2003年に、32歳童貞男性の童貞喪失ストーリーを描いたコメディー映画「Mumbai Matinee」が公開された。当時流行のヒングリッシュ映画であったが、ラーフル・ボースの好演もあり、なかなか面白い映画だったのを覚えている。2009年3月20日公開の「Straight」は、童貞喪失ストーリーに、「結婚」と「同性愛」というマサーラーを混ぜた、都会派映画になっている。先日観た「Aloo Chaat」(2009年)と同様に、都市在住マルチプレックス観客層向けの映画である。ちなみに、ソニー・ピクチャーズが出資している。
監督:パールワティー・バーラゴーパーラン
制作:シャルロット・ウォントナー、シュリーパール・モーラキヤー
音楽:サーガル・デーサーイー
作詞:スブラト・スィナー
衣装:アヌジャー・ジョーシー、プリヤダルシニー・マジュムダール
出演:ヴィナイ・パータク、グル・パナーグ、スィッダールト・マッカル、アチュラー・サチデーヴ、ダマン・バッガン、ケータキー・デーヴ、アヌジ・チャウダリー、ラスィク・デーヴ
備考:PVRアヌパム4で鑑賞。
ロンドン在住のインド人ピーヌー・パテール(ヴィナイ・パータク)は、幼い頃に両親を亡くし、叔父と叔母に育てられた。バンドの歌手を務めるラジャト(スィッダールト・マッカル)は彼の従兄弟であった。ピーヌーは現在、ロンドンで「ゲイロード」というインド料理レストランを経営していた。 ピーヌーはまだ独身であった。叔父と叔母はピーヌーを結婚させようと、お見合いをセッティングする。結婚が決まり、ピーヌーはインドへ行くが、結婚式当日に花嫁に逃げられてしまう。ピーヌーの独身生活はまだ続いた。 ある日、ピーヌーのレストランに一人の青年が求職にやって来る。彼はカムレーシュ(アヌジ・チャウダリー)と言った。カムレーシュはコメディアンを目指していた。ピーヌーはカムレーシュを雇う。また、叔父の紹介でレーヌー(グル・パナーグ)という女性もレジ係として雇う。人なつっこい性格のカムレーシュはすぐにピーヌーと打ち解ける。ピーヌーもカムレーシュと親しくし始める。また、レーヌーは密かにピーヌーに思いを寄せていた。 だが、ピーヌーは次第にカムレーシュがゲイで、自分も同性愛に目覚めつつあるのではないかと疑い始める。ピーヌーはラジャトに相談する。実はピーヌーは童貞であったが、童貞を捨てれば同性愛者の疑いは晴れるとの助言を受け、知り合いの女性にアタックし始める。だが、うまく行かなかった。 それでもピーヌーは、カムレーシュとレーヌーが仲良くしているところを見て嫉妬を覚えてしまう。どうしようもなくなったピーヌーは、レーヌーに濡れ衣を着せてクビにする。 その内、ピーヌーはお見合いをし、プリヤンカーとの結婚が決まる。結婚式前日、ピーヌーは偶然街角でレーヌーと出会う。漫画家志望の彼女は、似顔絵を描いて生計を立てていた。ピーヌーはレーヌーに謝り、彼女の家へ行く。そこでピーヌーは、実は自分はレーヌーに恋していたのだと気付く。2人はその晩結ばれ、ピーヌーも晴れて童貞を捨てる。 翌日目を覚ましたピーヌーは、今日が結婚式であることに気付く。結婚式を中止させるため叔母のところへ急ぐが、会場に叔母はいなかった。一方、叔母はピーヌーのレストランに来ていた。そこでピーヌーが結婚することを知らされたレーヌーはショックを受けて立ち去ってしまう。駆けつけたピーヌーは、ラジャトやカムレーシュと共にレーヌーを探す。だが、レーヌーは見つからなかった。 とりあえず結婚式会場へ行ったピーヌーは、招待客の前で自分がゲイだと宣言し、結婚式を中止させる。そのときまでにカムレーシュはレーヌーを見つけていた。ピーヌーはレーヌーのところへ行き、プロポーズをする。こうして2人は結婚することになった。
「Bheja Fry」(2007年)や「Dasvidaniya」(2008年)に続き、ヴィナイ・パータクの個性が光る、ライトでちょっとお下品なコメディー映画。生真面目で純真な中年男性を演じさせたらヴィナイ・パータクの右に出る者はおらず、また、彼の言動にはミスター・ビーン的な味があり、どんな映画でも自分色に染めることのできる俳優だと改めて感じた。同性愛疑惑、ED疑惑、バイアグラ多量摂取など、いくつか下ネタも出て来るため、現在公開中の似たような雰囲気の映画「Aloo Chaat」ほど家族向けの映画ではないが、総合的に見て「Aloo Chaat」よりも面白い映画であった。
この映画のミソは、ピーヌー、レーヌー、カムレーシュの勘違い三角関係であろう。ピーヌーは、いくつかの出来事を経て、カムレーシュが同性愛者で、自分も同性愛に目覚めつつあり、カムレーシュに恋して始めているのではないかと誤解する。そして、レーヌーとカムレーシュが仲良くしているところを見て嫉妬する自分がいるのを発見し、その嫉妬は、カムレーシュをレーヌーに取られることに対する嫉妬なのではないかと疑う。だが、実際は、ピーヌーはレーヌーに恋しており、カムレーシュにレーヌーが取られるかもしれないと思っていたために嫉妬を覚えていたのだった。
また、映画に一貫するメッセージとなっていたのは、「完全な人はいない」ということだった。レーヌーは漫画家で、人間の不完全さを愛しており、それを絵にしようと努力していた。それを知っていたピーヌーは、レーヌーへの愛の告白のときに、「僕ほど不完全な人間はいないよ」と言う。映画の副題になっている「Ek Tedhi Medhi Love Story」も、「あるデコボコの不完全なラブストーリー」という意味で、映画の主題に合致している。
ヴィナイ・パータクは映画の中心であり、彼の個性によってこの映画は完成していた。だが、ヒロインのグル・パナーグも同じくらい輝いており、彼女にとって大きな前進となったと言える。元ミス・インディアのグル・パナーグは、映画界では決して正当に評価されていない。だが、時々いい映画に出演し、好演しているため、これからも期待できそうである。
ピーヌーの一家はグジャラート人という設定であったため、所々にグジャラーティー語が入っていたが、基本的には台詞はヒンディー語と英語である。
「Straight」は、ちょっとした下ネタが散りばめられたライトなコメディー映画である。気軽で気楽な暇つぶしを求めるマルチプレックス観客層をターゲットにした映画で、楽しめないことはないが、通常の娯楽映画ファンには物足りなく映るだろう。だが、現在公開中の類似した映画「Aloo Chaat」よりも少しだけ面白い。どちらか迷っている人には断然「Straight」をオススメしたい。