Issaq

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Issaq
「Issaq」

 2013年7月26日公開の「Issaq」は、ウィリアム・シェークスピアの有名な戯曲「ロミオとジュリエット」を、ウッタル・プラデーシュ州の古都ヴァーラーナスィーに移し翻案した作品である。題名は「愛」という意味の「इश्क़イシュク」が訛った形だ。

 監督は「Dil Dosti Etc」(2007年)のマニーシュ・ティワーリー。主演はプラティーク・バッバルと新人のアマーイラー・ダストゥール。他に、ラヴィ・キシャン、ラージェーシュワリー・サチデーヴ、マカランド・デーシュパーンデー、ニーナー・グプター、プラシャーント・ナーラーヤナン、スディール・パーンデーイ、プラシャーント・グプター、アミト・スィヤール、ヴィニート・クマール・スィン、エベリン・シャルマー、ユーリー・スーリーなどが出演している。

 ヴァーラーナスィーでは、ミシュラー家とカシヤプ家の間で抗争が続いていた。カシヤプ家の長ヴィシュワナーラーヤン(スディール・パーンデーイ)は妻を亡くし、パーロー(ラージェーシュワリー・サチデーヴ)と再婚していた。ヴィシュワナーラーヤンと前妻の間にはバッチー(アマーイラー・ダストゥール)という娘がいた。ヴィシュワナーラーヤンの弟ティータス・スィン(ラヴィ・キシャン)はパーローと密かに恋仲にあった。

 ミシュラー家の長マノーハルの息子ラーフル(プラティーク・バッバル)は、ホーリーの日にカシヤプ家の祝祭に忍び込み、バッチーを見て一目惚れする。ラーフルはバッチーに接近し、すぐに二人は恋仲になる。だが、カシヤプ家ではバッチーの縁談が進められており、警察官のプリータムとの結婚が決まっていた。ティータスはバッチーがラーフルと付き合っているのを知り、バッチーとプリータムの結婚を急ごうとする。ラーフルはバッチーを連れ出し、バーバー(マカランド・デーシュパーンデー)の下で婚姻の儀式を行う。

 ナクサライトのリーダー、マドラースィー(プラシャーント・ナーラーヤナン)はティータスの命を付け狙っていた。急に家からいなくなったバッチーを探してティータスがラーフルのところへ行く。ラーフルはバッチーと結婚したと明かし、ティータスは銃を抜く。ラーフルの親友ムラーリー(アミト・スィヤール)が応戦しようとするが、そこをマドラースィーは狙い、ティータスを撃つ。その銃弾はティータスをかすめるが、ティータスはムラーリーを撃ち、彼を殺してしまう。怒ったラーフルはティータスを殺す。

 ティータスを殺されて怒ったパーローは、プリータムを呼び寄せ、彼にラーフル殺害を命じる。プリータムはラーフルのもう一人の親友ビハーター(ヴィニート・クマール・スィン)を拷問し、彼の居場所を聞き出す。一方、プリータムと結婚させられそうになったバッチーはバーバーに相談する。バーバーは、20時間ほど死体のようになる薬を彼女の渡し、結婚式の前にそれを飲むように言う。バッチーは薬を飲み、倒れてしまう。

 ラーフルはヴァーラーナスィーに戻ってくるが、バッチーが死んだと聞かされショックを受ける。バッチーはバーバーのところに運ばれていた。ラーフルはバッチーを見に行くが、バーバーを殺したプリータムが待ち構えていた。ラーフルは応戦してプリータムを殺す。さらにそこにはマドラースィーも現れるが、彼も殺す。ラーフルはバッチーが死んでしまったと勘違いし、彼女のそばで自殺をする。目を覚ましたバッチーはラーフルの遺体を見て、彼女も自殺する。

 シェークスピア劇の翻案で有名なのはヴィシャール・バールドワージ監督で、これまで「マクベス」をもとに「Maqbool」(2004年)を、「オセロ」をもとに「Omkara」(2006年)を撮った。どちらも傑作の誉れ高く、バールドワージ監督の手腕が賞賛されたと同時に、シェークスピア劇をインド映画化しても成り立つことが証明された。しかしながら、誰でもシェークスピア劇を翻案すればいい映画ができるわけではないことがこの「Issaq」で示されてしまった。

 マニーシュ・ティワーリー監督の前作「Dil Dosti Etc」はとても好きな映画で、この「Issaq」にも大いに期待していたのだが、編集が雑すぎて、映画の体を成していないことがまず残念だった。シーンとシーンのつなぎがぎこちなく、所々ストーリーが飛ぶのである。さらに、ヒロインとして起用したアマーイラー・ダストゥールが大根役者すぎた。彼女以外の俳優たちはベテラン俳優揃いで、主演プラティーク・バッバルも好演していたが、肝心のアマーイラーがセリフ棒読みの演技をして映画を盛り下げていたのである。

 ラストも原作を踏襲しており、何のサプライズもなかった。ヴァーラーナスィーで「ロミオとジュリエット」をやるというアイデア自体は悪くないが、いくら舞台をインドに変えたとはいえ、この古典的恋愛物語をそのまま観客に提示するだけでは飽きられてしまう。現に興行的に大失敗しており、観客からは受け入れられなかったことが分かる。

 唯一工夫した点は、原作でいうティボルトとキャピュレット夫人の関係を変えたことだ。原作ではティボルトはキャピュレット夫人の甥にあたったが、「Issaq」ではティータスはパーローの夫の弟になっており、しかも不倫関係にあった。ティータスを殺されたことでもっとも復讐心を燃やしていたのもパーローであり、バッチーの許嫁プリータムにラーフル殺害を命じるのである。

 ストーリーにナクサライトが絡んでくる点も原作にないところだが、こちらは逆に物語を無意味に複雑にしており、「Issaq」の弱点になっていた。

 「Issaq」は、シェークスピアの戯曲「ロミオとジュリエット」を翻案した作品だが、編集の粗雑さやヒロインを演じた女優の未熟さなどの理由で完成度が低い。無理に観る必要はない映画である。