インド映画に特徴的なストーリー・パターンに輪廻転生モノがある。インド人の8割が信仰するヒンドゥー教は基本的に輪廻転生を信じている。前世からあって現世があり、そして現世の後には来世がある。映画に生まれ変わりを盛り込むことで、同じ俳優による2つのストーリーを1本の作品で観客に楽しませることができる効果もある。インターミッションを挟んで前半と後半を前の生と後の生で分けることもできる。とにかく輪廻転生モノはインド映画と相性が良い。「Karz」(1980年)から「Om Shanti Om」(2007年)まで、多くの輪廻転生モノ映画が作られ、多くは傑作としてインド映画史に名を残している。
2017年6月9日に公開されたヒンディー語映画「Raabta(絆)」も、輪廻転生モノ映画である。監督は、「Love Aaj Kal」(2009年)や「Hindi Medium」(2017年)のプロデューサー、ディネーシュ・ヴィジャーンで、監督をするのは本作が初めてである。
主演はスシャーント・スィン・ラージプートとクリティ・サノン。ジム・サルブが悪役として、ヴァルン・シャルマーが脇役として出演している他、ラージクマール・ラーオとディーピカ・パドゥコーンがチョイ役で出演しており、何気に豪華である。
物語は、800年に一度、地球に接近する彗星ラブジョイが話題になっている現代。銀行員のシヴ(スシャーント・スィン・ラージプート)はハンガリー共和国の首都ブダペストで働き出し、そこでチョコレート屋をするインド人女性サーイラー(クリティ・サノン)と出合う。二人は恋に落ちるが、そこへ億万長者のザック(ジム・サルブ)が現れ、サーイラーを誘拐して行く。 実はこの三人には因縁があった。今から800年前、サーイラーはサーイバーという名の姫で、ザックの前世であるカービルと幼馴染みであった。一方、シヴは敵の部族の戦士ジーランであった。サーイバーはジーランと恋に落ち、結婚することになるが、カービルはそれに耐えられず、ジーランを背後から剣で突き、海に沈める。サーイバーも後を追って海に飛び込み溺死し、それを見たカービルも自ら喉を切って死ぬ。ちょうどそのとき、彗星ラヴジョイが地球に接近していた。 現代に生まれ変わったカービルはザックとなってサーイバーの生まれ変わりであるサーイラーを探し出し、彼女と結婚するために誘拐したのだった。
基本的には現代を主軸としてシヴ、サーイラー、そしてザックの三角関係を描くが、途中で800年前に時代が飛び、この三人の因縁が明かされる。
現代のロマンスシーンはかなり強引な展開である。シヴがサーイラーを執拗に追いかけて口説くシーンは古風なインド映画にありがちなストーカー恋愛であり、気持ち悪くなるくらいのものだ。それに、ザックとサーイラーの出会いも、ザックがサーイラーを25年間狙っていた割にはあっさりし過ぎていて、伏線になっていない。
さらに、過去のシーンは、一体インドなのかどこの国の話なのか分からない。名前も服装も部族名もインド離れしている。どちらかというと、「The Game of Thrones」あたりの雰囲気に近い。現代のシーンはブダペストが舞台であるため、もしかしたら中世ヨーロッパをイメージしたのかもしれないが、そうだとしたらさらに訳が分からない。
とは言っても、輪廻転生のギミックを仕込んだおかげで映画の雰囲気がガラッと変わるし、大筋は分かりやすい展開であるため、意外に楽しめた作品だった。
類似を指摘されているのはテルグ語映画「Magadheera」(2009年/邦題:マガディーラ 勇者転生)である。細部は異なるが、大まかな部分では似ている点が多く、影響を受けたと考えるのが普通であろう。だが、「Magadheera」の過去のシーンが完全にインドの中世をイメージしていたのに対し、「Raabta」の過去のシーンは独自のファンタジー世界を構築していたので、仕上がりはだいぶ異なる。
惜しくも2020年に自殺してしまったスシャーント・スィン・ラージプートは、この頃には既にスターの貫禄を持っていた。クリティ・サノンにも覇気があり、現代の女性と過去の姫の二役を好演していた。最近、主に悪役としてめざましいジム・サルブは一目で分かるパールスィー顔の俳優である。彼の妙に訛ったヒンディー語はわざとなのであろうか。
「Raabta」は、プロデューサーとして数々の名作を送り出してきたディネーシュ・ヴィジャーンが初めてメガホンを取った作品で、「Magadheera」に似た輪廻転生モノのロマンス映画である。過去のシーンはファンタジー映画のようでガラッと雰囲気が変わり、いい転換になっている。大作の雰囲気を持つ作品で、観て損はない。