Tanu Weds Manu Returns

4.0
Tanu Weds Manu Returns
「Tanu Weds Manu Returns」

 現在、ヒンディー語映画界で、高い演技力を持っていると同時に、最も興行的に信頼できる女優となったカンガナー・ラーナーウト。この方向ではヴィディヤー・バーランと肩を並べるまでになった。「Queen」(2014年)の大ヒットが現在のカンガナーの地位を確立したと言えるが、そもそもオフビート系の映画に好んで出演して来た彼女が娯楽映画の中で居場所を見つけたのは、2010年の「No Problem」や2011年の「Tanu Weds Manu」辺りであった。

 2015年5月22日公開の「Tanu Weds Manu Returns」は、カンガナーの出世作のひとつ、「Tanu Weds Manu」の続編である。ヒンディー語映画では「続編」と言っても、前作とストーリー上のつながりを持たない作品が多いのだが、「Tanu Weds Manu Returns」に関しては、前作から4年後の設定となっており、完全にストーリーがつながっている。よって、前作を観て大体の流れを把握しておくことが、本作を楽しむために必要だ。前作と同様、カンガナー演じるタンヌーが主人公の映画で、しかも今回は一人二役に挑戦する。

 「Tanu Weds Manu Returns」は、女性中心映画(female-oriented film)としては初めて、100カロール・クラブ入りした記念すべき作品だ。コレクション(国内興行収入)が10億ルピーを突破した作品がクラブ入りを許されるのだが、今までは男性中心映画やマルチスター映画のみがクラブ入りしていた。女性中心映画の初のクラブ入り実現に最も近い位置にいるのはヴィディヤー・バーランだとされていたが、今一番勢いのあるカンガナーがヴィディヤーに先駆けて主演作のクラブ入りを成就させた。よって、「Tanu Weds Manu Returns」はヒンディー語映画史上、非常に重要な作品である。

 「Tanu Weds Manu Returns」の監督はアーナンド・L・ラーイ。前作「Tanu Weds Manu」や「Raanjhanaa」(2013年)の監督だ。作曲は主にクリシュナ、作詞は主にラージシェーカル。キャストは、カンガナー・ラーナーウト、Rマーダヴァン、ジミー・シェールギル、ディーパク・ドーブリヤール、アイジャーズ・カーン、スワラー・バースカル、ムハンマド・ズィーシャーン・アイユーブ、ラージェーンドラ・グプター、ナヴニー・パリハル、KKラーイナー、ディープティー・ミシュラー、ラージェーシュ・シャルマーなど。

 タヌジャー・トリヴェーディー、通称タンヌー(カンガナー・ラーナーウト)とマノージ・シャルマー、通称マンヌー(Rマーダヴァン)は結婚後、ロンドンに住んでいた。しかし、夫婦仲はうまく行っていなかった。結婚から4年後、二人はとうとう精神病院でカウンセリングを受けることになった。そこで激昂したマンヌーは精神病と診断され、精神病院に入れられてしまう。タンヌーは単身、故郷カーンプルへ戻る。

 カーンプルの自宅でタンヌーの部屋を占拠していたのはアルン・クマール・スィン、通称チントゥー(ムハンマド・ズィーシャーン・アユーブ)という弁護士だった。タンヌーの嫁入り後、彼女の部屋はチントゥーに賃貸されていた。また、タンヌーはマンヌーの親友パッピー(ディーパク・ドーブリヤール)に電話し、マンヌーがロンドンで精神病院に入れられていると伝える。パッピーはロンドンに飛び、マンヌーを助け出す。

 マンヌーはデリーに戻り、タンヌーと離婚の準備に取り掛かる。弁護士の勧めに従い、まずはタンヌーに「告知」を送る。まだ結婚を維持する可能性を残した文面だった。タンヌーは早速チントゥーを弁護士として雇う。チントゥーはタンヌーと過ごす内に彼女に恋してしまう。そこで一刻も早くタンヌーとマンヌーの離婚を成立させるため、マンヌーに離婚の通知を送る。また、タンヌーはカーンプルで、昔の恋人ラージャー・アワスティー(ジミー・シェールギル)とよく会うようになっていた。ラージャーは既に来年結婚することが決まっていたが、タンヌーへの恋心を捨て切ることができず、彼女とデートを繰り返す。チントゥーは2人の仲も邪魔しようとするが、逆にタンヌーから見切りを付けられる。

 一方、マンヌーはデリー大学でタンヌーそっくりのクスム・サングワーン、通称ダットー(カンガナー・ラーナーウト)と出会い、一目惚れしてしまう。ダットーはスポーツ推薦で入学したハリヤーナー州ジャッジャル出身の大学生であった。ダットーもマンヌーと話す内に彼に恋をする。マンヌーはダットーの兄オーミー(ラージェーシュ・シャルマー)と話をし、結婚を許してもらう。だが、その前にパッピーの恋を助けることになった。パッピーはジャッスィー(エイジャーズ・カーン)の妹コーマルに恋しており、彼女と結婚しようとしていたが、コーマルは別の男と結婚させられそうになっていた。そこでマンヌー、パッピー、ダットーの3人はチャンディーガルへ行き、結婚式からコーマルを連れ出すことにした。そこでダットーはタンヌーと勘違いされ、様々なトラブルが巻き起こされるが、最終的に3人はコーマルを連れ出すことに成功する。ただし、どうやらコーマルはパッピーのことを何とも思っていない様子であった。

 ところで、実はラージャーの許嫁はダットーであった。タンヌーのことが忘れられなかったラージャーは、タンヌーそっくりの女性を結婚相手として決めたのだった。しかし、マンヌーがダットーすらも奪おうとしていることを知り激怒する。それを知ったタンヌーと共にデリーやチャンディーガルを訪れるが、マンヌーは捕まらなかった。そこでダットーの故郷であるジャッジャルへ向かう。

 ジャッジャルではマンヌーとダットーの結婚式の準備が始まっていた。そこへ殴り込んだタンヌーは公衆の面前でダットーを侮辱するが、ダットーも負けていなかった。マンヌーも意地になり、ダットーとの結婚を強行する。そこでタンヌーも2人の結婚式を手伝うことにする。しかしながら、タンヌーは徐々に悲しみに暮れるようになる。パッピーやラージャーは、そんなタンヌーの姿を見て、マンヌーを諫める。また、ジャッスィーの妻でタンヌーの親友パーヤル(スワラー・バースカル)はダットーに結婚を辞めるようにお願いする。だが、マンヌーとダットーの意志は固かった。

 婚姻の儀式が始まり、そのクライマックスであるサート・ペーレー(火の周りを7回まわって婚姻の誓いを立てる儀式)が行われた。タンヌーはそれを悲しい顔で見守っていた。だが、このときまでに新郎新婦の気持ちは揺らいでいた。ダットーは7周目を回らず、こんな結婚はしないと言い出す。マンヌーもそれを受け容れる。こうしてマンヌーとタンヌーは再び夫婦となることになった。

 インドの恋愛映画の鉄則として、結婚の神聖性を死守するという点が挙げられる。結婚成立前には何でも起こり得るが、一度結婚が成立したら、何が何でもそれを壊さない。インド映画界には、そういう強い傾向が見受けられる。おそらく他の映画界ではそれ程見られない現象であり、インド映画をインド映画たらしめている要素のひとつとして定義してもいいだろう。

 ただ、近年になってそのタブーを破るような映画がいくつか出現した。「Love Aaj Kal」(2009年)や「Ek Main Aur Ekk Tu」(2012年)などである。時代の変遷と共に、結婚後の夫婦や、結婚外の恋愛=不倫についての物語も許容されるようになって来ており、興行的な成功にも負の影響を与えなくなって来ている。

 それでも、やはりこの鉄則は根強く、「Tanu Weds Manu Returns」は鉄則を死守する作品の典型例であった。前作で紆余曲折を経て結婚したタンヌーとマンヌーは、今作の冒頭で早くも離婚危機を迎え、中盤で離婚が成立する。だが、最後にはよりを戻す。時代を逆行する作品と評することもできるが、いかにもインド映画らしい結末であったし、これが興行的に大ヒットとなったことから見ても、大部分のインド人観客は、このような保守的な物語がやはり大好きなのだということが証明されたと言っていい。

 前作「Tanu Weds Manu」公開時には、女性キャラが立った映画というのはまだ珍しかった。だが、その後、「The Dirty Picture」(2011年)、「Kahaani」(2012年)、「Cocktail」(2012年)、「Shuddh Desi Romance」(2013年)、「Dedh Ishqiya」(2014年)、「Queen」、「Mardaani」(2014年)、「Mary Kom」(2014年)など、時代は女性中心映画に移行しており、タンヌーの新鮮味も薄れてしまった。しかも、後半のタンヌーは妙にしおらしくなってしまっていて、「らしく」なかった。女性中心映画の主演女優に覇気がないと、映画の魅力もグッと落ちる。その代わり、カンガナーがダブルロールで演じるダットーの方もタンヌーに負けないほど個性的なキャラであったが、ヒロインが分散されてしまったことで、前作にあった、ヒロインがグイグイ引っ張って行くタイプのストーリー展開が乏しくなってしまっていた。むしろスポットライトは、相対的に、2人のヒロインに囲まれたマンヌーの方に移っており、女性中心映画とするのは微妙になって来ている。そういう意味で、「Tanu Weds Manu Returns」は前作を越える出来映えとは言いがたい。

 とは言っても、決断するのは女性、という点で、「Tanu Weds Manu Returns」はれっきとした女性中心映画だ。最後、結婚を中断することを決めたのは、マンヌーではなくダットーであった。それも、サート・ペーレーの7周目での決断。火の周りを7周回ってしまうと、結婚が正式に成立する。それをギリギリで止めたのである。だが、彼女がマンヌーを愛していなかった訳ではない。むしろマンヌーを心の底から愛していた。だからこそ彼女はマンヌーとの結婚を取り止めたのだった。結婚キャンセル後、号泣するのもダットー、そしてオチを付けるのもダットー。タンヌーが脇役に追いやられていた分、ダットーが結末を支配していた。

 前作と併せて見ると面白いのは、前作ではラージャーとタンヌーの結婚式をマンヌーが手伝い、今作ではタンヌーがマンヌーとダットーの結婚式を手伝った点だ。意中の人が別の人と結婚する結婚式を手伝うという拷問のような行為は、「Dilwale Dulhania Le Jayenge」(1995年)以来のヒンディー語映画の伝統だ。もちろん、映画なので、その中で何かが起こる訳だが、現実世界ではあまりあり得ない展開である。

 アーナンド・L・ラーイ監督は方言をうまく使った恋愛映画を作り続けている。今回はダットーを中心にハリヤーンヴィー方言(ハリヤーナー州のヒンディー語方言)を活用していた。ハリヤーナー州生まれのスポーツ少女ダットーのキャラは、今までのヒンディー語映画では、「Chak De! India」(2007年)で見られたぐらいで、とても珍しい。しかし、現実のデリー大学では、必ずいるタイプの女性である。ハリヤーナー州はスポーツが盛んな州で、多くの優秀なアスリートを輩出しているし、そういう点でも現実味がある。現代のインド人若者の琴線に訴えかけるのがうまい監督だ。

 一方のタンヌーはウッタル・プラデーシュ州カーンプル出身の不良少女。この2人を演じ分けるカンガナーの演技力が「Tanu Weds Manu Returns」のひとつの見所だ。ただ、髪型も違えばメイクも違うため、同じ俳優が演じているとは思えないほどになっていた。マンヌーが一目見てタンヌーと間違えるほどのそっくりさんであるためには、雰囲気を変えすぎかと感じた。それでも、彼女の努力は賞賛されるべきだ。

 それに対してマンヌーを演じたマーダヴァンは前作に続いて素朴な演技であった。ラージャーを演じたジミー・シェールギルは、出番は少なめだったものの、存在感を示していた。だが、彼らよりもむしろ目立っていたのは、コミックロール的な2人、パッピーとチントゥーだ。パッピーを演じたディーパク・ドーブリヤールは前作に続くクレイジーな親友の役で、笑いを誘っていた。だが、それよりも印象が強かったのが、チントゥーを演じたムハンマド・ズィーシャーン・アユーブだ。「Raanjhanaa」で主人公の親友を演じていた俳優で、ディーパクとかぶるところがあるのだが、今回はディーパク以上にクレイジーな演技を見せており、間違いなく映画の成功に貢献していた。

 音楽は前作に引き続きクリシュナが担当しており、北インドの結婚式の雰囲気をよく再現したノリノリの曲が多かった。飛び抜けたヒット曲はないが、ストーリーに沿った音作りだと感じた。

 「Tanu Weds Manu Returns」は、2011年のヒット作「Tanu Weds Manu」の続編。前作から4年後の設定で、夫婦仲の危機と和解までの過程を描いている。結婚の神聖性を死守するインド映画の気質がよく表れた作品で、女性中心映画としては初の100カロール・クラブ入りした。2015年上半期の最大のヒット作であり、映画史上でも重要な作品。前作に比べるとパワーは落ちているが、必見の映画だと言える。