今日はPVRアヌパム4で、2002年11月1日公開の「Leela」という映画を観た。インド人監督、アメリカ在住インド人が主人公、言語はほとんど英語で、少しヒンディー語が混じる、というヒングリッシュ映画だった。監督はソームナート・セーン。出演はディンプル・カパーリヤー、アモール・マートレー、ディープティー・ナヴァル、ヴィノード・カンナー、グルシャン・グローヴァー。この中で僕が知っているのはディンプル・カパーリヤーぐらいだ。「Dil Chahta Hai」(2001年)でアクシャイ・カンナーの恋人役を務めたおばさんで、トゥインクル・カンナーのお母さんである。
クリス(本名クリシュナ、アモール・マートレー)はアメリカ生まれのインド人。インド人としてのアイデンティティーは全くゼロで、アメリカ人として生まれ育っていた。両親は離婚しており、クリスは母親チャイタリー(ディープティー・ナヴァル)と共に暮らしていた。父親のジャイ(グルシャン・グローヴァー)は時々クリスに会いにやって来るだけだった。 クリスの通っている大学に、ムンバイー大学からリーラー(ディンプル・カパーリヤー)という講師がやって来る。リーラーの授業を受講している内にクリスはリーラーに惹かれるようになり、インド文化にも興味を示し出す。実はリーラーの夫は有名な歌手ナシャード(ヴィノード・カンナー)だった。 リーラーは夫をインドに残してアメリカに来ていた。毎日夫に手紙を書いて送っていたが、次第に夫との間に溝を感じるようになって来る。また、クリスとは親しい仲になっていく。そしてある夜夫の家に電話したときに知らない女が電話に出たことをきっかけに、リーラーはクリスとベッドを共にする。 次の朝、家に帰ったクリスが見たものは、母親のボーイフレンドだった。クリスは自分に隠れてボーイフレンドを作っていた母親を嫌悪し、家を出る。父親の元に身を寄せたクリスだったが、父親もアメリカ人のガールフレンドを作っていた。 そんなとき、リーラーの夫ナシャードがアメリカにやって来る。ナシャードはクリスとリーラーが一夜を共にしたことを知るが、怒りもせずにそれを受け入れる。ニシャードが身内で小さなコンサートを開いたとき、クリスはギターで演奏に参加する。 リーラー教授の授業も終わり、リーラーは夫とインドへ帰った。クリスは最後にリーラーに「I Love You」と打ち明けるが、所詮適わない恋だった。その後、クリスと母親のチャイタリーもインドへ行くことになり、空港のカウンターで名前を聞かれたクリスは答える。「僕の名前はクリシュナです。」
アメリカ生まれのインド人、俗に言うABCD(American Born Confused Desi)の若者クリスと、インドからアメリカにやって来た崇高な雰囲気の女教授リーラーが主人公の物語だった。クリシュナという名前の少年が、いかにもインドっぽい名前を嫌って自分のことをクリスと名乗るのは、先に公開された「American Desi」(2002年)と全く同じだった。偶然にしてはできすぎだ。おそらくアメリカではよくあることなのだろう。最初クリスはインドの文化に全く共感を覚えていなかった。セリフ中には、以前クリスがインドに行ったときのことが語られる。曰く「最悪だった」と。でもその一方でクリスはサロードを習っており、けっこううまかったりする。
クリスのインドに対する見方が180度転換するきっかけとなったのが、リーラーとの出会いである。クリスはリーラーからインドの昔話を聞いたり、ヨーガの呼吸法を教えてもらったりしている内に、リーラーに恋するようになる。そしてリーラーが自宅を訪れるときに、無理してクルターを着たりする。
だが、クリスは18-9の少年、リーラーはもう40過ぎのおばさんである。まさかこの2人の間で恋愛まで発展するとは思ってもみなかった。そういえば「Dil Chahta Hai」でもリーラーを演じたディンプルは、年下の男(アクシャイ・カンナー)と禁断の恋愛をする役だった。僕はてっきりこの映画は、他のヒングリッシュ映画と同じく、在外インド人二世の、インド人としてのアイデンティティーの葛藤がテーマになると思っていたのだが、その部分は序盤ですぐに解決されてしまい、あとは少年とおばさんの恋愛が主軸となる。だから、主人公をインド人にする必然性が、他のヒングリッシュ映画に比べて少なかったようにも思えるが、やはり主人公がインド人だったから、安易な映画にならずに済んだかもしれない。特にリーラーと夫のナシャードの存在が映画を際立たせていた。
シーンとシーンのつなぎ目がラフで、ストーリーを追うのに想像力を働かさなければならなかったのは少しマイナス部分。難解な文学作品を読んでいる気分だった。だが、その独特の語り口に慣れてしまえば、あとはグッと惹き付けるものがある映画だ。
音楽はジャグジート・スィン。有名なガザルの歌い手である。彼の音楽も映画をいかにもインドの深遠に誘うのに一役かっていた。見終わった後の気分は映画「Kama Sutra: A Tale of Love」(1996年)に似ていた。割とタブーに触れるような筋で、ひとつ間違えばドロドロとした映画になってしまうところだったが、なぜか心がすっきりしていた。
客の入りは50%程度。「American Desi」は今のところまだ上映され続けているが、この「Leela」もロングランになる力は持っていると思われる。