5 Weddings (USA)

2.5
5 Weddings
「5 Weddings」

 「5 Weddings」は、ラージクマール・ラーオとナルギス・ファクリーが主演している映画だが、基本的には米国の英語映画である。2018年5月10日にカンヌ映画祭でプレミア上映され、インドでは同年10月26日に公開された。インド系米国人ジャーナリストが結婚式を取材しにインドを訪れることで自身のルーツにも目覚めるといったプロットだ。

 監督はナムラター・スィン・グジュラール。ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムシャーラー出身ながら若い頃に米国に渡り、映画監督になった人物だ。インド映画側の視点ではラージクマール・ラーオとナルギス・ファクリーが共演している点が注目されるが、米国人役のキャストとして女優キャンディー・クラークとボー・デレクが起用されている点の方が国際的には話題性があるのかもしれない。キャンディーは「アメリカン・グラフィティ」(1973年)に出演していた女優であり、ボーはジョン・デレク監督の妻で、夫が監督した「類猿人ターザン」(1981年)などに出演していた女優だ。

 インド人の父と米国人の母の間に生まれたシャナイナー・ダーリーワール(ナルギス・ファクリー)は、ファッション雑誌「ステアリング」のライターだった。母親マンディー(ボー・デレク)はシャナイナーが6歳の頃に離婚しており、それ以来二人は米国で暮らしていた。

 シャナイナーは編集長クラウディア(キャンディー・クラーク)からインドの結婚式を取材してくるように指示される。シャナイナーはインドに渡るが、チャンディーガル警察はジャーナリストを警戒しており、彼女のガイド兼監視役をハルバジャン・スィン(ラージクマール・ラーオ)に任せる。ハルバジャンは部下のドナルドと共にシャナイナーを空港で迎え、彼女の取材に同行する。

 シャナイナーは5つの結婚式を取材しなければならなかった。別々のカップルの結婚式に立ち寄り、順にメヘンディー、サンギート、チュンニー、アナンド・カーラジ、レセプションを取材する。その中で彼女は結婚式に現れるヒジュラーに興味を持ち、独自に取材を始めるが、チャンディーガル警察はそれを止めさせようとする。

 マンディーからは夫に宛てた封筒を預かっていた。結婚式の取材を終えた後、シャナイナーは父親の住所を探す。ところが父親は既に亡くなっていたことが分かった。ハルバジャンも父親を亡くしていた。彼は落ち込むシャナイナーを励ます。

 ハルバジャンとシャナイナーは恋に落ち、二人は結婚することを決める。

 インドにルーツを持ちながらも米国人としてのアイデンティティーを持った主人公シャナイナーが外国人視点でインドやインドの結婚式について取材をするというのが物語の軸になっていた。インド映画には毎度のように結婚式の描写が出て来るが、外部からの視線によるインドの結婚式の観察は、一般的なインド映画には案外なかった要素だ。その点は新鮮だった。

 ただ、インドは多様な国であり、宗教ごと、地域ごと、コミュニティーごとに結婚式の形態は異なる。シャナイナーが取材したのはパンジャーブ地方のヒンドゥー教徒・スィク教徒の結婚式である。メヘンディー、サンギート、チュンニー、アナンド・カーラジ、レセプションの順に取材されていた。この内のアナンド・カーラジについてはスィク教独自の儀式であり、グルドワーラーで行われる。花嫁にベールを贈るチュンニーもパンジャーブ地方特有のものだと思われる。花嫁にメヘンディーを施すメヘンディー、女性たちが集まって歌を歌うサンギート、そして招待客を呼んで結婚を報告するレセプションについてはより広範な地域で行われている。また、映画の中では一組のカップルの結婚式を順に追うのではなく、異なるカップルがこれらの儀式を行うタイミングで取材をしていた。

 しかしながら、この映画の実際の主題は結婚式にはなかった。幼年期以来インドを訪れたシャナイナーが興味を持ったのはヒジュラーの存在だった。ヒジュラーは、表向きには両性具有者のコミュニティーとされるが、実質的にはトランスジェンダーのコミュニティーである。インド社会は伝統的に男性でも女性でもない「第三の性」に「ヒジュラー」という居場所を与えていたが、彼らの地位は一般的には低く、差別の対象になっている。ヒジュラーは性を司る存在でもあり、結婚式や出産祝などの場に現れて踊りを踊り、喜捨を求めるのを生業としている。シャナイナーは、たまたまメヘンディーの儀式に現れたヒジュラーたちを見て興味を持ち、彼らと友情を結んで、遂にはヒジュラーの記事を書こうと思い立つのである。

 当初、当局はシャナイナーがヒジュラーについて記事を書くことを嫌がっていた。ヒジュラーはインドの恥部であり、それを外部に公表するようなことはしてくれるな、ということだと思われる。シャナイナーの監視役になっていたハルバジャンは上司からの命令によりシャナイナーを制止しようとする。だが、最終的には上司自身がヒジュラーについて記事を書くことを認め、彼女を丁重に送り出す。なぜ上司がそのような心変わりをしたのかは謎だった。

 映画の時代は明示されていなかったように思う。米国でスィク教徒が差別の対象になっているような発言があったため、2001年の9/11事件後あたりかとも思ったが、どうも2010年代中頃の物語と考えてよさそうだ。その根拠は、インドにおいてヒジュラーなどの性転換者の法的地位が認められたことが言及されていたからだ。2014年に最高裁判所は性転換者の権利を認めると同時に、差別の禁止、福祉政策の策定、就学や就職においての留保制度の適用などを政府に指示した。おそらくこの出来事を指している。よって、「5 Weddings」は2014年以降の物語ということになる。

 ナムラター・スィン・グジュラール監督は過去に複数の映画を撮ってきており、決して素人ではないが、この「5 Weddings」を観る限り、たとえばミーラー・ナーイル監督やディーパー・メヘター監督といったNRI女性監督のリーグに名を連ねられるほど実力のある映画監督とは思えなかった。特にインドに舞台が移ってからの映像には迫力がなく、ストーリーの構成力も弱かった。特にハルバジャンとシャナイナーが結ばれる最後は完全に予想できたものであり、しかもそこへの運び方は非常に脆弱であった。

 ナルギス・ファクリーはイムティヤーズ・アリー監督の名作「Rockstar」(2011年)でデビューした女優である。彼女の出演作はほとんどがインド映画なので、インド人女優のような気がしてしまうのだが、彼女はれっきとした米国人だ。父親がパーキスターン人、母親がチェコ人で、ニューヨークで生まれている。よって、今回彼女が演じたシャナイナーは実際の彼女にもっとも近い役柄だった。彼女のしゃべる英語も完全に米国人のものだ。

 一方のラージクマール・ラーオは、ヒンディー語での演技に定評があるのだが、今回は英語で演技をしていた。意外に英語がうまいことに驚いたが、学歴を見てみると彼も実は英語ミディアム校の出身であり、英語は元々お手の物だったようだ。

 「5 Weddings」は、ヒンディー語映画界で活躍するラージクマール・ラーオとナルギス・ファクリーが主演の映画であるが、映画の国籍は米国になる。監督はインド系米国人女性だ。外国人視点でインドの結婚式やヒジュラーについて踏み込んでおり、その点は共感もできるが、映画としての完成度は低い。無理して観る必要はない映画だ。


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