Raja Natwarlal

3.0
Raja Natwarlal
「Raja Natwarlal」

 ナトワルラールは、インドでもっとも有名な詐欺師の名前である。1912年にミティレーシュ・クマール・シュリーヴァースタヴという名前で生まれたナトワルラールは、子供の頃から詐欺師の才能を開花させ、多くの人々を騙して大金をせしめてきた。彼は憐れな犠牲者を騙してアーグラーのタージマハルやデリーのレッドフォート、大統領官邸、国会議事堂まで売ったといわれている。また、詐欺によって儲けた金は貧しい人々に分け与えていたため、地元の村ではロビンフッド扱いだったともされている。

 2014年8月29日公開の「Raja Natwarlal」は、ナトワルラールの伝記映画ではない。単に彼の名前を取っただけだ。だが、ナトワルラールのような大物詐欺師を目指す主人公の映画である。監督は「Jannat」(2008年)などのクナール・デーシュムク。主演はイムラーン・ハーシュミー。ヒロインはパーキスターン人女優で「Bol」(2011年)に出演していたフマイマー・マリク。他に、ケー・ケー・メーナン、パレーシュ・ラーワル、ディーパク・ティジョーリー、プラーチー・シャー、ムハンマド・ズィーシャーン・アユーブなどが出演している。

 ムンバイー在住のラージャー(イムラーン・ハーシュミー)は、兄同然に慕うパートナーのラーガヴ(ディーパク・ティジョーリー)と共に小さな詐欺をして生計を立てていた。ラージャーには、ダンスバーで踊り子をするズィヤー(フマイマー・マリク)という恋人がいた。

 ズィヤーと早く結婚したかったラージャーは、手っ取り早く大金を稼ごうと思い、ラーガヴと共に2人の男から大金を盗み出す。ところがその金は、南アフリカ共和国ケープタウンを拠点とする大富豪ヴァルダー・ヤーダヴ(ケー・ケー・メーナン)のものだった。ヴァルダーは即座に刺客を送り、ラーガヴは殺されてしまうが、ラージャーは間一髪で助かった。

 ヴァルダーの息の掛かった警官がズィヤーの元を頻繁に訪れるようになり、ラージャーはムンバイーにいられなくなる。そこで彼は、ラーガヴから生前に聞いた、ダラムシャーラーに住む大物詐欺師ヨーギー(パレーシュ・ラーワル)に会いに行く。そして、ラーガヴが殺されたことを伝え、ヴァルダーへの復讐を助けるように頼む。ラーガヴはヨーギーの弟であり、彼はその復讐に協力することになる。

 ヴァルダーはクリケットに目がなかった。その弱点を突き、ラージャーとヨーギーのチームはケープタウンに渡って彼に接近する。そして、新しく創設されるクリケットチームのオーナーシップを持ちかける。ヴァルダーはそれに乗り気になる。一度は、ラージャーがズィヤーをケープタウンに連れてきたことで計画が頓挫しかけるが、彼をムンバイーにおびき出し、偽のオーナーシップのオークションに参加させることに成功する。ヴァルダーはオーナーシップを10億ルピーで買い取ろうとしていた。

 ところが、ズィヤーは警官に脅され、情報を横流ししていた。ヴァルダーは異変に気付き、手渡してしまった10億ルピーの小切手を無効化しようと必死になる。何とか小切手は無効化されたが、彼の銀行口座が不正アクセスを受ける可能性があったため、口座の凍結を行った。また、ラージャーは捕まり、殺し屋のジョジョ(ムハンマド・ズィーシャーン・アユーブ)に殺される。

 だが、全てはラージャーとヨーギーの計画通りだった。彼らが狙っていたのは、クリケットチームのオーナーシップ料である10億ルピーではなく、ヴァルダーの全財産150億ルピーだった。ヴァルダーの銀行口座のパスワードを盗み取った彼らは、ヴァルダーの全財産を自分たちの口座に移す。また、殺されたように見えていたラージャーも実は生きていた。密かにジョジョも仲間に入れていたのである。ズィヤーが情報を横流ししていたのも計画の内だった。

 ヴァルダーは全てを失った。そしてラージャーは、山分けした金をラーガヴの残された妻子に渡す。

 インドでは、詐欺師がいかに人をうまく騙すかを追った、いわゆる「コン映画」と呼ばれるジャンルが人気である。特に、決して人を傷付けず、腕力ではなく頭脳だけを使って金品だけを上手に巻き上げるタイプの非暴力主義なインテリ詐欺師がもてはやされる。人を騙すのも才能のひとつであり、たとえ詐欺師であっても才能は純粋に賞賛するという、何とも寛容な価値観がインド社会にはある。もちろん、それはあくまで傍観者としての見方であり、当事者になったら話は別だ。元々、インド社会では詐欺が横行しているため、インド人は普段から詐欺には敏感である。そんな警戒態勢の中、易々と詐欺を成功させてしまう敏腕詐欺師はやはり絶賛に値するのである。ナトワルラールもそんな詐欺師だった。

 「Raja Natwarlal」には、主に2人の詐欺師が登場する。一人はチンピラ同然の詐欺師であり、小さなターゲットを狙っては少額の金を騙し取っていた。主人公のラージャーである。もう一人はヨーギーで、リスクを取って大きな獲物を狙う、エキスパートの詐欺師であった。

 ヨーギーのモットーは、「仕事にプライベートを持ち込まない」であった。彼は実の弟のラーガヴすら、仕事のために犠牲にするほどであった。それに対しラージャーは、人と人のつながりを大切にする若い詐欺師であった。ヨーギーはラージャーをヒヨッコ扱いする。だが、ラージャーは敢えてヨーギーのモットーとは逆の道を歩み、ヴァルダーという超巨大な獲物を仕留めるのである。また、ラージャーは詐欺で儲けた金を自分のためでなく他人のために使っていた。その辺りも人情味のある詐欺師だといえる。

 パレーシュ・ラーワルとケー・ケー・メーナンは共にヒンディー語映画界を代表する個性的な演技派男優である。ケー・ケー・メーナンは騙され役のヴァルダーを演じるが、頭が切れるため、いつ自分の身に迫る詐欺に気付くかハラハラする。パレーシュ・ラーワル演じるヨーギーも、いつ悪役に転じるか知れないような信頼できない人物として描かれている。この二人の存在がこの映画をスリリングなものにしていた。

 もちろん、主演のイムラーン・ハーシュミーの演技も劣っていなかった。ヒロインのフマイマー・マリクについては、あまりいい出番が用意されておらず、消化不良だった。ムハンマド・ズィーシャーン・アユーブももう少し活躍の場があると良かった。

 「Raja Natwarlal」は、伝説の詐欺師ナトワルラールを目指す小物の詐欺師が、自分の兄貴分の仇を取るために大富豪を詐欺に掛けようとするコン映画である。スリリングな展開と、全てをひっくり返すようなエンディングが小気味よい作品に仕上がっている。