攻撃を受ける。たまたま全員その場を離れていたため、ミサイルによって怪我はしなかったが、ヌーラーを含め、全員捕まってしまう。

 テッドはウサーマ・ビン・ラーディンを捕まえたと早とちりし、米国に「ウサーマ・ビン・ラーディン関連の朗報がある」と伝えてしまう。だが、すぐにそれがただのそっくりさんであることが分かり、大きなショックを受ける。既に朗報を予告してしまったため、テッドも窮地に立たされる。そこでアリー・ハサンはテッドに妙案を吹き込む。

 再びウサーマ・ビン・ラーディンのビデオメッセージが全世界で放映された。そのビデオの中で、アリー・ハサンはインタビュアーとしてウサーマと話し、ブッシュ大統領に対する停戦呼びかけを引き出す。もちろん、このウサーマもヌーラーであった。ウサーマと停戦条約を結んだ功績によってテッドは国防省長官に昇進し、アリー・ハサンは世界的に有名なリポーターとなる。そして夢で描いていた通り、米国に上陸し、人々から追われる立場となる。ゾーヤーはヌーラーと結婚し、自身の美容室の経営を安定させていた。ラティーフはウサーマ・ビン・ラーディンに関する著書を書いて一躍ベストセラー作家となる。グルやクライシーも相変わらずであった。唯一、ウスマーンは「あのウサーマ・ビン・ラーディンは偽物だ」と訴え続けたために狂人として精神病院に入れられてしまう。

 何も中身のないお馬鹿な低予算コメディー映画ではあるが、大爆笑間違いなし。「コント映画」と表現した方がしっくり来るかもしれない。とにかく何も考えずに笑いたいなら、今この映画しかない。

 本当に純粋なコメディー映画なので、批評するような部分はあまりないのだが、インドの映画であり、制作陣もヒンドゥー色が強いにも関わらず、舞台がパーキスターンの商都カラーチーに設定され、ほぼ全編カラーチーにおいてストーリーが進行することは特筆すべきであろう。ロケはインドで行われたようであるが、パーキスターンの街の雰囲気はよく再現されていたと思う。パーキスターン名物デコトラもしっかり登場。そして何より、インド映画によくありがちなパーキスターンに対する偏見が全くないことに驚いた。普通にパーキスターン映画として見ても何の違和感も感じない。

 言語の観点から見ても、ヒンディー語映画と言うより完全にウルドゥー語映画であった。パーキスターンのイスラーム教徒同士が普通に交わすような会話が再現されていた。よって、ヒンディー語のみの知識だと、アラビア語・ペルシア語の語彙や、原音により忠実な発音があるために、聴き取りにくいだろう。さらに、ウルドゥー語や英語の他にパンジャービー語やアラビア語の台詞も混ざり、非常に多言語な映画となっている。

 インド映画ながらパーキスターン映画の雰囲気を醸し出せたのは、主演がパーキスターン人だったことも大きいだろう。アリー・ザファルはパーキスターンの人気ポップシンガーで、今回映画初出演になる。しかし、やけにこなれた演技をしており、とても良かった。しかし、やはりこの映画でもっとも重要なのは、ウサーマ・ビン・ラーディンのそっくりさん、新人のプラドゥマン・スィンである。彼がウサーマに似ていなかったらそもそもこの作品は成り立たないのだが、観客を納得させるだけのそっくり度であった。その上、とても表情豊かでコミカルな演技もできる器用な俳優で、この1作品だけでなく、今後も活躍して行けそうである。スガンダー・ガルグは「Jaane Tu… Ya Jaane Na」(2008年)でデビューした女優で、今のところ脇役女優として位置を確保しつつある。ピーユーシュ・ミシュラー、ニキル・ラトナーパールキーなども良かった。

 低予算映画ながら、音楽は売れっ子音楽家トリオ、シャンカル・エヘサーン・ロイが担当している。単品でいい曲は特になかったが、映画を盛り上げる役割は果たしていた。

 「Tere Bin Laden」は、爆笑間違いなしのコメディー映画である。ストーリーがユニークなのはもちろんのこと、インド映画なのにも関わらずパーキスターン映画っぽいのもユニークである。難しいことを抜きにして、とにかく笑いを求めたかったら、この映画はオススメである。