Jashnn

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Jashnn
「Jashnn」

 今週は「ハリー・ポッター」最新作公開のため、ヒンディー語映画の方は世界的人気作品との正面衝突を避けて控え気味となっている。まともな新作は、バット・ファミリーがプロデュースする「Jashnn」のみである。元々先週公開予定であった「Dekh Bhai Dekh」は、同名ドラマの存在から、「Dekh Re Dekh」に改名して今週公開となったが、限られた映画館のみでの上映となっている。とりあえず「Jashnn」を観た。2009年7月17日公開である。

監督:ラクシャー・ミストリー、ハスナイン・S・ハイダラーバードワーラー
制作:ムケーシュ・バット
音楽:トシ・シャリーブ
歌詞:クマール、ナウマーン・ジャーヴェード、ニレーシュ・ミシュラー
出演:アディヤヤン・スマン、シャハーナー・ゴースワーミー、アンジャナー・スカーニー、フマーユーン・サイード
備考:DTスター・サーケートで鑑賞。

 ミュージシャン志望のアーカーシュ・ヴァルマー(アディヤヤン・スマン)は、バンド仲間とうだつの上がらない生活を送っていた。姉のニシャー(シャハーナー・ゴースワーミー)は、有力な実業家アマン・バジャージ(フマーユーン・サイード)の愛人となっており、彼から支払われるお金のお陰で姉弟の生活は成り立っていた。アマンとアーカーシュの仲は良くなかった。

 ある日、アーカーシュはサラ(アンジャナー・スカーニー)という女の子と出会う。サラにはサマルというボーイフレンドがいたが、アーカーシュは彼女にアタックする。サラは彼とデートをし、サマルはボーイフレンドではないと告げる。アーカーシュは彼女に愛の告白をし、二人は付き合い始める。

 しかし、サラは実はアマンの妹であった。アマンはアーカーシュを妹から引き離そうとする。ニシャーもアマンから捨てられたら経済的に困窮するため、アーカーシュにサラのことは諦めるように言う。だが、アーカーシュはそれを拒否する。彼は家を飛び出し、バンドの練習場所であるガレージに住むようになる。ちょうどそのとき、サラも家を飛び出してガレージにやって来る。

 アーカーシュたちは何とかメジャーデビューしようと音楽会社を片っ端から当たる。だが、デモテープがないことには何もできなかった。そこでサラから借金をしてデモテープを作る。だが、アマンが裏で邪魔をしていたため、アーカーシュたちはどんなにあがいてもチャンスを掴めなかった。バンド仲間も遂にサラとは縁を切るように言い出す。絶望したアーカーシュはバンドを脱退し、サラとも別れ、酒場で飲んだくれる。支払いできないほど飲んでしまったアーカーシュはとうとう窃盗にまで手を出す。すぐにそれは見つかり、彼は店から放り出される。落ちるところまで落ちたアーカーシュは、音楽の夢を諦め、ホテルで掃除人をして稼ぐようになる。

 その頃、サラは妊娠したことに気付く。そのことはアマンにも知れてしまう。アマンは中絶を要求するが、サラはアーカーシュに最後のチャンスを与えるように頼む。最後のチャンスとは、もうすぐ開催されるミュージック・コンペティションであった。そこでアーカーシュが優勝したらサラは彼と結婚し、負けたら中絶して兄の元に戻るという約束をする。

 既に音楽を捨て去ったアーカーシュは、コンペティションに出演する気になれなかった。だが、サラが妊娠していることを知り、子供のために歌うことを決意する。コンペティションのスポンサーはアマンで、審判は買収されており、観客もアーカーシュを嘲笑した。だが、アーカーシュはひるまずに歌を歌う。その歌はアマンの心も動かし、彼はアーカーシュを優勝者と宣言する。

 駄目映画に特徴的なかったるい導入部と共に物語は始まる。しかも、主人公アーカーシュはミュージシャン志望の無職で、姉ニシャーは実業家アマンの愛人でほとんど売春婦というどん底の状態であり、ムードは暗鬱としている。アーカーシュがサラと恋仲になる下りは、依然かったるい展開ながらも映画に一時的に明るさをもたらすが、すぐに彼女はアマンの妹であることが明らかになり、当然アマンは2人の仲を認めないという袋小路状態に。そして駆け落ち同然の状態になった2人をアマンは徹底的に邪魔するという展開が続き、一向に主人公の運命線は上向かない。落ちに落ちたアーカーシュは遂に金に困って泥棒までしてしまう。このように、ほとんど明るい話題がないまま終盤まで突っ走る。そして迎えたクライマックス、コンペティションでアーカーシュが歌った歌がアマンの心を動かし、ようやく全てが丸く収まりそうになる、というところで映画はジ・エンドとなる。

 全体的に展開がかったるい上に、暗い話題ばかりなので、見ていて非常に気が滅入って来る映画であった。登場人物はほぼ不幸者か悪者のみなのも見ていて辛い。ヒロインの人物設定も説明不足で感情移入ができなかった。題名が「祝宴」なので、もっと明るい映画を想像していたのだが、それは間違いだったようだ。もしクライマックスがうまくまとまっていればもう少し高い評価もできたが、今までアーカーシュを毛嫌いしていたアマンが、大したことない歌をひとつ聞いただけで涙を流して改心するというのはいくらインド娯楽映画に慣れていても納得できない。一応「Rock On!!」(2008年)のように音楽をテーマにした映画なので、音楽には人一倍気合いを入れなければならなかったのだが、平均レベルにも達しない楽曲の数々で残念であった。基本的なプロットは昨年ヒットした「Rock On!!」に酷似しており、二番煎じと揶揄されても反論できないだろう。

 全体的に駄作であったのだが、もしこの映画の中から無理に美点を取り上げるとしたら、シャハーナー・ゴースワーミーの演技である。彼女は「Rock On!!」、「Firaaq」(2009年)と優れた演技を見せて来ており、実力派女優であることは薄々感じていたのだが、本作品において彼女の実力に疑いの余地がないことが明らかになった。肝の据わった演技のできる女優である。ヒロイン女優向けのルックスではないが、脇役女優やアート系映画の常連として大成しそうだ。

 主人公アーカーシュを演じたアディヤヤン・スマンや、悪役アマンを演じたパーキスターン人俳優フマーユーン・サイードも悪くなかった。ヒロインのアンジャナー・スカーニーは、キャラクター設定に難があったために損をしていた。「Golmaal Returns」(2008年)で聴覚障害の女性役を演じていた女優で、本作品では遂にヒロインの座を手に入れたが、まだ彼女の実力を計るのは早いと思われる。

 「Jashnn」は、そのおめでたい題名とは裏腹に、必要以上に暗鬱なムード漂う暗い映画である。完成度も低く、無理に観るべき映画とは言えない。スキップしても問題ないだろう。