今日は2005年4月22日公開の新作ヒンディー語映画「Waqt(時間)」を観た。映画館はチャーナキャー・シネマ。最近は専らPVRなどのシネコンや高級映画館で映画を観ており、チャーナキャーのような中級映画館で映画を観たのは久しぶりだった。インド映画は、観る映画館でもだいぶ印象が違うものだ。やはりチケットが安い映画館ほど、観客のボルテージは高い。
「Waqt」とは「時間」という意味。監督はTVドラマ畑から映画界へ進出したヴィプル・アムルードラール・シャー、音楽はアヌ・マリク。キャストは、アミターブ・バッチャン、シェーファーリー・シャー、アクシャイ・クマール、プリヤンカー・チョープラー、ボーマン・イーラーニー、ラージパール・ヤーダヴなど。
イーシュワル(アミターブ・バッチャン)は玩具会社を経営していた。妻のスミー(シェーファーリー・シャー)との間にはアーディティヤ(アクシャイ・クマール)という名の一人息子がおり、イーシュワルは溺愛していた。アディティヤは裕福な生活と父親の溺愛により、仕事もせず遊び歩く道楽息子に育ってしまった。アーディティヤの夢は映画スターになること。しかし、簡単に映画スターになれる様子ではなかった。イーシュワルの天敵、ナットゥーバーイー(ボーマン・イーラーニー)は事あるごとにアーディティヤの放蕩ぶりを馬鹿にしていた。 ある日、アーディティヤは勝手に結婚して花嫁を家に連れて来る。親に内緒で結婚したことにイーシュワルは激怒するが、花嫁はなんと天敵ナットゥーバーイーの娘プージャー(プリヤンカー・チョープラー)だった。ナットゥーバーイーに一泡吹かせることが出来て急に上機嫌になったイーシュワルは、盛大に結婚式を行う。ナットゥーバーイーも渋々2人の結婚を認めた。 アーディティヤとプージャーはギリシアへハネムーン旅行へ行ったが、2ヶ月も帰って来なかった。ハネムーンから帰って来た後も、アーディティヤはちっとも仕事をしようとしなかった。イーシュワルは焦っていた。なぜなら癌に冒されていることが分かり、医者には9ヶ月の命と診断されたからだ。イーシュワルはそのことをアーディティヤには隠し、何とか自分が生きている間に自立して欲しいと願うようになった。また、プージャーは妊娠しており、孫の顔が見れるかどうかも微妙だった。 2ヶ月以内に10万ルピーを稼ぐと約束したアーディティヤは、2ヶ月後になっても一銭も稼がず、5ヶ月後にあるオーディションを受けてスターになるまで待ってくれ、と呑気に構えていた。怒ったイーシュワルは、アーディティヤとプージャーを家から追い出し、庭にある掘っ立て小屋に住まわせる。最初は何かの冗談だろうと考えていたアーディティヤも、父親が本気であることを知るにつけ、何とか金を稼がなければならなくなり、危険なスタントマンをするようになる。 やがてオーディションの日が来た。このとき、イーシュワルとアーディティヤの仲は最悪の状態となっていた。アーディティヤはオーディションの合格し、ステージでパフォーマンスをするチャンスを得る。だが、イーシュワルの病状は悪化していた。偶然イーシュワルの病気のことを知ってしまったアーディティヤは、ステージ上で「どうか時間を、1分でもいいから父に時間を下さい」と訴える。会場にいたイーシュワルは、アーディティヤと抱き合い、父子の仲は回復する。だが、イーシュワルは危篤状態となる。と、同時にプージャーが産気付く。 病院に運び込まれるイーシュワルとプージャー。プージャーは無事に男児を出産する。イーシュワルは孫に自分の名前を与え、静かに息を引き取った。
余命幾ばくない父親と、仕事をしないで遊び歩く駄目息子の愛の物語。前半は爆笑、後半は爆涙の映画だが、ストーリーに捻りがなく、多少退屈だった。アルチーズ(グリーティングカードのチェーン)、ズーム(TVチャンネル)、インド生命保険社などとタイアップしていたが、おかげでそれらの会社の広告が随所に現れ、いい気分がしなかった。
何と言ってもこの映画はアミターブ・バッチャンとアクシャイ・クマールに捧げられたと言っていいだろう。実の息子アビシェーク・バッチャンが嫉妬するくらい、本物の親子のような絆が感じられた。アミターブ・バッチャンは最近コンスタントに演技力を要する役を見事に演じることに成功しており、円熟期を迎えている。アクシャイ・クマールは、もう独身の若者を演じるのは無理があるくらいの年齢になってしまっているが、演技力・アクション共に頑張っている。映画中、スタントマンの仕事をしているとき、アクシャイ・クマールが大勢の獰猛な犬に追いかけられるシーンがあるが、合成などが使われていたように思えず、本当に犬に追いかけられて全力疾走していたと見えた。決してスタントマンを使わないという彼のモットーはまだ貫かれているようだ。
プリヤンカー・チョープラーはますます美貌と演技が磨かれてきて、既にアイシュワリヤー・ラーイの次の世代の「インドの女神」の座を奪わんとしているほどだ。だが、この「Waqt」で演じたプージャーはあまり個性が際立っておらず、損をしていた。イーシュワルの妻を演じたシェーファーリー・シャーはかなり巧い女優だと感じた。調べてみたところ、「Rangeela」(1995年)でデビューし、「Mohabbatein」(2000年)や「Monsoon Wedding」(2001年)に出演しているが、それほど頻繁に映画には出ていない。
この他、コメディアン陣も秀逸だった。すなわち、ボーマン・イーラーニーとラージパール・ヤーダヴである。ボーマン・イーラーニー演じるナットゥーバーイーは、アミターブ・バッチャン演じるイーシュワルの天敵役で、顔を合わせては子供のような口喧嘩をしていた。そのやりとりが爆笑を誘った。また、ラージパール・ヤーダヴは、イーシュワルの家の使用人ラクシュマン役。非常に飲み込みが悪く、その大ボケ振りがまた爆笑を誘う。特にナットゥーバーイーとラクシュマンのやり取りは面白すぎる。というわけで、コメディー映画として見てもなかなかの出来だった。
音楽とダンスシーンもよかった。特にアーディティヤとプージャーの結婚式のシーン「Miraksam」、ホーリーのシーン「Do Me A Favour Let’s Play Holi」がベスト。どちらもアップテンポな曲と群舞で迫力がある。モロッコで撮影された「Subah Hogi」は映像が美しかったが、途中、アクシャイ・クマールがちょっとした岩山の上から落っこちるシーンがあった。あの落ち方はかなり本物っぽかったので、その後怪我しなかったか心配になってしまった・・・。全体的に、ミュージカルシーンとストーリーはあまり脈絡がなかったが。
アミターブ・バッチャンとアクシャイ・クマールの演技、プリヤンカー・チョープラーの美しさ、ダンスシーンの迫力、コメディーと涙の融合など、見所が多い映画だが、ストーリーがあまりに予想通りなので、不満に感じる人も多いと思う。「Waqt(時間)」があるときに観に行くといいだろう。