Andhadhun

4.5

 盲目のピアニストが主人公の映画と聞くと、感動的な作品を思い浮かべることだろう。2018年10月5日公開の「Andhadhun(盲目の音)」は、「盲目」のピアニストが主人公の映画だが、お涙頂戴の感動作ではない。ヒンディー語映画界では数々のスリラー映画が作られてきたが、その中でも最高傑作に数えられるスリラー映画である。日本でも「盲目のメロディ インド式殺人狂騒曲」の邦題と共に劇場一般公開された。

 監督は「Agent Vinod」(2012年/邦題:エージェント・ヴィノッド 最強のスパイ)や「Badlapur」(2015年)などのシュリーラーム・ラーガヴァン。主演はアーユシュマーン・クラーナーとタブー。他に、ラーディカー・アープテー、アニル・ダワン、ザーキル・フサイン、アシュウィニー・カルセーカル、マーナヴ・ヴィージなどが出演している。

 フランスの短編映画「L’Accordeur(The Piano Tuner)」の公式リメイクである。

 プネー在住のアーカーシュ(アーユシュマーン・クラーナー)は、盲目を装って盲人への公的補助や人々の同情を糧に生きている青年だった。夢はロンドンへ渡ってピアニストとしてのキャリアをさらに磨くことだった。アーカーシュは、レストラン経営者の娘ソフィー(ラーディカー・アープテー)と出会い、恋に落ちる。

 ある日、アーカーシュはソフィーのレストランで出会った元有名俳優プラモード・スィナー(アニル・ダワン)に招かれ、ピアノを弾くために彼の自宅を訪れる。アーカーシュを出迎えたのはプラモードの妻スィミー(タブー)であった。彼が家の中に入ると、なんとプラモードが死んでいた。しかも、スィミーの愛人マノーハル(マーナヴ・ヴィージ)もいた。しかし、何事もなかったかのようにアーカーシュは1時間ほどピアノを弾き、立ち去る。

 すぐにアーカーシュは通報しようと警察署を訪れるが、そこにいたのはスィミーの愛人マノーハルだった。なんと警官だったのである。アーカーシュは通報せずに帰宅するが、マノーハルはアーカーシュが盲目であることに疑いを持つようになった。アーカーシュも遂に隠しきれなくなる。アーカーシュはスィミーに薬物を盛られて本当に盲目になってしまった上に、ソフィーからも振られてしまう。

 アーカーシュはマノーハルに殺されそうになるが逃亡に成功する。だが、彼を助けたのは、臓器密売を行うヤブ医者クリシュナ・スワーミー(ザーキル・フサイン)とその一味だった。彼らはアーカーシュの腎臓を抜き取って金儲けしようとしていたが、アーカーシュは1千万ルピーの儲け話を持ち出して、彼らを巻き込む。マノーハルはスィミーから1千万ルピーを受け取ったはずで、アーカーシュはそれを奪い取って目の手術代にあてようとした。

 アーカーシュたちはスィミーを誘拐し、マノーハルを脅迫して、1千万ルピーを手に入れようとする。だが、マノーハルは最初から1千万ルピーなど持っていなかったし、その企みも失敗する。だが、スワーミーは、スィミーが珍しい血液型であることを知った。彼女の肝臓をアラブの大富豪に提供すれば大金が手に入る。スワーミーは、薬品で眠らせたスィミーを連れてムンバイーの空港へ向かう。

 2年後・・・。ヨーロッパのある国で、ソフィーはアーカーシュと思いがけず再会する。ソフィーは、アーカーシュから事の顛末を聞く。

 盲人を主人公にした映画は、「Aankhen」(2002年)や「Black」(2005年)など、ヒンディー語映画界でも枚挙に暇がない。だが、「Andhadhun」は過去の盲人映画とは一線を画する映画だった。盲目の振りをしてピアノを弾く主人公アーカーシュが、盲目ゆえに殺人現場に居合わせ、盲目の振りをしていたがゆえに命を狙われるようになり、本当に盲目になってしまうという、奇想天外かつスリリングな展開となっている。

 終盤になると、アーカーシュは角膜手術を受けて視力を取り戻そうとする。自分を盲目にしたスィミーを誘拐し、彼女の愛人から1千万ルピーの身代金を手に入れて、手術代にあてようとしたのである。一連の事件の中で、アーカーシュは視力を取り戻すチャンスを得る。だが、そのためにはスィミーを犠牲にしなければならなかった。最終的にアーカーシュがどのような決断をしたのかは、観客の判断に委ねられるオープンな結末となっていた。映画の最後で語られる事の顛末は、あくまでアーカーシュが語ったことであり、それが事実ではない可能性もある。もしかしたらアーカーシュは、スワーミーの助言に従ってスィミーをアラブの富豪に売り払って角膜手術を受けたのかもしれない。

 斬新な脚本は一級品であったが、演技もそれに劣らず素晴らしかった。挑戦派の男優アーユシュマーン・クラーナーとベテラン女優タブーの激突が最大の見所である。アーユシュは、盲目ではないのに盲目の振りをしている人という難しい演技をしていたし、タブーは何をしでかすか分からないマダム役をまるで役に乗り移ったかのように演じていた。また、一回り以上年下のラーディカー・アープテーがタブーと対峙するシーンもあり、ゾクゾクする。

 アニル・ダワンの出演も特筆すべきだ。元人気俳優役であったが、アニル自身が70年代から映画界・テレビ界で活躍するベテラン俳優であり、彼の過去の出演作のポスターや映像が使われていた。ただ、早々に殺されてしまう役なので、出番は多くなかった。

 ピアニストが主人公の映画であるため、ピアノを基調としたノリのいい音楽が揃っている。音楽監督は天才アミト・トリーヴェーディーである。「Naina Da Kya Kasoor」や「Laila Laila」など、アミトが自ら歌う曲が特にいい。

 「Andhadhun」は、ヒンディー語映画が誇るスリラー映画の最高傑作に数えられる作品だ。脚本が素晴らしい上に、アーユシュマーン・クラーナーとタブーという演技に覚えのある世代を異にした俳優たちの競演が見られる。必見の映画である。