Hisss

3.5
Hisss

 インド神話には数々の空想上の生き物が登場するが、インド映画がもっとも好んで取り上げてきた化け物は蛇女かもしれない。インド二大叙事詩のひとつ「マハーバーラタ」には、パーンダヴァ五王子の次男アルジュナと結婚したナーガ(蛇)族の姫ウルーピーが登場する。ウルーピーは半人半蛇の姿で描かれることが多い。ウルーピーのイメージそのままに、「Nagin」(1976年)では、人に変身できる蛇女ナーギンが描かれ、この映画は大ヒットした。ナーギンは、プンギーと呼ばれる気鳴楽器による特徴的なメロディーを聞くと踊り出すとされるが、プンギーの音色と共に、両手で頭の上に蛇の頭の形を作って踊る蛇踊りは、インド人の大好物だ。

 2010年10月22日公開の「Hisss」は、「Nagin」とよく似た筋書きのナーギン映画である。監督は、「エレファント・マン」(1980年)や「ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間」(1992年)で有名なデイヴィッド・リンチ監督の娘、ジェニファー・リンチが務めている。ただし、ジェニファー・リンチ監督自身は、公開された「Hisss」は自分の作品ではないと主張している。リンチ監督が編集したものをプロデューサーが気に入らず、編集し直し、全く別の作品にしてしまったようである。

 主演は、「Murder」(2004年)や「Pyaar Ke Side/Effects」(2006年)などで有名な「セックスシンボル」マッリカー・シェーラーワト。全く台詞がないが、妖艶な肢体の蛇女をこれ以上にないほどセクシーに演じている。他に、イルファーン・カーン、ディヴィヤー・ダッター、ジェフ・ドーセット、ラマン・トリカーなどが出演している。

 舞台はケーララ州の田舎町ナッチ。脳癌を患い、余命半月の米国人ジョージ・ステイツ(ジェフ・ドーセット)は、ナーギンが持つという不老不死をもたらす宝石ナーグマニを求め、森林を探検していた。ジョージは、交尾をする雌雄の蛇を見つけ、雄の蛇ナーグを捕獲し、幽閉する。

 ナーグを取られた雌の蛇ナーギンは、人間の姿(マッリカー・シェーラーワト)になって、人間の住む町へやって来る。ナーギンは二人組の男たちにレイプされそうになるが、大蛇に変身して、一人を殺し、一人を呑み込んだ。

 警察官のヴィクラム・グプター警部補(イルファーン・カーン)は、半裸の状態で警察署に連れて来られたナーギンを保護し、恵まれない女性のための施設で働く妻マーヤー(ディヴィヤー・ダッター)に引き渡す。だが、ナーギンは夜中に施設を逃げ出す。そして、女性に暴行を加える男性たちを殺して回る。

 ナッチでは変死体が相次ぎ、グプター警部補は頭を悩ます。一方、ナーギンは幽閉されていたナーグを探し出し、交尾をする。そこへジョージが現れ、ナーギンを捕獲し、彼女にナーグマニを求める。だが、グプター警部補と新米警官ナヴィーン(ラマン・トリカー)が踏み込んでくる。ナヴィーンはジョージに撃たれて死ぬが、グプターはジョージを取り押さえる。ナーグは力尽きて死に、ナーギンは怒って大蛇の姿になって、ジョージを惨殺する。

 マーヤーは妊娠し、子供を産む。一方、ナーギンも身籠もっており、森林でたくさんの卵を産んでいた。

 B級映画として観ると非常に楽しい映画である。まず、やはりマッリカー・シェーラーワトのナーギン姿がはまっており、映画の最大の魅力になっている。元々肌の露出に積極的なマッリカーは、人間と蛇の姿を往き来するナーギンを、時に全裸で表現し、そのセクシーなボディーを存分に活用していた。真夜中、道端の街路灯に全裸でよじ登っていって、てっぺんでもだえるような、シュールなセクシーシーンもあったし、女体と蛇が絡み合う規格外の交尾シーンもあった。そしてナーギンになりきったマッリカーは、今回一言も台詞をしゃべらない。それがまた彼女にミステリアスなオーラを加えていた。とにかくマッリカーに始まりマッリカーに終わる映画である。

 自他共に認める「セックスシンボル」であるマッリカー・シェーラーワトと、演技派男優イルファーン・カーンの組み合わせも面白い。ただ、この二人が同じスクリーンに収まる機会は少なく、異なる映画が同時進行しているかのようだ。グプター警部補をいつものおとぼけな調子で演じるイルファーンの存在は、映画に心地よい軽妙さを加えていたし、これまた演技派女優として名高いディヴィヤー・ダッターが、グプター警部補の妻マーヤー役を演じ、深みを加えていた。マーヤーは子供を欲しているが、流産したりしてなかなか授からず、悩んでいた。また、イルファーンとディヴィヤーのベッドシーンもある。

 ジェニファー・リンチ監督が作ったインド映画ということもあり、話題性は高かったし、宣伝にも力が入っていた。カンヌ映画祭でプレミア上映され、マッリカー・シェーラーワトはカンヌまで行って、大蛇と共にプロモーションをした。

 また、映画音楽に参加しているアーティストの面々を見ても、その力の入れ具合が分かる。もっとも注目すべきは、ジョン・レノンの息子ジュリアン・レノンが「Sway (Mann Dole)」を作曲していることだ。インド系英国人ラッパー、パンジャービーMCも「I Got The Poison (Hisss Remix)」という曲を提供している。さらに、タミル語映画界のスーパースター、カマル・ハーサンの娘シュルティ・ハーサンが「Beyond The Snake」という曲の作詞と歌を担当し、このPVにも出演している。とにかく多彩な顔ぶれが揃ったサントラだ。

 それでも、「Hisss」は批評家から酷評され、興行的にも沈んだ。マッリカー・シェーラーワトは「The Myth」(2005年/邦題:THE MYTH 神話)でジャッキー・チェンと共演しており、国際的なスターを志向している。この「Hisss」が成功すれば世界での知名度は上がっただろうが、それは実現しなかった。

 「Hisss」は、マッリカー・シェーラーワト主演のナーギン映画である。イルファーン・カーンやディヴィヤー・ダッターのようなベテラン俳優たちの支えがあるものの、それを必要としないほど、マッリカー・シェーラーワトのナーギン姿が際立っており、B級映画として割り切って観れば楽しめる作品だ。音楽も意外に豪華である。カルト的人気が出てもいい映画ではなかろうか。


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