Bhagam Bhag

3.5
Bhagam Bhag
「Bhagam Bhag」

 2006年もあとわずかとなり、クリスマスを含む週となった。だが、インドの映画界はあまりクリスマスとは関係なく動いており、2006年12月22日に公開されたヒンディー語映画は「コメディーの帝王」プリヤダルシャン監督の最新コメディー映画「Bhagam Bhag」1本のみであった。題名の意味は「慌てふためいて走り回ること」である。

監督:プリヤダルシャン
制作:スニール・シェッティー
音楽:プリータム
歌詞:サミール
出演:アクシャイ・クマール、ゴーヴィンダー、パレーシュ・ラーワル、ラーラー・ダッター、アルバーズ・カーン、ジャッキー・シュロフ、ラージパール・ヤーダヴ、マノージ・ジョーシー、シャクティ・カプール、シャラト・サクセーナー、アスラーニー、ラザーク・カーン、タヌシュリー・ダッター、アミター・ナンギヤーなど
備考:PVRバンガロールで鑑賞。

 チャンパク・セート(パレーシュ・ラーワル)率いる舞踊劇団は、英国に住むNRI(アスラーニー)に気に入られ、ロンドン公演のチャンスを得る。ところが、直前になって劇団員のバンティー(アクシャイ・クマール)とバーブラー(ゴーヴィンダー)の行動に嫌気が差し、ヒロイン(タヌシュリー・ダッター)が脱退してしまう。とりあえずヒロインなしでロンドンに到着した彼らは、現地でヒロインに値するインド人女性を探すことになる。チャンパクは、「ヒロインを連れて来た者が主役」と宣言する。バンティーとバーブラーは急いでヒロインを探しに出る。

 ロンドン在住のタクシー運転手グッルー(ラージパール・ヤーダヴ)に教えられた通り、2人はまずは宿泊先の近所の公園でインド人女性を探す。ところが、そこにはMBガーンディー(マノージ・ジョーシー)の手下たち(シャラト・サクセーナーなど)が麻薬の取引に来ていた。バンティーとバーブラーは取引相手に間違えられ、ヘロインを渡される。2人はそれを警察に持っていくが、JDメヘラー警視総監(ジャッキー・シュロフ)に疑われる。また、MBガーンディーらはバンティーとバーブラーを秘密警察と勘違いする。

 バンティーはグッルーに連れられて、ヒロイン探しを手伝ってくれるというグル(シャクティ・カプール)のところへ行く。グルはハッカー(ラザーク・カーン)を紹介する。ハッカーは、ヒロインはドイツにいると言う。そこでみんなでドイツまで行くことになったが、その途中、ムンニー(ラーラー・ダッター)というインド人女性に会う。バンティーは彼女をヒロインにすることに決めた。ところが、この道中でグルは車から放り出され、大怪我を負ってしまう。このときからグルはバンティーを目の敵にして追い回すようになる。

 バンティーは意気揚々とムンニーを連れ帰る。約束通り、バンティーは主役の座を与えられた。ところが、ムンニーには自殺願望があることが発覚する。自動車にはねられた彼女は病院に搬送される。ムンニーの本名はニシャーと言い、夫もいた。夫のヴィクラム・チャウハーン(アルバーズ・カーン)が病院まで彼女を迎えに来た。ところがその夜、ニシャーから劇団に電話がかかってくる。ニシャーはバンティーに「今すぐ来てくれないと焼身自殺する」と言う。大急ぎでヴィクラムの家に駆けつけたバンティー、バーブラー、チャンパクであったが、既に彼女は焼身自殺をした後だった。

 こうしてヒロイン探しは振り出しに戻ってしまった。結局、ヒロインなしの演目をすることになった。ところが劇場において、ニシャーの亡霊が目撃される。バンティー、バーブラー、チャンパクはニシャーを探すが、突然ヴィクラムが現れ、しかも銃で撃たれて死んでしまう。三人は死体を隠して劇を終わらすが、その最後に死体がステージ上に投げ出される。死体と共にチャンパクのクルターやバーブラーのネックレスも発見され、三人は逮捕される。

 一方、MBガーンディーの手下たちは、バンティーとバーブラーを抹殺しようと計画していた。彼らは、バンティーらが乗ったタクシーに手榴弾を投げ込む。間一髪でみんな外に飛び出し、その隙に逃げ出す。3人は、無実を証明するため真犯人を探し出すことを決める。最も怪しいのはニシャーであった。死んだはずなのに目撃情報が相次いでおり、死んでいない可能性があった。ヴィクラムの家を捜索したところ、旅行会社の電話番号が出て来る。それは明らかにニシャーの筆跡であった。彼らはその旅行会社の前で張り込む。そこへやって来たシータルという女性の後をつけたところ、遂にニシャーまで辿り着いた。ニシャーはやはり死んでいなかった。バンティーとバーブラーはニシャーを追いかける。ニシャーは街中の時計塔に逃げ込む。

 ニシャーを探している途中、チャンパクはMBガーンディーの一味に捕らえられ拷問を受ける。また、グッルーはグルたちにタクシーを奪われてしまう。バンティーを探し出さなければ返してもらえなかった。バンティーを発見したグッルーは、グルに電話をして知らせる。また、バンティーとバーブラーはJDメヘラー警視総監に電話をする。さらに、ニシャーが逃げ込んだ時計塔では、MBガーンディーが麻薬の取引を行おうとしていた。こうして、ひとつの時計塔に全ての役者が揃うことになった。

 バンティーとバーブラーはニシャーを追い詰める。追い詰められたニシャーは本当のことを話す。彼女はヴィクラムの妻ではなく、本名はアディティーであった。彼女はヴィクラムと契約を交わし、妻になりすましていただけであった。ヴィクラムの本当の妻の名前はニシャーで、彼はニシャーを殺そうとしていた。ヴィクラムはアディティーを妻に見せかけ、しかも自殺癖があることを世間に知らしめた上で、ニシャーを殺す計画を立てた。アディティーが夜にバンティーに電話をした後、ヴィクラムはニシャーにガソリンをかけ、火を付けて殺した。だが、その計画を知ってしまったアディティーはそれを止めようとしたため、ヴィクラムに殺されそうになった。アディティーは何とか逃げ出し、劇場にも来たが、その場にはヴィクラムも来ていた。だが、ヴィクラムを殺したのは彼女ではなかった。何と真犯人はJDメヘラー警視総監であった。

 そこまで話したところで、その場にJDメヘラーが駆けつける。彼はなぜヴィクラムを殺したのかを話し出す。実はニシャーはJDメヘラーの妹であった。妹を殺されたJDメヘラーは隙を見てヴィクラムを殺したのであった。JDメヘラーはバンティー、バーブラー、アディティーを殺そうとするが、その場へグル、ハッカー、グッルー、MBガーンディー、チャンパクらも駆けつけ、大騒動となる。しかも蜂の巣を刺激してしまったため、全員蜂に襲われて外に出る。そこへはしご車が駆けつけ、彼らを救出しようとするが、全員我先にはしごによじ登ったため、はしごは故障してしまい、あちこち回転しまくる。彼らは次々に振り落とされる。

 結局JDメヘラーは逮捕され、バンティー、バーブラー、チャンパクらは大怪我を負って入院する。だが、バンティーとアディティーは結ばれるのであった。

 ヒンディー語映画界で「コメディーの帝王の称号を持つ映画監督と言ったら、デーヴィッド・ダワンかプリヤダルシャンであろう。だが、手数から言ったら最近は圧倒的に後者の方が上手である。プリヤダルシャン監督は既に、プリヤダルシャン・スタイルと呼んでもいい一定のスタイルのコメディーを確立している。彼が得意とするのは、大勢の登場人物が複雑に絡み合ってドタバタ劇を繰り広げるタイプの映画である。しかも、彼は映画のタイトルに好んで大騒動を予感させる意味の単語を付ける。「Hera Pheri」(2000年)、「Hungma」(2003年)、「Hulchul」(2004年)などがその例である。この「Bhagam Bhag」は、その大騒動シリーズの最新作と言える。脚本はプリヤダルシャン直属の弟子、ニーラジ・ヴォーラーである。ニーラジ・ヴォーラーは「Phir Hera Pheri」(2006年)を監督している。

 プロデューサーは俳優スニール・シェッティー。彼はポップコーン・モーション・ピクチャーズというプロダクションを所有しており、「Bhagam Bhag」はラージ・メヘターのアシュタヴィナーヤク・シネヴィジョン社と共同で制作された。ポップコーン・モーション・ピクチャーズは過去に、「Khel」(2003年)や「Rakht」(2004年)を制作している。スニール・シェッティーは俳優としては落ち目なので、確かに映画制作は保険になるかもしれない。だが、今のところ過去の2作品はヒットしておらず、この「Bhagam Bhag」に期待が集まる。

 ところが、公開前にはちょっとしたアクシデントがあった。実はこの「Bhagam Bhag」、マラヤーラム語映画の「Mannar Mathai Speaking」(1995年)のリメイクらしい。同作品の監督マニ・カッパンはスニール・シェッティー、プリヤダルシャン、ニーラジ・ヴォーラーらに対して訴訟を起こした。彼らはリメイクであることを素直に認め、マニ・カッパン監督に賠償金として750万ルピーを支払う羽目になった。

 映画の感想を一言で言い表すならば、コメディー映画としては上出来、プリヤダルシャン映画としては中程度、と言ったところであろう。やはり「コメディーの帝王」の作るコメディー映画にはどうしても期待以上の作品を求めてしまう。コメディー映画なので、途中の展開にはそれほど整合性は必要ない。ただ笑わせてくれればいい。だが、まとめだけはしっかりやってもらいたい。その点で「Bhagam Bhag」のクライマックスはちょっと物足りなく、プリヤダルシャン映画に対する期待に答えられていなかった。どちらかというと前半が最高に面白かった。

 だが、本作品はただのコメディー映画でなかったところに、プリヤダルシャン監督の遊び心が感じられた。前半は確かに完全なコメディーなのだが、ムンニーの「幽霊」が現れる辺りから映画にはサスペンス映画的要素が加わってくる。そして劇場での殺人事件。プリヤダルシャン監督はこの映画において、コメディーとサスペンスという全く逆の性格のラサ(情感)を融合させることに挑戦したと言っていい。そしてそれはある程度成功していた。それを考えると、「Bhagam Bhag」は非常にユニークな作品である。

 主演の3人は素晴らしかった。アクシャイ・クマールは、プリヤダルシャン監督の「Hera Pheri」と、デーヴィッド・ダワン監督の「Mujhse Shaadi Karogi」(2004年)によってコメディアンとしての才能を開花させた。言わば、2人の「コメディーの帝王」の申し子である。ゴーヴィンダーは国会議員に立候補して以来、数年間銀幕からは遠ざかっていた。元々そのコメディアンとしての才能や踊りのセンスには定評のあった俳優である。本作でもまだまだ現役であることを示していた。極めつけは現在ヒンディー語映画界最高のコメディアン俳優と言っても過言ではないパレーシュ・ラーワル。プリヤダルシャン映画の中の彼はいつも同じようなとぼけたキャラなのだが、それがやけに笑えるのだ。そしてこの三人が織り成す絶妙のギャグシーンは、観客を爆笑の渦に巻き込まずにはいられない。

 脇役陣も定評のあるコメディー俳優・脇役俳優が固めていた。ラージパール・ヤーダヴ、シャクティ・カプール、ラザーク・カーン、シャラト・サクセーナー、アスラーニー、マノージ・ジョーシーなどなど。ジャッキー・シュロフはかつては主役をはれる男優だったのだが、今では脇役俳優としてのキャリアを着実に伸ばしている。サルマーン・カーンの弟のアルバーズ・カーンはパッとしなかった。

 一方、女優陣は出番も少ないし、問題も多かった。ラーラー・ダッターはミスキャストだったと思う。見せ場もほとんどなかったし、彼女が出る意味も感じなかった。もう一人のヒロイン、タヌシュリー・ダッターはほとんど特別出演で、冒頭のミュージカル「Pyar Ka Signal」とその後の数シーンのみの出演。だが、ムチムチボディーをギリギリまで露出させて踊る彼女の方が、ラーラー・ダッターよりも印象が強かった。非常にもったいない使い方であった。

 映画のロケの大部分は、英国オックスフォード大学で行われたようだ。ロンドンのランドマークも多数出て来ていた。劇団員の中でアクシャイ・クマール演じるバンティーのみが、英文学士号を取得していたために英語が話せるという設定で、言葉の通じなさをネタにしたギャグもいくつかあった。

 「Bhagam Bhag」は、コメディー・サスペンスという新たなジャンルの映画だと言っていい。だが、プリヤダルシャンらしさが最も出ているのは、コメディーに重点を置いた前半である。プリヤダルシャン監督の最高傑作とは言えないが、コメディー映画としては逸品である。


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