Zed Plus

3.5

 インドでは政治家などの要人にコマンドー部隊の護衛が付く。護衛対象のランクに従ってセキュリティーレベルが決められるが、最高レベルのセキュリティーを「Z+(ゼット・プラス)」と呼ぶ。2014年11月28日公開の「Zed Plus」は、ひょんなことからZ+のセキュリティーが付くことになってしまった一般人を巡るブラックコメディー映画である。

 監督は「Pinjar」(2003年)などのチャンドラプラカーシュ・ドゥイヴェーディー。主演はアーディル・フサイン。他に、モーナー・スィン、ムケーシュ・ティワーリー、サンジャイ・ミシュラー、クルブーシャン・カルバンダー、ラーフル・スィン、シヴァーニー・ターンクサレー、KKラーイナー、エーカーヴァリー・カンナーなどが出演している。また、「Ishq Ishq」でリシター・バットがアイテムガール出演している。

 ラージャスターン州のファテープルは、ピーパルワーレー・ピールというダルガー(聖者廟)の門前町であった。ダルガーのカーディム(世話係)は、町に住む400世帯が日替わりで担うことになった。アスラム・パンクチャーワーラー(アーディル・フサイン)は、ファテープルに住む貧しいパンク屋であった。アスラムは、近所に住む詩人ハビーブ(ムケーシュ・ティワーリー)と犬猿の仲だった。

 中央政府では連立政権が崩壊の危機に直面していた。首相(クルブーシャン・カルバンダー)は神様の助けを借りるため、ピーパルワーレー・ピールを参拝しにファテープルを訪れる。ちょうどその日、ダルガーのカーディムはアスラムだった。首相から何か困りごとはないか聞かれたアスラムは、隣人に困っていると答える。ヒンディー語ができない首相は、隣人をパーキスターンと勘違いし、アスラムにZ+のセキュリティーを付けることを決める。

 以降、アスラムの家には、ラージェーシュ警部補(ラーフル・スィン)や指揮下のコマンドー部隊が駐屯することになり、アスラムが出掛けるときには常に護衛が付くようになる。アスラムの妻ハミーダー(モーナー・スィン)はコマンドー部隊が何かと手伝いをしてくれるのでその状態に満更でもないが、アスラムは、愛人のサイーダー(エーカーヴァリー・カンナー)に会いに行けなくなり困ってしまう。

 一方、印パ国境地帯でインドへのテロを虎視眈々と狙うテロリスト、ヒダーヤトゥッラー(サンジャイ・ミシュラー)は、新興ライバル組織がアスラムを暗殺しようとしていると勘違いし、真っ先にアスラムを殺そうと刺客を送る。また、ラージャスターン州では州選挙が近づいており、州首相はアスラムをファテープル選挙区の候補者に選ぶ。アスラムは護衛を引き連れながら選挙運動を始める。

 だが、サイーダーにテロリスト内通者の嫌疑が掛けられたことや、巨額の賄賂が舞い込んで怖くなったことなどもあり、アスラムは真実を明かすことを決める。マスコミが詰め掛けている演説の場で、アスラムは、首相の勘違いから自分にセキュリティーが付くことになった経緯を説明し、自分の投票しないように人々に求める。

 首相はアスラムのセキュリティーを解除する。その直後、ヒダーヤトゥッラーの送り込んだ刺客がアスラムを狙撃する。一命は取り留めたが、命を狙われていたことが現実となり、同情票も舞い込んで、アスラムは選挙に勝ってしまう。再びアスラムにはZ+のセキュリティーが付くことになった。

 政治家や要人にとって、セキュリティーのランクは社会的ステータスに直結しており、誰もがあわよくば最高レベルのZ+セキュリティーを求めている。確かにインドは過去に首相が2度暗殺されている国であり、要人のセキュリティーは必須である。だが、人員にも限りがあるし、そもそも護衛は国民の血税で賄われている。誰にでも過度のセキュリティーを付けようとするVIP文化には批判の声も強い。「Zed Plus」は、そんなVIP文化を風刺した作品である。

 一般人にZ+セキュリティーが付くことになってしまった経緯はかなり手が込んでいた。まず、持ち回りのカーディム制度が取り上げられているのには感心した。インド各地にはイスラーム教の聖者を祀るダルガー(聖者廟)があるが、その世話係をカーディムと呼ぶ。カーディムが参拝者の手助けをする。カーディムは基本的に世襲の職業だが、分家などで権利を持つ家族が複数になることがある。また、大きなダルガーになると、伝統的に複数の家系がカーディムに指名されることもある。こうして、複数の家族が曜日などを決めて持ち回りで担当する制度が出来ているところがあるのである。「Zed Plus」に出て来たピーパルワーレー・ピールのダルガーは架空のものだが、なんと400世帯がカーディムの権利を持っており、400日ごとにカーディムをすることになっていた。たまたま首相がダルガーを訪れた日にカーディムとなったのが、主人公アスラムであった。

 「Zed Plus」ではクルブーシャン・カルバンダーが首相を演じていたが、南インド出身という設定なのか、ヒンディー語が話せなかった。これは、ヒンディー語が得意ではなかったマンモーハン・スィン元首相を揶揄したキャラであろう。アスラムは秘書官の通訳を通じて首相と会話をするが、その中で「隣人に困っている」という言葉が「隣国=パーキスターンに命を狙われている」という意味で受け取られてしまい、Z+セキュリティーの対象となってしまう。

 また、何の変哲もない田舎町に突然、首相のような要人が訪問することになると、どんなことが起こるのかも、この「Zed Plus」は見せてくれていた。穴ぼこだらけの道は急ピッチで舗装され、違法建築は破壊され、道には検問が敷かれる。平穏な生活が乱され、大騒動となってしまうのである。

 さて、トイレもないような田舎町の家に、突然Z+のセキュリティーが付くことになってしまい、様々なことが起こる。アスラムの家を訪れる人は、必ず金属探知機を通ってからでないと家の中に入れなくなる。朝、アスラムが排便しに野原へ行くと、護衛たちも一緒に付いてきて用を足す。アスラムのパンク屋を訪れる人々は、アスラムにパンクを直してもらう前に自転車を隅々まで調べられるため、嫌がって誰も店に来なくなってしまう。

 しかも、首相の勘違いから何の危険にもさらされていない一般人にZ+のセキュリティーを付けてしまったことが発覚すると、首相や国の尊厳が損なわれるため、アスラムは嘘を付き続けなければならなくなってしまう。どうしようもない状況に置かれてしまったアスラムは、一時的には政界進出によっておいしい蜜も吸うものの、さらに身の丈に合っていないことに首を突っ込んでしまったのは明らかで、すぐに後悔するようになる。

 全体的には優れた風刺映画だと感じたが、アスラムの愛人サイーダーの存在だけは蛇足だったと感じた。妻のハミーダーと比べてサイーダーが特別魅力的には感じなかったのが一番だが、主人公が浮気をしていることで、アスラムに感情移入できなくなる観客は多いだろう。サイーダーがいなくてもこの映画は十分に成立したと断言できる。

 主演のアーディル・フサインは、一般庶民の役から上司や権力者の役までどんな役でも演じ分けられる有能な俳優である。ただし、今回は、選挙に立候補したあたりから、過度に政治家然とした雰囲気となってしまっていたのが不適切に感じた。最後、真実を明かす演説の場面は、スピーチの仕方が素晴らし過ぎて、パンク屋アスラムの影が薄くなってしまっていた。

 ファテープルは、実際にラージャスターン州にある町の名前である。だが、撮影はその隣町のマンダーワーで行われており、ピーパルワーレー・ピールも架空のダルガーである。この辺りはシェーカーワーティー地方と呼ばれ、かつて中間貿易で巨万の富を築いた商人たちの壮麗な屋敷が並んでいる。映画の中でも、屋敷の壁や屋根の裏に今でも残る壁画が少しだけ映し出されていた。

 「Zed Plus」は、インドにはこびるVIP文化を揶揄した優れた風刺映画である。興行的には全く振るわなかったが、テーマが斬新であり、ブラックコメディーもパンチが効いていた。少しだけ、2004年から2014年まで中央政府の与党を担い、汚職を蔓延させたインド国民会議派(INC)に対する批判も含まれていた。観て損はない映画である。


Zed Plus (2014) | Hindi Comedy Movie | Adil Hussain, Mona Singh, Mukesh Tiwari, Sanjay Mishra