Ragini MMS 2

3.0
Ragini MMS 2
「Ragini MMS 2」

 ヒンディー語映画界で続編映画が作られるようになったのはそれほど昔のことではなく、2006年に公開された「Lage Raho Munna Bhai」と「Dhoom: 2」がその先駆けと言える。ただ、面白いのは、「~2」「~3」のように過去の作品の続編を匂わせていても、必ずしも前作とストーリー上のつながりがあるとは限らないことだ。既に「Lage Raho Munna Bhai」において、前作「Munna Bhai M.B.B.S.」(2003年)とストーリー上のつながりを欠いており、これがおそらく後の続編映画の流れを決めたのだと考えられる。さらに変わり種としては、「Waisa Bhi Hota Hai Part II」(2003年)という映画も過去にあった。「Part II」とあるが、「Waisa Bhi Hota Hai Part I」なる映画は存在しない。いきなり「Part II」から始まるという、観客を食ったような題名のコメディー映画であった。

 2014年3月21日に公開された「Ragini MMS 2」は、その名の通り「Ragini MMS」(2011年)の続編である。そして珍しいことに(!)、前作と完全に物語がつながっているタイプの続編映画だ。前作のエンディングがそのまま本作のオープニングになっている。監督はブーシャン・パテール。ホラー映画「1920」(2008年)の続編「1920: Evil Returns」(2012年)で監督デビューした人物であり、本作が2作目となる。

 「Ragini MMS 2」の目玉は何と言ってもインド系カナダ人ポルノ女優として有名なサニー・リオーネが主演であることだ。サニーは「Jism 2」(2012年)で既にヒンディー語映画デビューをしており、アイテムガール出演を除けば本作が2作目となる。彼女は2011年に結婚しており、ポルノ業界からは足を洗ったようだが、やはりセクシャルな魅力を売りにしてヒンディー語映画界に居場所を開拓していると言える。ヒンディー語映画界には、ビパーシャー・バス、マッリカー・シェーラーワト、ラーキー・サーワントなど、時代ごとにセックスシンボルと呼ばれる女優が登場したが、本物のポルノ女優が参戦したことで、今までのセクシー系女優たちはインパクトが薄れてしまったように感じる。「Ragini MMS 2」がユニークなのは、サニー・リオーネが本人役で主演を務めることである。つまり、元ポルノ女優としての経歴がそのまま劇中にも反映されている。

 それ以外のキャストでは、新人のサーヒル・プレームが重要な役を演じている他、前作で主演のラーギニーを演じたカイナーズ・モーティーワーラーも続けて出演している。他に、パルヴィーン・ダバス、サンディヤー・ムリドゥル、カラン・メヘター、ディヴィヤー・ダッターなどが脇を固めている。また、現在人気沸騰中の歌手ヨーヨー・ハニー・スィンがエンドクレジットのダンスナンバーに登場している。

 なお、Spuulというサイトで「Ragini MMS 2」のアンカットバージョンが無料で公開されていたため、それを鑑賞した。劇場公開時には上映できなかったシーンがあったようだ。ただ、アンカットと言っても1分ほど長くなっているだけなので、ストーリーに大きな変化はない。

 魔女が住むとされる呪いの館に迷い込んでしまったラーギニー(カイナーズ・モーティーワーラー)の身に起こった恐怖の出来事は、携帯電話や隠しカメラで録画されており、それはネット上で拡散して大きな話題となった。映画監督のロックス(パルヴィーン・ダバス)はラーギニー事件の映画化を思い立ち、主演としてポルノ女優のサニー・リオーネ(本人)を起用した。しかも、ラーギニー事件の現場である呪いの館でロケを行うことになった。

 撮影の前にサニーはラーギニーに会いに行く。ラーギニーは事件以来、精神が崩壊してしまい、精神病院に入院していた。ラーギニーは面会に来たサニーに襲い掛かり、彼女の目の前で自分の首を刺して死ぬ。また、ラーギニーの症状に興味を持った精神科医のミーラー・ダッター(ディヴィヤー・ダッター)は、呪いの館にまつわる過去の新聞記事を探したり、ラーギニーの様子を録画したビデオを何度も見返したりして、調査を開始した。

 映画の撮影が始まった。監督のロックス、主演ラーギニーを演じるサニーの他、作家のサティヤ・クマール(サーヒル・プレーム)、主演男優のマディー(カラン・メヘター)、脇役女優のモーナーリー(サンディヤー・ムリドゥル)などが館に宿泊し、残りのクルーは離れたゲストハウスで宿泊することになった。そして最初の夜から次々と彼らを異変が襲い始める。サティヤだけは異変に真剣に向き合っていたが、他のクルーはほとんど気にしなかった。

 一方、ミーラーはラーギニーがつぶやいていた謎の言葉を逆再生することで意味のある言葉になることを発見する。そこで語られていたのは、魔女とされて殺された女性の無念の気持ちだった。かつてこの家に住んでいた家族には2人の娘と1人の息子がいた。3人の子供たちが隠れん坊をして遊んでいたとき、誤って息子が井戸に転落し、死んでしまった。息子の死を信じられない母親は、その場を訪れた呪術師の言いなりになり、2人の娘を生け贄として捧げ、息子を生き返らせようとした。だが、呪術師は金目の物だけ奪って逃走し、母親は3人の子供を殺めた魔女として焼き殺されたのだった。息絶える前、母親は屋敷に呪いをかけ、でんでん太鼓を自分の首に刺して絶命した。このときから、この館には母親とその2人の娘の霊が出没するようになったのだった。そして、悪霊が最も力を持つのは、カールティク・プールニマー(11-12月の満月の日)であり、それが今日だった。

 満月の夜、呪いの館では殺戮が始まった。サティヤは、ラーギニーに取り憑いた魔女の霊が現在はサニーに取り憑いていることに気付くが遅かった。マディーやロックスなどがサニーに次々と殺されて行く。そこへ駆けつけたミーラーは、昔リシケーシュでサードゥから教わったマントラでサニーに取り憑いた悪霊を取り払おうとするが、うまく行かなかった。だが、でんでん太鼓が悪霊の命であることに気付き、それを破壊する。サニーは正気に戻る。

 前作「Ragini MMS」でユニークだったのは、登場人物の持つ携帯電話やビデオカメラで撮影した動画をつなぎ合わせる形でホラー映画にしていたことだった。世界的には「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」(1999年)がその先駆けで、ヒンディー語映画では「Love Sex Aur Dhokha」(2010年)で実験的に採用された手法であった。今回は、部分的にビデオ映像も使われていたが、基本的にはストーリーの連続性の方が重視されており、「MMS」の部分は無視された形になっていた。

 「Ragini MMS 2」の興行成績はヒットとなっている。ホラー映画としては、一定の怖さは達成しているものの、ヒットに値する何かがあったとはあまり思えない。やはりヒットに貢献したのはサニー・リオーネの存在と、劇中で狙い澄まされたように配置された数々のセクシーシーンであろう。ベッド上はもちろんのこと、バスタブ、シャワー、池など、数々の場所でサニーが妖艶な情事を繰り広げる。挙げ句の果てにはレズ物を思わせるサンディヤーとのキスシーンまである。インドの検閲の限界まで挑戦したと言っていいだろう。これは大衆層を中心にヒットしなければおかしいだろう。

 興味深かったのは、登場人物の台詞や行動の中にポルノ女優という職業に対する偏見と擁護が入り交じっていたことである。サニー・リオーネを起用するに当たって彼女に配慮したのか、それとも彼女の希望なのか、分からない。世間一般のインド人がポルノ女優に対して抱きがちな偏見と、それに伴う言動が、劇中にいくつも出て来ていた。例えば、ロックス監督は、サニーの出演するポルノビデオを見て興奮し、夜に彼女の部屋に乱入して本人で欲望を満たそうとする。普通の女優だったら、こんな酷い役は引き受けないだろう。そして、周囲のそのような偏見に対してサニーは、ポルノ女優という職業でも誰にでもできる訳ではないことを主張する。「Jism 2」では彼女は全く演技ができていなかったのだが、今回は彼女の気迫がひしひしと伝わって来た。おそらく真剣にヒンディー語映画界で女優を目指しているのだろう。そのために、自分の過去を弱みではなく武器にして、堂々と本人役を演じ切っていた。「Ragini MMS 2」はサニー・リオーネの決意の作品である。

 「Ragini MMS 2」にもうひとつヒットの要因があるとしたら、それは歌である。ミート・ブロス・アンジャーンの歌う「Baby Doll」と、ヨーヨー・ハニー・スィンの歌う「Chaar Botal Vodka」は、どちらもパンジャービーのダンスナンバーで大ヒットした。パンジャービー系の家系であるサニーのイメージともピッタリで、うまくパッケージ化できたと言えるだろう。

 個人的には「北インド最恐のオカルトスポット」と言われるバーンガルが台詞の中で言及されていたのがツボであった。ラージャスターン州のジャイプルとアルワルの間にある廃墟の町で、2008年にバイクで訪れたことがある。呪われた町とされており、ここで一夜を明かした者は生きて帰れないとされているため、インド考古局(ASI)のオフィスも遺跡の外に設置されているほどである。おそらくイルファーン・カーンが司会を務めるオカルト番組「Mano Ya Na Mano」でバーンガルが紹介されたために、映画でも言及されたのであろう。ただ、バーンガルとアジャブガルがセットになってオカルトスポットとして紹介されていたが、呪われているとされるのはバーンガルだけで、アジャブガルには現在でも人が住んでいる。

 「Ragini MMS 2」は、サニー・リオーネの起用や音楽の良さのおかげでヒットになった作品だ。ホラー映画としては並程度であるし、続編映画としても前作からコンセプトが踏襲されていない点が気になるが、一応前作で謎だった部分が解明されたところはすっきりした。終わり方から察するに「~3」もありそうだ。