Missing

4.0
Missing
「Missing」

 2018年4月6日公開のヒンディー語映画「Missing」は、モーリシャスのリゾートホテルで行方不明になった3歳の娘を訳ありの夫婦が探すというスリラー映画である。

 監督はムクル・アビヤーンカル。TV映画やTVドラマを撮ってきた監督であり、映画界ではほとんど無名だ。主演はマノージ・バージペーイーとタブー。どちらもヒンディー語映画界で随一の演技派俳優で、この二人の名前があるだけでこの映画が特別だということが分かる。他に、アンヌー・カプール、プリヤンカー・セーティヤー、カーリープラサード・ムカルジーなどが出演している。

 レユニオン在住のインド人スシャーント・ドゥベー(マノージ・バージペーイー)は、妻のアパルナー(タブー)、3歳の娘ティトリーと共にモーリシャスを訪れ、リゾートホテルに宿泊した。ところが翌朝、ティトリーが行方不明になる。二人はホテル中を探すが見つからない。そこでティトリーは警察に通報し、行方不明者捜索のプロ、ブッドゥー警部補(アンヌー・カプール)が駆けつける。

 ところが、実はスシャーントとアパルナーは夫婦ではなかった。スシャーントはモーリシャス行きの船の中でたまたま同室になったアパルナーから、夫から逃げてきたということを聞き、彼女を自分が宿泊する予定だったホテルに誘ったのだった。ティトリーはずっと熱を出して寝ていたため、スシャーントはティトリーの顔を見たことがなかった。スシャーントの妻カーミヤーと息子のシャーシュワトはレユニオンにいた。

 ブッドゥー警部補はすぐにこの夫婦の奇妙さに気付くものの、ティトリーが誘拐された可能性を考え、捜査を始める。捜査線上に上がったのは、彼らのすぐ下の部屋に泊まっていた男(カーリープラサード・ムカルジー)であった。その男は小さな女の子と一緒にいるところを警察に逮捕されるが、彼が連れていた女の子は彼の実の娘であることが分かる。

 次にブッドゥー警部補は、スシャーントとアパルナーに別々に聴き取りを行って、ティトリーの似顔絵を作らせる。それらは全く別々の顔であった。スシャーントは、アパルナーは精神を患っており、ティトリーは空想の娘であると明かす。しかし、昨晩彼らを対応したレセプショニストのナイナー(プリヤンカー・セーティヤー)が呼ばれ、確かに娘がいたと証言したことから、スシャーントのその供述は信用されなくなってしまう。遂にスシャーントは、アパルナーと自分は夫婦ではないと明かす。

 ところがアパルナーはスシャーントを自分の夫だと言い張る。そこでスシャーントはアパルナーに、ティトリーを誘拐したのは自分だと明かし、二人でホテルを逃げ出す。ところが、森の中でスシャーントはアパルナーに殺されてしまう。一方、ホテルに老人が訪ねてくる。その老人は自分の娘であるティトリーを探していた。実はアパルナーと呼ばれていた女性はティトリーで、彼女は精神病院から逃げ出したのだった。

 かなりの低予算で作られているものの、ゾクゾクするストーリーラインの上に、当代一流の演技派俳優であるマノージ・バージペーイーとタブー、そしてこれまた曲者俳優のアンヌー・カプールの超絶演技が激突する、よく出来たスリラー映画であった。

 映画が始まって以来、観客に提示される情報の多くが実は虚構であり、ストーリーが進展するごとにいくつもの事実が覆される。当初、スシャーントは妻子と共にモーリシャスのリゾートホテルに来ていたが、愛人から頻繁に電話が掛かってきており、その対応に苦慮しているかのように見える。だが、序盤で早くもそれは覆され、実は電話を掛けてきているカーミヤーの方が本当の妻で、アパルナーとは行きの船で出会ったばかりであることが分かる。

 また、映画の中ではアパルナーの娘ティトリーが全く映し出されない。よって、ティトリーが実在するのかどうか、観客には最後の最後まで明かされない。おそらく空想の産物であろうということは推測できるのだが、それだけで映画は終わっていなかった。他にも多くのどんでん返しが立て続けに起こり、観客を翻弄する。

 ただ、細かい部分を振り返ってみると、すっきりしない部分もあった。アパルナー自身が実はティトリーだったのだが、ではアパルナーをなぜ名乗ったのか。なぜ自分の空想の娘にティトリーと名付けたのか。ヴィカースという元夫の存在も妄想なのか。夜に聞こえた女児の泣き声は何だったのか。他の女児の泣き声だったのか。最後にアパルナーが持っていたバッグに入っていた人形は何だったのか。その辺りの細かい謎まで説明してもらえると、もどかしさがなかっただろう。

 マノージは、スシャーントが嘘を暴かれそうになって慌てふためくときの様子を絶妙な演技で演じ切っていたし、タブーは何を考えているのだか分からないアパルナーのキャラクターを繊細に演じていた。頭脳明晰な警察官ブッドゥーを演じたアンヌーも老練な演技を見せていた。これらの一級の俳優たちの演技には唸らされてしまう。

 「Missing」は、題名に捻りがないが、中身は捻りに捻ったスリラー映画である。マノージ・バージペーイー、タブー、アンヌー・カプールといった演技派俳優たちの競演も楽しめる。地味ではあるが、観て損はない映画である。