A Billion Colour Story

4.5

 「A Billion Colour Story」は、2016年に釜山国際映画祭やBFIロンドン映画祭でプレミア上映され、非常に高い評価を受けたヒングリッシュ映画である。「10億色の物語」という題名とは裏腹に、この映画はほぼ全編が白黒になっている。もちろん、それは意図あってのことだ。

 監督はNパドマクマール。長く広告代理店に務めていた人物で、長編映画の監督はこれが初となる。パドマクマール監督は製作や脚本も務めている。また、個性派俳優のサティーシュ・カウシクが共同プロデューサーとなっており、一瞬だけカメオ出演もしている。キャストは、ドゥルヴァ・パドマクマール、ガウラヴ・シャルマー、ヴァースキなど。

 舞台はムンバイー。11歳の少年ハリ・アズィーズ(ドゥルヴァ・パドマクマール)は、イスラーム教徒の父親イムラーン(ガウラヴ・シャルマー)とヒンドゥー教徒の母親パールヴァティー(ヴァースキ)の間に生まれた。イムラーンとパールヴァティーはオーストラリアの映画学校で出会って結婚し、インドの魅力を映画にするためにインドに戻ってきて映画製作をしていた。

 イムラーンとパールヴァティーが一緒に作っていた映画が資金難に陥り、彼らは住居を売却し、家を借りることにする。だが、ムンバイーではイスラーム教徒をすんなり借家人にするアパートは少なく、彼らはイスラーム教徒居住区に住むことになる。だが、今度は妻がヒンドゥー教徒であることが分かり、トラブルに巻き込まれ、そこも引っ越すことになる。

 イムラーンは不寛容がインドに蔓延していることに失望しながらも資金集めに奔走していた。アーナンド・シャーストリーというスポンサーを見つけるが、何者かに殺されてしまう。また、イムラーンも命を狙われるが、刺客の放った弾丸はハリに当たり、死んでしまう。

 可愛がっていたハリが死んでしまったことでとうとう完全にインドに希望を失ったイムラーンとパールヴァティーはインドを去ろうとする。だが、そのときハリの口座に3億ルピーが振り込まれていることを知る。ハリは生前、父親の映画製作資金集めを助けるために寄付を呼びかける動画をインターネットにアップロードしており、それが話題となっていたのだった。それを知ってイムラーンとパールヴァティーは泣き崩れる。

 映画の大半は白黒の映像となっている。それは、主人公ハリの純粋な視線や、両親のインドに対する色眼鏡のない視線を表していると考えられる。イムラーンとパールヴァティーは、両人ともインド生まれながら、オーストラリアに留学経験があり、外国人的な視座や価値観を持っていた。それだけでなく、彼らはインドの多様性やカラフルさを愛しており、どちらかというとインド人というよりもインド好き外国人に似た思考をしていた。インドは色彩豊かな国なのだが、橙色はヒンドゥー教、緑色はイスラーム教というように、色に意味づけがなされていた。彼らはそういう偏見を持っていなかった。映画が白黒なのは、インド社会を色分けして見ない中立的な視点を表現していると捉えていいだろう。

 聡明で英語が堪能な11歳の少年ハリがナレーションをし、物語を進行させる。ハリはインターネットを使いこなし、分からないことがあると何でもGoogle検索して知識を吸収する。年齢に似合わない達観した視点を持っていて、先生たちからは煙たがれることもある。両親が資金難に陥ると、自ら学校に行くのをやめ、ホームスクーリングに切り替えて節約する。そして、インドをひたすら愛し、映画でもってインドの社会に変革をもたらすという夢を追い掛け続ける父親を尊敬している。だが、ハリは不幸にも映画の最後で流れ弾に当たって死んでしまう。

 ハリの死の前では、インド社会において不寛容が蔓延し、コミュニティー同士が対立し合っている現状が浮き彫りになっていく。ハリの両親は異宗教観結婚をしていたため、ヒンドゥー教徒からもイスラーム教徒からも奇異の目で見られる。イムラーンの両親、パールヴァティーの両親にしても、彼らの結婚を歓迎していない気持ちを隠すことをせず、ハリも敏感にそれを感じ取る。また、ハリ自身の名前「ハリ・アズィーズ」にもヒンドゥー教徒とイスラーム教徒の要素が混じっているため、周囲から眉をひそめられる。さらには、イスラーム教徒や未婚の同棲者を受け入れないアパート管理組合、人を地域で色分けして判断する偏見など、インド社会が分断され、その分断がより深まっている様子が描写される。それでもイムラーンはインドへの愛情を失わなかった。

 そんなとき、ハリの死をきっかけに、突然映画はカラーになる。偏見のない視点が白黒の映像であるならば、カラーの映像は偏見に染まった視点を示す。イムラーンとパールヴァティーは、もうインドはかつてのインドではないと幻滅し、インドを去る準備を始める。だが、そんな彼らを引き留めたのが、ハリが生前アップロードした動画だった。彼らは節約のためにネットを利用しておらず気付かなかったのだが、映画製作のための寄付を呼びかけたハリの動画はネット上で話題となり、彼が誕生日プレゼントとして開設してもらった口座には3億ルピーが集まっていた。

 そこで映画は終了となっていたが、きっとイムラーンとパールヴァティーはインドに残り、ハリの遺してくれたその資金を使って、映画を完成させたことだろう。

 インドの現状を痛烈に批判しながらも、インドへの愛情や希望を失っていない、そんな作りになっていて好感が持てた。ともすると外国人的な視点でインドを題材に映画を撮ると、批判と愛情のバランスを欠く結果になることが多いのだが、「A Billion Colour Story」についてはそのバランスが絶妙だった。

 主演のハリを演じたドゥルヴァ・パドマクマールは、Nパドマクマール監督の実の息子である。父子の関係は、「A Billion Colour Story」でのイムラーンとハリの関係にとても似ているという。まだ10代ながら、大人びた少年ハリを等身大で演じていた。イムラーンを演じたガウラヴ・シャルマーやパールヴァティーを演じたヴァースキなども好演していた。

 「A Billion Colour Story」は、ほぼ全編白黒というユニークな映画だが、それ以上にストーリーが素晴らしく、インドに対する問題意識と愛情のバランスも絶妙で、主演ドゥルヴァ・パドマクマールをはじめとした演技も自然体でよい。インド映画界に忽然と現れた突然変異的傑作であり、機会があれば観ることを強力にお勧めしたい映画である。