Rangeela

3.5
Rangeela
「Rangeela」

 1995年9月8日公開の「Rangeela(カラフル)」は、1990年代のヒンディー語映画を代表する作品のひとつだ。クライム映画やスリラー映画を好んで作ってきたラーム・ゴーパール・ヴァルマー監督が初めてロマンス映画に挑戦した点でも特筆すべきであるし、1990年代半ばから2000年代半ばまで最盛期にあったウルミラー・マートーンドカルのデビュー作でもある。タミル語映画界に旋風を巻き起こしていたARレヘマーンはこの映画でもってヒンディー語映画界にも進出し、その名を轟かせることになった。興行的にも大ヒットし、「3カーン」の一人、主演アーミル・カーンのキャリアにとっても重要なステップになった。

 主演はアーミル・カーンとウルミラー・マートーンドカルで、ジャッキー・シュロフが助演をしている。他に、グルシャン・グローヴァー、アヴタール・ギル、リーマー・ラーグー、アチユト・ポートダール、ラージェーシュ・ジョーシーなどが出演している。また、コレオグラファーのサロージ・カーンが特別出演している他、言われなければ分からないものの、レモ・デスーザ、マドゥル・バンダールカル、シェーファーリー・シャーもどこかに出ているようである。

 2023年4月27日に鑑賞し、このレビューを書いている。

 ボンベイ在住のミリー(ウルミラー・マートーンドカル)は女優を目指しながらバックダンサーをしていた。ミリーの幼馴染みで孤児のムンナー(アーミル・カーン)は映画館の前でダフ屋をして生計を立てていた。ムンナーはミリーに恋心を抱いていたが、なかなか言い出せなかった。

 スター俳優のラージ・カマル(ジャッキー・シュロフ)に気に入られたミリ-はヒロインに抜擢される。ムンナーはミリーの成功を喜ぶが、次第に彼は疎外感を感じるようになる。ミリーはラージ・カマルと過ごす時間を重視し始め、ムンナーはなかなか彼女と会えなくなった。

 ミリーは誕生日にゴアでラージ・カマルとロケをしていた。ムンナーはゴアまで彼女に会いに行き、指輪をプレゼントとして渡そうとするが、ラージ・カマルから彼女に贈られた豪華な首飾りを見て思いとどまる。ムンナーはボンベイに帰ってしまう。

 一方、ラージ・カマルは妻を亡くしており、新しく女性と関係を持つことを躊躇していた。だが、ミリーを強く愛するようになり、彼女に告白をしようと考え始めていた。

 ラージ・カマルとミリーが共演する映画が完成し、プレミア上映が行われた。ムンナーは上映会には現れず、ミリーの家族を通じて一通の手紙を送る。そこには、愛の告白と、ボンベイを去る旨が書かれていた。ミリーはラージ・カマルの運転する自動車に乗ってムンナーを追いかける。ラージ・カマルは、ミリーがムンナーを愛していることを知り、告白を諦め、ミリーに協力する。

 ムンナーに追いついたミリーは、彼に自分も好きだということを伝える。それを見てラージ・カマルは微笑む。

 まずはダンスシーンの多い映画であった。ARレヘマーン作曲の、当時としては斬新なメロディーとビートの楽曲ばかりで、それらをピチピチのウルミラー・マートーンドカルが見事なダンスによって表現し、さらに印象的なものにしていた。ハリウッドのミュージカル映画に近いダンスの入り方で、ストーリーとダンスシーンの境目は目立つ。また、コンテンポラリーダンスに近い踊りであった。ダンスシーンが多い分、ストーリー部分の内容は薄く、あらすじにすると簡潔にまとめられてしまう。アーミル・カーンもタポーリー・バーシャーを駆使してボンベイの下層民をかなりの精度で演じていた。アーミルとウルミラーの演技は素晴らしいかったが、それ以上にラージ・カマル役を演じたジャッキー・シュロフが渋すぎて、彼が裏の主役に思えてくる映画だった。

 「Rangeela」のロマンス映画としての主題は、「恋をしたら早めに告白」である。主人公のムンナーは、普段は兄貴然として振る舞っているが、意外に純情で、幼馴染みのミリーに恋心を抱きながら、彼女になかなか愛の告白ができずにいた。ミリーの父親から、過去の失敗談とそこから得られた教訓「好きな人ができたら早く告白しないと誰かに持って行かれてしまう」を聞いて、ミリーへの告白を焦る。だが、長年の夢が叶いヒロインとしてデビューしたミリーはスター俳優ラージ・カマルと多くの時間を過ごすようになり、ムンナーはその機会を得られなくなる。

 ラージ・カマルにしても、ミリーへの愛の告白をためらっていた。彼は過去に妻を交通事故で亡くしており、それがトラウマになっていたからだ。つまり、この映画に登場する主要な男性キャラは、好きな女性に告白できずにウジウジしている者たちばかりなのである。

 完全に男性視点の映画であり、その裏返しとして、女性キャラは地に足が付いていない。ウルミラー演じるミリーはとにかく天使のように天真爛漫で、女優になるという夢が実現に近づく中、幸せいっぱいで毎日を過ごしている。だから、ムンナーの気持ちにも気付かないし、ラージ・カマルが彼女を見つめる視線の奥にある感情を読み取ることもできない。ラーム・ゴーパール・ヴァルマー監督は、とにかくウルミラーを美しく描き出すことに全力を注いでおり、ミリーというキャラに深みを与えることには失敗している。

 ウジウジ男たちと脳天気女の三角関係、というのがこの映画のロマンス部分の本質であるが、それでも気持ちよく鑑賞を終えることができるのは、ラージ・カマルの潔さのおかげだ。ラージ・カマルは、ミリーに愛の告白をする寸前で、彼女が愛しているのはムンナーであることを知り、二人を結びつける手助けをする。その紳士振りと自己犠牲の精神があったからこそ、この映画はハッピーエンドに終わった。

 ラーム・ゴーパール・ヴァルマー監督らしい実験的な映像もいくつか見られた。例えば映画の冒頭ではクレジットと共に往年の名優たちの写真がスライドのように次々と投影される。何かと思ったら、それはビオスコープで、主人公ミリーが覗いていた図像であった。また、アーミルとウルミラーが踊る「Mangta Hai Kya」では、ニューヨークの空の上をソファーに乗った二人が飛ぶような合成映像が使われるなど、奇をてらった映像表現がしてあった。

 「Rangeela」は、奇才ラーム・ゴーパール・ヴァルマー監督が直球で作ったロマンス映画だ。とはいっても、ヴァルマー監督らしさが随所に見受けられ、一筋縄ではいかない作品になっているし、ウルミラー・マートーンドカルをデビューさせ、ARレヘマーンをヒンディー語映画界に紹介するなど、その後につながる実績も残している。ダンスシーンに注力しすぎて内容は薄いのだが、多くの点で非常に重要な作品である。