All Is Well

2.5
All Is Well
「All Is Well」

 2015年8月21日公開の「All Is Well」は、ミュージシャンのサクセスストーリーかと思いきや、父と子の確執と和解を描いたファミリードラマである。題名は、「3 Idiots」(2009年/邦題:きっと、うまくいく)の挿入歌「All Izz Well」から取られている。

 プロデューサーはブーシャン・クマールなど。監督は「OMG: Oh My God!」(2012年)などのウメーシュ・シュクラー。音楽はヒメーシュ・レーシャミヤー、アマール・マリク、ミトゥン、ミート・ブロス・アンジャーン。作詞はシャッビール・アハマド、マユール・プリー、クマール。

 主演はリシ・カプール、アビシェーク・バッチャン、アシン。他に、スプリヤー・パータク、ムハンマド・ズィーシャーン・アイユーブ、スィーマー・パーワー、スミート・ヴャースなどが出演している。また、ソーナークシー・スィナーがアイテムソング「Nachan Farrate」にアイテムガール出演している。

 インダル・バッラー(アビシェーク・バッチャン)は、ヒマーチャル・プラデーシュ州カソール出身だったが、ベーカリーを経営する父親バジャンラール(リシ・カプール)と折り合いが悪く、ベーカリーを継ぐ気など毛頭なかった。インダルはミュージシャンを目指しており、同郷の友人ロニー(スミート・ヴャース)と共にバンコクへ渡り、音楽活動をしていた。だが、なかなか売れず、金欠状態にあった。インダルは10年間、故郷に帰っていなかった。

 バンコクでインダルはニンミー(アシン)というインド人女性と出会う。ニンミーはインダルを愛しており、結婚も望んでいたが、子供の頃から両親の夫婦喧嘩を見てきたインダルは結婚を信じられず、彼女のプロポーズを断っていた。とうとうニンミーは別の男性と結婚することになってしまう。それを聞いてもインダルの気持ちは動かなかった。

 そんなとき、インダルの元にインドから電話が掛かってくる。電話の主はカソールの高利貸しチーマー(ムハンマド・ズィーシャーン・アイユーブ)だった。チーマーは、バジャンラールがベーカリーの土地や建物を売却するにあたってインダルの署名が必要だと言う。祖父は遺言で、土地と建物をバジャンラールとインダルの名義にしていたのだった。アルバムを発売するためにまとまった金が必要だったインダルはインドに帰国する。飛行機の中で、結婚式のために帰国するニンミーと一緒だった。

 チャンディーガルの空港からインダルはタクシーを拾ってカソールに行こうとする。ニンミーの実家はその途中にあるグルダースプルだった。インダルとニンミーは同じタクシーに乗ることになる。ニンミーはなるべくインダルと一緒にいたかったため、グルダースプルでは降りず、カソールまで付いていく。

 インダルとニンミーはカソールに着くとチーマーのアジトに連れて行かれる。チーマーによると、バジャンラールは村の人々から多額の借金をこさえており、チーマーにも200万ルピー以上の借金をしていた。貸した金を取り戻すためにチーマーはバジャンラールに、ベーカリーの土地と建物を要求していたのだった。インダルは権利委譲書に署名をするが、バジャンラールはかたくなに署名しようとしなかった。インダルはとりあえずバジャンラールを自宅に連れ帰り、ニンミーも泊まらせる。

 翌朝、インダルは母親パンミー(スプリヤー・パータク)がいないことに気付く。パンミーは老人ホームにいた。インダルは母親に会いに行くが、彼女がアルツハイマー型認知症を患っていることを知る。インダルはパンミーを自宅に連れ帰る。そこにはチーマーが待ち構えていた。パンミーは宝石類をチャンディーガルに住む兄に預けており、それを売れば金になりそうだった。インダルはそれをチーマーに伝える。チーマーはパンミーとニンミーを人質に取り、インダルとバジャンラールをチャンディーガルに送る。だが、インダルは隙を見てパンミーとニンミーを救い出し、チーマーのスポーツカーを盗んで、カソールを後にする。チーマーもパトカーを盗んで部下と共にインダルたちを追う。

 インダルは途中でグルダースプルに立ち寄り、ニンミーを彼女の家族に引き渡す。そこへチーマーがやって来るが、インダルは両親を連れて逃げ出す。チーマーもニンミーを拉致してインダルたちを追う。途中で追いつかれてしまうが、インダルはニンミーを救いだして脱出する。

 インダルたちはチャンディーガルに行き、パンミーの兄と会う。だが、彼は交通事故で危篤状態だった。そしてインダルの前で息を引き取る。その妻(スィーマー・パーワー)は強欲な人間で、夫が持っていた鍵を渡そうとしなかった。だが、インダルはその鍵を奪い取る。それは、カソールにある銀行のロッカーの鍵だった。宝石類がそこにしまわれていると考えたインダルはまたカソールに引き返す。

 ロッカーを開けるためにはパンミーの署名が必要だったが、アルツハイマー型認知症を患ったパンミーの署名は無効だった。しかも、バジャンラールはパンミーと離婚しており、配偶者として代理で署名することもできなかった。チーマーへの借金を返すため、別の方法を考えなければならなかった。そこでインダルは、チーマーを抱き込み、バジャンラールとパンミーを再婚させることを提案する。そうすれば配偶者としてロッカーを開けることができるはずだった。チーマーはその提案に乗り、バジャンラールとパンミーの結婚式に資金提供する。

 一方、グルダースプルに戻ったニンミーの結婚式の準備が進められていた。結婚相手のモーヒトも既に来ていた。バジャンラールとパンミーの結婚式と、モーヒトとニンミーの結婚式は、それぞれの場所で同時に行われた。

 実はインダルは、バジャンラールがパンミーと再婚してもロッカーを開けられないことは知っていた。そこで彼は、バンコクにいるロニーに電話をし、自作の歌を音楽配給会社に売り払うことを決める。それで得た金で父親が作った借金を返し、ベーカリーもリニューアルする。バジャンラールはインダルにニンミーと結婚すべきだと言い、賛同したチーマーが彼らをグルダースプルに連れて行く。既に結婚式は終わっていたが、モーヒトはニンミーの妹バブリーと結婚しており、ニンミーはまだ未婚だった。こうしてインダルとニンミーは結婚する。

 この映画には「シュラバン・クマール」というキーワードが何度か出て来る。シュラヴァン・クマールとはインド神話の登場人物である。盲目の両親を担いでヒンドゥー教四大聖地を巡った親孝行の息子として有名で、ヒンドゥー教徒の道徳観に大きな影響を与えている。

 ただ、主人公のインダルは当初、シュラヴァン・クマールとは正反対の息子だった。父親と仲違いし、心配性の母親を後に残してバンコクに渡ってしまい、そのまま10年間帰ろうともしなかった。インダルは、父親バジャンラールと自分の名義になっていた土地と建物を売却して金を作ろうと、ようやく重い腰を上げてインドに戻る。だが、彼の取り分が残らないほどの多額の借金をバジャンラールはこさえてしまっていた。しかも、バジャンラールは頑固な性格で、絶対にその土地と建物を売ろうとはしなかった。10年間音信不通だったため、父親がそんな多額の借金を抱えていることなどインダルは全く知らなかった。

 さらに、母親パンミーはアルツハイマー型認知症を患っており、多くのことを忘れてしまっていた。インダルのことも認識しなかった。そのこともインダルは知らなかった。パンミーは老人ホームにいた。そして、後に分かったところでは、バジャンラールとパンミーは離婚していた。インダルがいない間にバッラー家は離散の危機になっていたのである。

 インダルは、父親の借金を返すための資金を作るため、母親がチャンディーガルに住む兄に預けたという宝石類を取り戻そうとする。その過程で彼は両親と共に過ごす時間を持つことができ、積年のわだかまりを解消する機会を得る。最後には、自分の勝手な行動が両親にどれほど迷惑を掛けていたのかを自覚し、反省し、バンコクでミュージシャンになる夢は諦め、これからは両親と共に過ごそうとするのである。こうしてインダルは「現代のシュラヴァン・クマール」になった。

 家族に何よりの重きを置く傾向のあるインド映画としては順当な着地点である。ただ、自分の夢を追うよりも家業を継ぎ家族の期待に応えることが最大の親孝行だとのメッセージは、多くの若者にとって重荷になりえるものだとも感じた。一応、インダルはベーカリーの共同経営者になった後も音楽活動を続け、そちらでも成功を収めていることが後日譚で語られる。だが、世の中そううまくいくものでもない。夢の実現に向かって努力することと両親に親孝行をすることが両立できない場合、どうしたらいいのかという重要な命題に答える内容の映画ではなかった。

 アシン演じるニンミーが非常に弱いキャラだったのも大きなマイナスだ。ニンミーはひたすらインダルに求愛し続け、自身のお見合い結婚が決まった後もインダルとの恋愛結婚を諦めていなかった。運命が二人を結びつけてくれると固く信じ、その通り二人は偶然の再会を繰り返す。とても健気な女性ではあるが、現実感が希薄である。

 インダルがニンミーとの結婚を断り続けていたのは、両親が不仲だったことと強く関連している。彼は結婚を信じておらず、ニンミーと結婚してもどうせすぐに不仲になると考えていた。だが、両親が小競り合いをしながらも仲良くしている姿を見て、結婚生活とはそういうものだと理解する。そしてインダルは、バジャンラールとパンミーを再婚させる。両親の再婚が済んだことでインダルはニンミーとの結婚にも前向きになる。既に手遅れかと思われたが、インド映画特有のどんでん返しにより、ニンミーとの結婚が成就する。

 だが、最後までインダルのニンミーの対する気持ちが明らかにされていなかった。果たしてインダルはニンミーのことが好きだったのか。彼が結婚を拒絶していたのは分かったが、ニンミーのことは正直なところどう思っていたのか。最後の最後で彼はニンミーに自分の口からプロポーズもできなかった。ロマンス映画として観たら「All Is Well」は失格である。

 結局、インダルがミュージシャンという設定はほとんど生かされていなかった。過去に「Rock On!!」(2008年)、「London Dreams」(2009年)、「Rockstar」(2011年)など、ミュージシャンを主人公にした映画が成功を収めており、劇中に歌と踊りを入れる上でも便利だったために主人公をミュージシャンにしたのだろうが、その設定はなくても「All Is Well」は成立したと思われる。音楽配給会社のTシリーズ社が製作する映画であるため、歌曲は必須だったと考えればいいだろう。

 アシンにとっては本作が最後の作品になった。アシンは2016年に大手携帯電話製造会社マイクロマックスの共同創業者ラーフル・シャルマーと結婚し、女優業から引退したためだ。南インド映画界で活躍し、「Ghajini」(2008年)で華々しくヒンディー語映画デビューを飾ったアシンであったが、女優としての活動期間は短かった。

 「All Is Well」は、父と子の複雑な関係を、インド神話に登場する親孝行息子シュラヴァン・クマールになぞらえて、笑いと感動と共に語ろうとした作品だ。親孝行の大切さを再確認する内容の道徳的な結末は、いかにもインド映画らしい。ただ、度を超したドタバタ劇がチグハグな印象を受け、これが最後の作品となったアシンの使い方ももったいないものだった。興行的には大失敗に終わった。無理して観る必要はない映画だ。