
2019年6月21日公開のテルグ語映画「Agent Sai Srinivasa Athreya」は、いわゆる探偵映画である。映画を観て探偵業を独学したという怪しげな経歴を持ちながら、ずば抜けた推理力を持った若き私立探偵エージェント・サーイー・シュリーニヴァーサ・アトレーヤが、難事件を解決する推理ミステリーだ。
監督は新人のスワループRSJ。主人公エージェント・サーイーを演じるナヴィーン・ポリシェッティーはこの映画の脚本も書いている。彼はヒンディー語映画「Chhichhore」(2019年/邦題:きっと、またあえる)に脇役出演していた俳優で、本作が主演デビュー作となる。ヒロインは新人のシュルティ・シャルマー。ラクナウー出身の北インド人である。
他に、スハース、ラーム・ダット、シュレダー・ラージャゴーパーラン、アッパージー・アンバリシャー・ダルバー、クリシュネーシュワラ・ラーオ、プラシャーント・ヤッラミッリ、サンディープ・ラージ、ヴィヌ・ヴァルマーなどが出演している。
アーンドラ・プラデーシュ州ネッルールで私立探偵事務所FBI(Fatima Bureau of Investigation)を運営するサーイー・シュリーニヴァーサ・アトレーヤ(ナヴィーン・ポリシェッティー)は、新人助手のスネーハー(シュルティ・シャルマー)を訓練しながら、大きな案件が舞い込むのを心待ちにしていた。
友人の犯罪記者シリーシュ(プラシャーント・ヤッラミッリ)からタレコミを受けたアトレーヤは線路脇で発見された死体を検証しに現場へ飛ぶ。だが、そこで警察に容疑者と間違えられ逮捕されてしまう。拘置所の中でアトレーヤはマールティ・ラーオ(クリシュネーシュワラ・ラーオ)という老人から、娘のディヴィヤー(シュレダー・ラージャゴーパーラン)が強姦され殺された上に警察に逮捕されたとの身の上話を聞かされる。
保釈後、アトレーヤはディヴィヤーが死ぬ直前に彼女に電話をした3人の人物について調べ始める。それはアジャイ(サンディープ・ラージ)、ハルシャ(ヴィヌ・ヴァルマー)、ヴァスダーであったが、ヴァスダーの詳細は分からず、とりあえずアジャイとハルシャを追跡する。だが、アジャイとハルシャは次々に殺され、彼らを尾行していたアトレーヤは再び容疑者になり逮捕されてしまう。だが、アトレーヤにはアリバイがあったため、何とか今回も保釈される。その後、ヴァスダーの遺体も発見される。
アトレーヤは、誰かからタレコミを受けて彼を殺人犯だと考えて尾行していた別の私立探偵ボビー(スハース)と共に捜査を再開する。アトレーヤが何者かにはめられているのは明らかだった。まずはマールティの身元が判明する。彼はゴーパーラムという飲んだくれだった。アトレーヤは、死体遺棄がビジネスになっていると推理し、アーンドラ・プラデーシュ州で日々線路脇に発見される遺体の数々はその犯罪と関連していると考える。その遺体が積み込まれているのはタミル・ナードゥ州アーランバッカム駅で、彼らはその近くでゴーパーラムを発見する。ゴーパーラムは犯罪組織に指示され、ヴァーラーナスィーでの火葬を求める信心深い人々から遺体を預かって途中で捨てていたのだった。アトレーヤは、3年前に死んだ自分の母親も同じ犯罪に巻き込まれたことに気付く。また、単に遺体を遺棄するだけではなく、彼らは遺体から指紋を抜き出し、犯罪に使用していたことも分かる。
スネーハーはアジャイとハルシャが通っていた大学を訪ね、彼らが犯罪学の学生だったことを突き止める。二人はヴァスダーと共に宗教関連の犯罪を調査していた。アトレーヤは、残された資料から、死んだと思われていたヴァスダーは本人ではなく、まだ生きていると気付く。ヴァスダーこそが黒幕であった。彼らはヴァスダーを追ってラージャスターン州まで行き、彼女を捕まえる。
少なくとも冒頭の数分間、主人公アトレーヤからは、ヤブ医者ならぬヤブ私立探偵の匂いがプンプンする。どうも彼はハリウッドの推理ミステリー映画を観まくって探偵のノウハウを学んだようであった。「有名」だと自称しながらどうも警察にも名が知れていない。こういうノリのコメディー映画かと理解しかける。だが、すぐに彼の類い稀な推理力が披露され、まだそれほど実績は積んでいないものの、彼が優れた探偵であることが明らかになる。
「Agent Sai Srinivasa Athreya」で描かれる一連の事件を通してアトレーヤが最終的に暴くことになったのは、インドで実際に起きた、宗教関連の組織的犯罪であった。ヒンドゥー教徒の間では、ヴァーラーナスィーで荼毘に付されることで輪廻転生の苦しみから解き放たれると信じられている。だが、誰もがヴァーラーナスィーで最期を迎えることができるわけではない。そこで、死後に遺族から遺体を預かってヴァーラーナスィーに運び火葬するというビジネスが生まれた。だが、悪徳業者は金儲けのために遺体をヴァーラーナスィーまで運ばず、途中で遺棄してしまっていた。
確かにインドの新聞を開くと、身元不明遺体の写真が並んだページがある。毎朝遺体の顔写真を見なければならないので気が滅入る。それはそうとして、これほどまで多くの遺体が身元不明のまま放置されているのかと驚く。もちろん、その全てが悪徳業者による遺棄ではないのかもしれないが、このような裏ビジネスが横行しているとしたら逆に合点がいく。
この裏ビジネスにはさらに裏がある。犯罪組織は遺体を単純に遺棄するだけではなく、指紋を抜き取るのである。指紋は犯罪者やテロリストに販売され、警察などによる犯人の身元特定を攪乱するために使われる。
この巨大な犯罪シンジケートの捜査に最初に乗り出したのは、大学で犯罪学を学び、趣味で探偵的なことをしていたアジャイとハルシャであった。だが、組織に彼らの行動が察知され、彼らは殺されることになった。だが、足が着かないように、私立探偵アトレーヤに濡れ衣が着せられることになった。さらに、アトレーヤを尾行するためにカルナータカ州から別の私立探偵ボビーが雇われたというわけだ。だが、アトレーヤはアリバイがあったために釈放され、捜査することができた。また、彼は自ら死を演出し犯罪組織の目くらましもした。黒幕のヴァスダーも同様に自らの死を偽装していた。このように、アトレーヤとヴァスダーの間で頭脳戦が繰り広げられていたのである。
ただ、スローテンポだった前半と比べて、後半の展開は速すぎて、正直細かいところまで理解が追いつかなかった。もう少しじっくりと真相を解きほぐす工夫が必要だったと感じられる。また、アトレーヤを逮捕したハンバーガー好きの警察官がどのようにヴァスダーと関わっていたのかについても詳しく触れられていなかった。全ての謎が解けたわけではないと思われる。スネーハーがどうしてアトレーヤの助手になったのかも不明だった。
当初は単発の予定だったようだが、好評を得て続編の製作が決定したようである。「Agent Sai Srinivasa Athreya」で語り切れていなかった部分は、今後の伏線になっていくと思われる。
ストーリーがテルグ語圏に収まっていなかった点にも注目したい。物語はマディヤ・プラデーシュ州のサーガルから始まり、アトレーヤは時々ヒンディー語のセリフも口にする。主な舞台はアーンドラ・プラデーシュ州ネッルールだが、一時的にタミル・ナードゥ州にも足を延ばすし、結末ではラージャスターン州ビーカーネールへ移動する。言及されていたカルニー女神寺院は実在する寺院で、境内に大量のネズミが生息していることで有名である。タミル・ナードゥ州の一地域で信仰されているというベッタバッリ女神寺院も実在するようだ。ヴァスダーがこの女神の名前にあやかってNGOを名付けていた。
「Agent Sai Srinivasa Athreya」は個性的な探偵を主人公にした推理ミステリー映画で、この成功と続編製作の決定により、テルグ語映画界を代表する名探偵が誕生した。どちらかといえば、映画の中で彼が解決することになる宗教関連の犯罪の方が着想時にはメインだったのではないかと思うが、アトレーヤに個性を与えることに成功したおかげで、事件よりも探偵の方が際立つことになった。アトレーヤを演じた俳優ナヴィーン・ポリシェッティーが脚本を担当している点にも注目したい。
