Waisa Bhi Hota Hai Part II

3.5
Waisa Bhi Hota Hai Part II
「Waisa Bhi Hota Hai Part II」

 2003年11月14日、変な映画が上映され始めた。「Waisa Bhi Hota Hai Part II(そういうふうにもなっている:パート2)」。題名を正確に表記するなら、「Aisa Waisa Bhi Hota Hai Part II Ye Part 2 Kyu Hai?(こういうそういうふうにもなっている:パート2:このパート2ってのはなぜ?)」。この映画のパート1は今まで上映されておらず、いきなりパート2で始まっている。題名だけでもこの映画の変さが分かるだろう。映画のポスターはハードボイルドなアメコミタッチで、一人の男が「オレはお前の兄を殺した」とセリフをしゃべっており、もう一人の男が「オレのガールフレンドは警察だ」と言っている。そのそばで警察の制服を着た女性が立っている。全くどういう映画なのか読めない。チャーナキャーに深夜の回を観に行った。

 キャストはアルシャド・ワールスィー、サンディヤー・ムリドゥル、プラシャーント・ナーラーヤン、プラティマー・カーズミー、アーナンド・ジョーグ。監督はシャーシャンカー・ゴーシュ。テレビで活躍している俳優・スタッフが多い。

 ムンバイーの広告代理店に勤務するプニート(アルシャド・ワールスィー)は警察官のガールフレンド、アグニ(サンディヤー・ムリドゥル)と暮らしていた。実はプニートの兄パルヴィーンはマフィアだったのだが、プニートはそれを隠していた。兄とは長年音信不通になっていたが、ある日パルヴィーンが殺されたことが分かり、プニートは初めてアグニに兄のことを打ち明ける。アグニは今まで兄の存在を黙っていたことに怒り、彼を家から追い出す。

 酔っ払って外のベンチで眠っていると、そばで一人の男が数人の男に銃撃され始めた。プニートは訳が分からないまま血まみれの男を助け、病院に運ぶ。その男の名はヴィシュヌ(プラシャーント・ナーラーヤン)。凄腕の殺し屋だった。ヴィシュヌはプニートに恩を感じ、彼を自宅に住まわせた。プニートとヴィシュヌは全く違う仕事をしていたが、妙に気が合って、やがて固い友情で結ばれる。ヴィシュヌはマフィアの大ボス、ガンパト(アーナンド・ジョーグ)にプニートを引き合わせる。

 ガンパトにはガングー・ターイー(プラティマー・カズミー)という敵対しているマフィアがいた。ガングーこそがヴィシュヌに刺客を送り込んだ張本人だった。ガングーはヴィシュヌと共にいるプニートが、パルヴィーンの弟であることを突き止める。実はパルヴィーンを殺したのはヴィシュヌだった。ガンパトの組織内部で内輪もめを引き起こすため、ガングーはガンパトにその情報を垂れ込む。ガンパトはヴィシュヌに、プニートを殺すよう指示するが、ヴィシュヌは拒否する。ガンパトの別の部下がプニートを銃撃するが、ヴィシュヌは彼を助けた。しかしプニートはガングーの部下にさらわれてしまう。

 ガングーはプニートをなぜか気に入り、ガンパトの刺客から彼を守るため、自分のアジトに軟禁する。一度プニートは仕事を理由に外出を許可されるが、そのときアグニがガングーの逮捕状を持って乗り込んできて、ガングーを連れて行った。ガングーはすぐに釈放されるが、今度はガングーがアグニを誘拐し、アジトに引き連れてくる。そこへプニートが帰って来て、アグニを助けて脱出を図るが、プニートは逃げ遅れてしまう。仕方なくプニートは庭に停まっていた自動車のトランクの中に身を隠す。

 脱出に成功したアグニは、次の日警官を引き連れてガングーのアジトを襲撃する。しかしアグニの一瞬の隙をついてガングーは彼女を人質にとって、自動車で逃走する。その自動車のトランクにはプニートが隠れていた。

 一方、ヴィシュヌはガンパトと決別を決意し、彼の金を持って逃走していた。そこへちょうどガングーの乗った自動車がやって来たため、彼は運転手を撃ち殺すが、ヴィシュヌはガングーに撃たれてしまう。その隙にアグニはガングーを撃ち殺し、トランクの中にいたプニートを助け出す。ヴィシュヌはプニートの目の前で息を引き取る。プニートとアグニは、ヴィシュヌが持っていた大金を手に入れ、夢だったナイニータール生活が一気に現実のものとなった。

 ところで、ガンパトは、映画女優とベッドを共にするために単身ホテルを訪れていたが、そこでマヒマー・チャウダリーと偶然会って、絡んでいた。そこへスィク教徒の旅行者たちがやって来て彼女を救出した。こうしてガンパトはスィク教徒たちに無理矢理連れられてパンジャーブまで自動車で行くことになってしまった。

 マフィア抗争の映画だったにも関わらず、ドロドロしておらず、コメディータッチでさえあった。「A Not-Normal Urban Film」という宣伝文句通りの新感覚の映画で、けっこう楽しかった。ストーリーは複雑だったが、最後はうまくまとまっていた。

 まずは「Waisa Bhi Hota Hai Part I」が始まる。断片的な映像ばかりでよく分からない。しかしこれらの映像全てが物語の伏線となっている。「~Part I」は10分もしない内に終了する。次に「Waisa Bhi Hota Hai Part II」が始まる。ストーリーは上の通りだから詳しくは書かない。最後に「Waisa Bhi Hota Hai Part III」が流れるが、これはオマケみたいなものだ。プニートとアグニが大金を手にし、ガンパトがスィク教徒に連れられてパンジャーブへ行くシーンが映されるだけでエンドクレジットになる。

 プニートとアグニの友情は映画の核で、マフィア映画での常套手段だ。ギャングのボスと部下の友情が描かれた「Company」(2002年)、ギャングのボスと、その旧友(実は警官)との友情が描かれた「Footpath」(2003年)などが思い浮かぶ。ひょんなことから殺し屋の命を助けたことから、プニートとヴィシュヌの友情が始まる。プニートは、ヴィシュヌたちマフィアと会って話す内に、マフィアといってもみんないい奴ばかりであることに気付く。プニートが、パルヴィーンの弟であることを知った後でも、ヴィシュヌはプニートへの友情を曲げなかった。まずはプニートに銃を渡し、「オレがお前の兄を殺した。オレを撃て」と言う。しかしプニートは拒否する。「兄はマフィアをしていたから、殺されるのも運命だった。もし兄が軍隊にいて、パーキスターンとの戦争で殺されたら、オレはパーキスターン人全員を銃で殺すのか?」こうしてヴィシュヌはプニートが、彼を殺すためにわざと組織に潜入したのではないことを確信する。プニートの考え方は非常にインド的で、僕は感心した。まさに「バガヴァドギーター」でクリシュナがアルジュンに説いていること通りだ。命を危険にさらす職業に就いているなら、死ぬのも仕事の内である。日本人にはこの感覚が希薄だ。自衛隊に入っているなら、死ぬのも仕事の内であるはず。自衛隊イラク派遣問題において、その是非はともかくとして、自衛隊の隊員に犠牲が出るとか出ないとか云々の議論は焦点が間違っていると思う。

 ガングー・ターイーはこの映画の中でもっともキャラクターが際立っていた。ヴィシュヌ暗殺に失敗した部下たちに言う。「日本のマフィアのこと知ってるか?」いきなり日本が出てきたので何かと思ったら、ヤクザが指を切ることを言っているらしい。こうして暗殺に失敗した責任を取らされ、一人の部下が指が切られる。「日本のマフィアみたいにきれいに布に包んで、切り取った指を私のとこに持って来な!」ガングーの館にその指を見てガングーは叫ぶ。「どの指を切ったんだい!これじゃあ銃を撃てないだろ!」こうして可哀想に指を切り取られた部下の名前は以後「ウングリー(指)」となった。ガングーがプニートを「私に息子がいたら、あんたみたいだったろうよ。私のこと、お母さんって呼びな」と言ってかわいがるところも面白い。

 マヒマー・チャウダリーが本人役で特別出演していたのには驚いた。確か「Baghban」(2003年)でも特別出演していたような・・・。彼女は最近落ち目なので、こんな形でしかスクリーンに登場できないのか、と思ってしまう。

 インド映画にしては脚本が非常にしっかりできていた映画だった。というより、キャラクターを設定したら、自然とその登場人物たちが動き出してストーリーを作ってしまったような映画と表現したらいいだろうか。観客の受けもよかったので、少々ヒットしてもおかしくはない。