36 China Town

2.0
36 China Town
「36 China Town」

 かなり暑くなって来たが、今日も頑張ってバイクでPVRアヌパム4まで行き、本日(2006年5月5日)公開の新作ヒンディー語映画「36 China Town」を観た。題名は映画の舞台となる住所であり、特に深い意味はない。プロデューサーはスバーシュ・ガイー、監督は「Ajnabee」(2001年)や「Aitraaz」(2004年)などのスリラーを得意とするコンビ、アッバース・マスターン、音楽は今絶好調のヒメーシュ・レーシャミヤー。キャストは、アクシャイ・カンナー、カリーナー・カプール、シャーヒド・カプール、ウペーン・パテール(新人)、パレーシュ・ラーワル、ジョニー・リーヴァル、パーヤル・ローハトギー、タナーズ・ラール、ラージ・ズトシー。その他、イーシャー・コッピカル、タヌシュリー・ダッター、プリヤンカー・チョープラーが特別出演。

 ゴアのチャイナタウンでカジノを経営する大富豪ソニア(イーシャー・コッピカル)は、行方不明になってしまった一人息子ヴィッキーに250万ルピーの懸賞金を懸けていた。ゴアで行方不明になったヴィッキーはなぜかムンバイーにおり、映画スターを夢見てムンバイーへやって来たラージ(シャーヒド・カプール)と、お見合い結婚と失恋のダブルパンチに打ちのめされてムンバイーをさまよっていたプリヤー(カリーナー・カプール)に発見される。二人は250万ルピーの懸賞金を山分けすることに決め、ソニアに電話をして、バスでゴアへ向かった。

 二人が「チャイナタウン36番地」にあるソニアの邸宅に着いた頃は既に真夜中になっていた。人気のない邸宅に入った二人は、ソニアの死体を発見する。急いで二人は逃げ出したが、慌てていたプリヤーはスーツケースを邸宅に置いてきてしまった。

 ソニア殺人事件は、カラン刑事(アクシャイ・クマール)が担当することになった。カランは早速ラージ、プリヤーを捕まえた他、遺体をプリヤーのスーツケースに入れて持ち運んでいた夫婦KK(ジョニー・リーヴァル)とルビー(タナーズ・ラール)、そして殺人があった夜にKKと共に夜通しギャンブルをしていたホテルのオーナー、ナトワル(パレーシュ・ラーワル)とその妻グレイシー(パーヤル・ローハトギー)、また、その夜グレイシーと共にいたゴア切ってのプレイボーイ、ロッキー(ウペーン・パテール)など、次々と容疑者を捕まえた。それぞれの容疑者は隠し事があって嘘の供述をするが、カランは嘘を的確に嘘を見抜き、事件の犯人をズバリ言い当てる。

 題名から、何か中国と関係ある映画なのかと期待しまうが、中国っぽいモチーフが用いられているもののほとんど中国とは関係ない。ゴアのチャイナタウン36番地にある邸宅で起こった殺人事件と、それを巡る1人の刑事と7人の容疑者の駆け引きを描いたスリラー映画。だが、スリラーの部分よりもむしろ、映画の息抜きになっているコメディーシーンの方が秀逸な映画であった。

 こういうスリラー映画では、あっと驚く真犯人の存在と、巧妙に張り巡らされた伏線が評価の対象になる。だが、この映画ではそのどちらも弱かった。あらすじの中で真犯人に関して書かなかったが、実は真犯人はメインキャストの中にはいない。こういうどんでん返しはスリラー映画にはよくある手法であり、映画をよく見ている人なら序盤からその展開は予想できたはずである。その割に伏線や殺人の動機に説得力がなく、スリラー映画としての質は著しく低かった。

 コメディー映画としての成功は、2人のコメディアン、パレーシュ・ラーワルとジョニー・リーヴァルの存在に拠るところが大きい。パレーシュ演じるナトワルと、ジョニー演じるKKは、二人ともギャンブル好き。だが、ナトワルはギャンブルで金持ちの妻の財産をかなり食い潰してしまったため、現在ではギャンブル禁止となっている。しかし、ギャンブル禁断症状が出て来ており、ついついふらふらとカジノへ迷い込んでしまう。一方、KKはあるバーバー(行者)から授かった「予知のサイコロ」を武器に、ゴアのカジノで一儲けしようと企んでいた。この二人がタッグを組んでルーレットに挑戦するのだが・・・結果は惨敗。しかも殺人事件に巻き込まれ、観客を大爆笑させてくれる。

 この映画がもしヒットしたら、それは映画そのものの力ではなく、音楽監督ヒメーシュ・レーシャミヤーのおかげと言えよう。ヒメーシュ・レーシャミヤーは現在最も勢いのあるシンガーソングライターで、彼が作曲し、かつ自ら歌を歌った曲はヒットを連発している。「Aashiq Banaya Aapne」(2005年)の同名曲、「Aksar」(2006年)の「Jhalak」、この「36 China Town」の「Aashqui Meri」、もうすぐ公開予定の「Tom Dick and Harry」の「Jhoom Jhoom」などが、最近のヒメーシュ作曲ヒメーシュ歌唱ヒット曲である。調子に乗った彼は最近、「Aap Kaa Suroor」というソロアルバムまでリリースした。「36 China Town」の音楽はヒメーシュ色がかなり強く出ており、ヒメーシュ・ブームに洗脳されているインド人観客を呼び込むだけの力があると思われる。

 実生活の恋人であるシャーヒド・カプールとカリーナー・カプールは、「Fida」(2004年)以来2度目の共演。この二人は案外相性がいいのだろうか、見ていてものすごく自然な感じがする。そして二人とも揃って二枚目半の演技をそつなくこなしていた。この映画がデビュー作となるウペーン・パテールは、見ていて苦笑いしたくなるほどのプレイボーイ役。アゴが割れている上に筋肉ムキムキという変な男優がまた現れた。

 「Shaadi Se Pehle」(2006年)に続き出演のアクシャイ・カンナーは、ふざけたキャラクターばかりの中で一人だけ真面目な刑事役。その真面目っぷりがまた周囲とのギャップを生んでいておかしい。アクシャイ・カンナーはいつの間にかけっこういい男優になっていると思う。そういえば、彼が英国紳士風の黒いスーツと帽子をかぶってチャイナタウン36番地の邸宅に入っていくシーンがあったが、あれは訳が分からなかった。

 イーシャー・コッピカルは殺される大富豪役で、冒頭のみに出演。タヌシュリー・ダッターは、シャーヒド・カプール登場シーンのミュージカル「Jab Kabhi」の相手役で特別出演。プリヤンカー・チョープラーは、事件解決後の後日談映像に出演。なんとアクシャイ・カンナー演じるカラン刑事の妻役であった。

 映画は中国と全く関係なかったものの、ダンスシーンには中国っぽいモチーフが出てきた。多分ノースイーストの人であろうが、東洋人っぽい顔をしたバックダンサーやエキストラも目立った。中には日本的モチーフまであった。例えば忍者とか、ハッピっぽいデザインの服とか・・・。また、シーンとシーンの間に日本語のヒラガナやカタカナが一瞬だけ見えたような気がする。言うまでもなく、インド人は中国と日本を未だに混同している。

 ところで、ゴアのチャイナタウンというのはおそらく架空のものであろう。僕の記憶が正しければ、インドにはチャイナタウンはコールカーターにしかない。チャイナタウンということでネオン街のような風景が映し出されていたが、おそらくタイのバンコクでロケされたのであろう。

 「36 China Town」は、ヒメーシュ・レーシャミヤーの音楽のヒットによりかなり期待されていた作品だが、蓋を開けてみると平均以下のスリラー映画であった。最初からコメディー映画と割り切って観に行けば何とか許せるレベルかもしれない。