Santa Banta Pvt. Ltd.

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Santa Banta Pvt. Ltd.
「Santa Banta Pvt. Ltd.」

 インディアン・ジョークの主人公はスィク教徒であることが多い。スィク教徒は、ターバンをかぶって髭を生やした特徴的な外見をしており、しかも概して陽気で脳天気な性格をしていることから、ジョークの主人公に適任と考えられていると思われる。特に「サンタ」と「バンタ」という二人組のスィク教徒は、落語の与太郎のようなストックキャラクターとしてインディアン・ジョークによく登場する。

 2016年4月22日公開の「Santa Banta Pvt. Ltd.」は、ストックキャラクターとして有名なサンタとバンタを映画の主人公に昇格させた映画である。これらの名前を聞いて、コメディー映画であることを想像できないインド人はいないだろう。

 監督はアカシュディープ・サビール。プロデューサー、監督、俳優として活躍している人物で、過去に「Miss 420」(1998年)などを撮っているが、監督としてそれほど多作な人物ではない。主演はボーマン・イーラーニーとヴィール・ダース。他に、ネーハー・ドゥーピヤー、リサ・ハイドン、ジョニー・リーヴァル、ラーム・カプール、ヴィジャイ・ラーズ、サンジャイ・ミシュラー、アユーブ・カーン、ティーヌー・アーナンド、ヴラジェーシュ・ヒールジーなどが出演している。

 在フィジーのインド大使シャンカル・ロイ(アユーブ・カーン)が何者かに誘拐された。インドの対外諜報機関RAWのハヌマント・スィン局長(ティーヌー・アーナンド)はシャンカル大使誘拐を極秘とし、現地に二人組のエージェントを派遣することを決定する。彼らは過去に多数のコードネームを使っていたが、現在は「サンタ」と「バンタ」を名乗っていた。

 ハヌマントにサンタとバンタの派遣を命じられたアルヴィンド・ダーリーワール(ヴィジャイ・ラーズ)だったが、ハヌマントには私怨があった。しかもアルヴィンドは、シャンカルの親友でフィジーで成功した実業家ソーヌー・スルターン(ラーム・カプール)と通じており、命令とは別の動きをし始める。彼はパンジャーブ州で、サンタ(ボーマン・イーラーニー)とバンタ(ヴィール・ダース)という極度の天然ボケ兄弟を見つけ出し、彼らをエージェントに仕立ててフィジーに送る。

 サンタとバンタはフィジーに到着早々、秘密の任務で来たことをTVカメラの前で明かす。それを見たフィジーのドン、プシュカル・ネーパーリー(ジョニー・リーヴァル)は、サンタとバンタ抹殺を画策する。また、サンタとバンタはたまたま麻薬密輸王と接触し、彼の逮捕に貢献する。

 RAWの現地エージェントであるアクバル・イラーハーバーディー(サンジャイ・ミシュラー)とキューティー(リサ・ハイドン)は、サンタとバンタに任務の説明をする。そして彼らを、シャンカル大使の妻カリーナー・ロイ(ネーハー・ドゥーピヤー)と引き合わせる。サンタとバンタはソーヌーが経営する骨董品店に行って店内を破壊するが、彼らが偽のエージェントであることを知っているソーヌーは怒りを抑え、彼らをディーワーリーを祝う船上パーティーに呼ぶ。そこでサンタとバンタは船から突き落とされるが命に別状はなかった。

 一方、アルヴィンドもフィジーに到着する。実はシャンカル大使を誘拐したのはソーヌーであった。しかもカリーナーと共謀していた。ソーヌーはアクバルに5千万ドルの身代金を要求する。アクバルはその金をアルヴィンドに届けるが、アルヴィンドはその金を持って逃亡する。一方、ソーヌーのところにサンタとバンタは送られてくる。そこにプシュカルたちも到着し、騒動となるが、最終的にはサンタとバンタの活躍により、ソーヌーとカリーナーは逮捕される。

 サンタとバンタはインドに帰還することになるが、首相から労いの電話があり、本当のRAWエージェントに抜擢される。

 インド系移民の多いフィジーで撮影された珍しいヒンディー語映画だったが、プロットがお粗末で、ロジックを持ち込んで鑑賞してはいけない作品だった。しかし、サンタとバンタの天然ボケが次々にうまくはまって事件を解決に導いていく様子は抱腹絶倒であり、細かい部分に目をつぶれば、コメディー映画としては何とか成立している映画であった。

 「3 Idiots」(2009年/邦題:きっと、うまくいく)などの演技で有名なボーマン・イーラーニーと、「Go Goa Gone 」(2013年/邦題:インド・オブ・ザ・デッド)のヴィール・ダースのコンビは異色に感じるが、どちらもコミックロールが得意な俳優であり、相性は悪くなかった。今回は二人ともスィク教徒役ということで終始ターバン姿であったし、どちらも極度の天然ボケという設定であるため、いかに自然に天然ボケをかますかに集中した演技をしていた。

 ヒロインは2000年代に一定の活躍をしたネーハー・ドゥーピヤーと、2010年代にいくつかの映画で印象を残しているリサ・ハイドンのダブルヒロイン体制であった。どちらがメインかを選定するのは困難だが、ネーハーの演じたカリーナーの方が悪役に転じたため、リサがメインということでいいのだろうか。リサはRAWエージェントということでアクションシーンをこなしていたし、ネーハーは妖艶な雰囲気を出せていたが、添え物の域を出た活躍はできていなかった。

 脇役にはいい喜劇俳優たちが揃っている。ジョニー・リーヴァル、サンジャイ・ミシュラー、ヴィジャイ・ラーズ、ヴラジェーシュ・ヒールジー、ティーヌー・アーナンドなどである。一人一人の役割は小さく、しかも必ずしもコミックロールではなかったが、それぞれサンタとバンタの天然ボケを支える活躍をしていた。

 「Santa Banta Pvt. Ltd.」は、インディアン・ジョークによく登場するサンタとバンタから着想を得て彼らを主人公に据えたコメディー映画である。プロットが甘く、完成度も低いが、ボーマン・イーラーニーとヴィール・ダースが演じるサンタとバンタの天然ボケ振りは破壊力抜群である。真剣に観る必要はないが、気晴らしには悪くない作品である。