2003年度乗りに乗っている女優の一人、ウルミラー・マートーンドカルの新作が2004年1月16日に公開された。「Ek Hasina Thi(一人の美人がいた)」。同じく2003年公開の「Kal Ho Naa Ho」で株を上げたサイフ・アリー・カーンも主演。現在絶好調のこの二人の共演を、PVRアヌパム4で観た。
「Ek Hasina Thi」のプロデューサーは、安定した質の映画を提供することで定評のあるラーム・ゴーパール・ヴァルマー。ハリウッドの20世紀フォックスも出資している。監督はシュリーラーム・ラーガヴァン。キャストはウルミラーとサイフの他に、スィーマー・ビシュワース、プラティマー・カーズミーなど、ヒンディー語映画界の曲者女優が出演する。
サリカー(ウルミラー・マートーンドカル)はムンバイーの旅行会社に勤める独身のOLだった。サリカーはたまたまオフィスにやって来た実業家のカラン(サイフ・アリー・カーン)に口説かれ、次第に彼を恋するようになる。 ある日、出張に出掛けていたカランから電話が入る。友達がムンバイーに来るから、家でお茶でも飲ませてやってくれ、とのことだった。サリカーは何の疑いもなくOKする。やって来た友達は怪しい風貌の男だったが、カランの友達ということで歓待する。その男は、急用ができたようで、スーツケースを置いて外出してしまう。その日のニュースで、その男は指名手配犯で、しかも警察に射殺されたことが分かる。カランは、スーツケースをどこかに捨てるように指示するが、警察がやって来てしまい、サリカーは犯罪者擁護の罪で逮捕される。 カランはサリカーに、裁判で自分の名前を決して出さないよう、弁護士を通じて説得する。状況の辻褄が合わないため、裁判は不利だった。弁護士はサリカーに、罪を認めれば罪が軽くなると言い、サリカーもそれに従うが、裁判官は「安定した生活を送っていながら、故意にマフィアに手を貸すとは、同情の余地がない」として、彼女に7年の懲役を言い渡した。サリカーは、女性専用の監獄に入れられる。やっとムンバイーに戻ってきたカランはサリカーと面会するが、彼は「何とかして外に出せるように努力してるから、しばらく我慢してくれ。その内慣れるだろう。俺の名前だけは絶対に出さないでくれ」と言うだけだった。それを聞いてサリカーの表情が変わる。 サーリカーはネズミにも悲鳴を上げるような臆病な女性だったが、カランの裏切りを知ってからはまるで性格が変わり、ネズミも怖くなくなっていた。サリカーはカランに復讐するため、監獄の仲間と共に脱獄する。サリカーはまず弁護士を殺す。しかしカランに対しては、ただ殺すような簡単なことはしなかった。サリカーはカランが滞在していたデリーへ行き、彼をひたすら尾行する。カランがマフィアのアジトへ足を運んでいることを知った彼女は、カランが去った後にマフィアの幹部を殺害し、大金を奪う。すぐにそれはマフィアに知れ、カランが彼を殺したと疑われる。カランはマフィアに命を狙われることになる。また、脱獄と弁護士殺害から、サリカーにも警察の追っ手が迫っていた。 サリカーはカランと偶然を装って会い、命を狙われている彼を自分の住む家にかくまう。サリカーはまだ彼を殺そうとしなかった。やがてカランは、彼女が弁護士やマフィアを殺したことを知り、サリカーをマフィアに突き出すが、マフィアは泣き喚くサリカーの言うことを信じ、カランの言うことを信じなかった。そこへ警察が踏み込んできたため、場は混乱する。カランは何とか逃げ延び、停めてあった車に乗って逃走するが、その車にはサリカーも乗っていた。サリカーは彼に銃を突きつけ、そのまま運転させる。サリカーはカランを郊外の洞窟へ連れて行き、そこへ縛り付けて去っていく。 夜・・・。洞窟で拘束されたカランは、そこが大量のネズミの住処だということに気付く。周りからうじゃうじゃとネズミが出てくるが、彼は身動きができなかった。洞窟に悲鳴が響き渡る・・・。
サリカーの復讐がメインの、お化けものではないライトなホラー映画。ストーリーはよく出来ていた。あらすじも書きやすかった。安心して普通に楽しめる映画だが、あまりにハリウッド映画的すぎて、なんだか心の奥底から楽しめない。ハリウッド映画的映画はハリウッドが作っているのだから、インド人はインド映画の範疇でできることをやってもらいたいと思っている。だからそこまでこの映画を高く評価することはできない。しかしやはり特筆すべきは、ウルミラー・マートーンドカルである。
まるで最近のウルミラーは、「サイキック女優」になろうとでもしているかのように、精神的に異常をきたし気味の女性の役をやっている。2003年の「Bhoot」はその最たるものだが、「Pinjar」(2003年)でもヒステリックな表情を見せ、「Tehzeeb」(2003年)でも怒りに顔を震わせていた。この映画でも「Bhoot」に匹敵するほど、復讐に燃える怖い女の役。ウルミラーの目の怖いこと怖いこと・・・。もう彼女がピュアなヒロインをやっている映画を観られなくなりそうだ。
サイフ・アリー・カーンも、最近になってやっとブレイク気味である。なぜかサイフは脇役的出演が多かったのだが、2001年の「Dil Chahta Hai」辺りで一気に彼の運気が上昇し始め、ペプシのCMに出るようになった2003年ぐらいで最高潮に達しているように思える。最近流れているペプシのCM「Kisko Pyaar Karoon(誰に恋しちゃおうか)」は最高。彼の「What’s that!?」という仕草もかっこいい。インドに住んでいる人にはお馴染みのCMだが、日本では多分見れないと思うので、一応簡単に筋を説明しておく。
田舎のバスにサイフが一人で乗っていると、チアガールの衣装を着た若い女の子たちの群れが乗り込んでくる。彼女たちは外の店員にペプシを注文するが、ペプシが届く前にバスは出発してしまう。喉が渇いて死にそうな表情の女の子たち・・・そこでサイフがたまたま持っていたペプシの栓を開ける。一斉に振り向く女の子たち。そこで「誰に恋しちゃおうか」の音楽がかかり、サイフと女の子たちが踊りを繰り広げるが、それはサイフの妄想だった。バスが次のバス停に停車し、デブで醜い男がバスに乗り込んできて「ペプシ~」とペプシを売り出す。女の子たちは彼に群がる。それを見てサイフは「What's that!?」とつぶやく。
2003年に公開された大ヒット作「Kal Ho Naa Ho」では、どちらかというと助演男優という感じだったが、重要な演技をしていた。そしてやっと「Ek Hasina Thi」で、堂々の主演男優の座を獲得した。
二人の主演に負けないくらい存在感を示していたのが、スィーマー・ビシュワースとプラティマー・カーズミー。スィーマーは、これまた怖い女警官の役で、執拗にサリカーを追い回す。プラティマーは監獄にいた虜囚の一人。マフィアのボスで、監獄の中からマフィアを指揮していた。彼女曰く、マフィアにとって、監獄が世界で一番安全な場所らしい。この二人は要チェックの曲者女優である。
ストーリーの前半はムンバイー中心だったが、サリカーが脱獄してから舞台はデリーに移る。だから見慣れたデリーの街並みがあちこちで出てきて楽しかった。ヒンディー語映画を観ていると、大体舞台はムンバイーなので、ムンバイーに住んでるとさぞや楽しいだろうな~と思っていたが、最近はデリーロケの映画も増えて、デリー住民もインド映画を別の角度から楽しめるようになって来た。なんとちょうどこの映画を観ていたPVRアヌパム4の映画館と、その周辺のサーケートのマーケットも映画中出てきたので、変な気分だった。案外映画中に見慣れた場所が出てくると、映画に集中できなくなってよくないと思った。この場所からあの場所へ一瞬で行けるはずない、とか、実際の地理感覚が働いてしまって、気が散った。
「Ek Hasina Thi」は、ハリウッド映画を観るような感覚で楽しめる映画だが、正統派インド映画のファンには物足りないだろう。ミュージカルシーンは一切なし。2時間半ほどの映画である。