Maa Tujhhe Salaam

1.5
Maa Tujjhe Salaam
「Maa Tujhhe Salaam」

 1999年、カシュミールの武装ゲリラに扮したパーキスターン軍兵士たちがカシュミール地方の管理ライン(LoC)を越境して国境近くの町カールギルを見下ろす戦略的な高所を占領したことで、印パ間でカールギル紛争が勃発した。宣戦布告がなかったため公式には「戦争」とはされていないが、人類が初めて経験する核保有国同士の直接的な武力衝突であり、世界中に緊張が走った。紛争は2ヶ月以上続いたが、その結果、インド軍が越境してきた敵をLoCの向こうに押し戻すことに成功したため、この紛争は一般にインドの勝利と認識されている。その直後、越境攻撃を指揮したパルヴェーズ・ムシャッラフ将軍はクーデターを起こし、パーキスターン政府を乗っ取って、自身が大統領の椅子に座ってしまった。

 「Maa Tujhhe Salaam(母国に敬礼)」は2002年1月25日公開の映画だが、これはカールギル紛争の興奮冷めやらない中、撮影された作品だ。紛争に勝利したことによる愛国的な高揚感、多くの犠牲者を出した悲しみ、そして理不尽な攻撃を仕掛けてきた隣国に対する怒りなどが世間の空気を支配していた。「Maa Tujhhe Salaam」は、当時のそんな雰囲気をよく留めた映画だ。

 「Maa Tujhhe Salaam」は明らかにカールギル紛争に着想を得て作られた映画である。カールギル紛争そのものではないものの、パーキスターン軍が越境してインド側のカシュミール地方に侵攻してくる様子はカールギル紛争そのものだ。

 監督は、スタント監督としての経験が長いティーヌー・ヴァルマー。音楽はサージド・ワージド。主演は、「Gadar: Ek Prem Katha」(2001年)で愛国的ヒーローとして人気絶頂期にあったサニー・デーオール。ヒロインはタブー。他に、アルバーズ・カーン、モーナール、モーハン・ジョーシー、スデーシュ・ベリー、シャラト・サクセーナー、ヴィヴェーク・シャウク、アヴタール・ギルなどが出演している。また、ティーヌー・ヴァルマー監督自身も悪役で出演している。マラーイカー・アローラーがアイテムナンバー「Sone Ke Jaisi Hai Meri Jawaani」でアイテムガール出演し、オーム・プリーがナレーションを務めている点にも注目だ。

 この映画の公開当時にはインドに住んでいたが見逃していた。2023年6月15日にYouTubeで鑑賞しこのレビューを書いている。

 インド陸軍のプラタープ・スィン少佐(サニー・デーオール)は部隊と共にカシュミール地方を分断するLoCを警備していた。プラタープは大佐の娘ソニア・カンナー大尉(タブー)と付き合っていた。

 LoC近くのジョーナーバード村は大地主ラーラー・スルターン(ティーヌー・ヴァルマー)によって支配されていた。ジョーナーバードの分離独立を望むラーラーは密かにパーキスターン軍のグルマスターン(スデーシュ・ベリー)と連絡を取っており、隣国から武器を密輸していた。ラーラーを慕う青年アルバクシュ(アルバーズ・カーン)は雪山を越境してはグルマスターンから武器を受け取り、ラーラーに届けていた。その武器は、狩猟や防衛に使われるものだと彼は考えていた。アルバクシュにはナルギス(モーナール)という恋人がいた。

 プラタープ少佐はソニア大尉との婚約式もあり、休暇を取って最前線から離れた。チャンスと見たラーラーはグルマスターンに連絡する。グルマスターンはいよいよカシュミール地方を取り戻すときが来たと考え、攻撃の準備をする。それを見たアルバクシュはインドの危機を感じ取り、グルマスターンを捕まえてインドに戻る。そしてグルマスターンをラーラーの前に突き出すが、ラーラーはアルバクシュを裏切り者呼ばわりし、警察に逮捕させる。アルバクシュは殺されそうになるが、牢屋から逃げ出す。

 プラタープ少佐とソニア大尉は、パーキスターンから武器を密輸していた青年がジョーナーバードにいるという情報を得て、現地に向かう。ラーラーの手下はナルギスを捕まえようとしていたが、プラタープ少佐が彼女を救う。ナルギスはアルバクシュも助けて欲しいと懇願する。プラタープ少佐はアルバクシュと会い、話を聞く。そして彼を逮捕した振りをして、ラーラーやグルマスターンを騙す。

 遂にグルマスターンが多くの兵隊を連れて越境してきた。最前線の塹壕ではプラタープ少佐の部下たちが必死に応戦した。インド陸軍に逮捕されていたはずのアルバクシュも現れ加勢するが、ラーラーによって撃たれ、捕まってしまう。アルバクシュはジョーナーバードで公開処刑されそうになるが、プラタープ少佐たちが彼を救出する。一転してプラタープ少佐たちは反撃に出る。グルマスターンは捕らえられ、ラーラーは殺される。

 インド国旗を守るためにいくつもの銃弾を受けたプラタープ少佐は勝利の後に倒れてしまう。病院に搬送され、手術が行われた結果、奇跡的に助かる。

 サニー・デーオール、タブー、アルバーズ・カーンといった有名スターが出演しているが、かなり雑な作りの映画だ。冗長なシーンが多く、テンポが悪い。特に戦争映画なのに戦争シーンがワンパターンで退屈なのが致命的である。棒立ちして銃をぶっ放しているだけで、敵の銃弾はちっとも当たらないのに敵はバタバタと倒れていく。もっとも力を入れなければいけないシーンがそんな調子なので、それ以外の部分の完成度は推して知るべしである。唯一、ダンスシーンは悪くなかったが、ストーリーに溶け込んでいるタイプの使われ方ではなかった。

 見所を探す方が難しい問題作だが、シャラト・サクセーナーが演じたディレール・スィン大尉のエピソードは印象的だった。ディレールは国境地帯からラジオ局に自分の好きな曲のリクエストを送り続けており、自分の名前がラジオで呼ばれるのを心待ちにしていた。前線からは手紙を出すことができないので、休暇で故郷に戻る仲間に手紙を託すのが常だった。とうとうディレール大尉の手紙がラジオのDJに選ばれ、彼のリクエスト曲が流れる。それは、戦争映画の名作「Haqeeqat」(1964年)の挿入歌で、ムハンマド・ラフィーが歌う「Ab Tumhare Hawale Watan Sathiyo」であった。しかしながら、そのときちょうどパーキスターン軍の攻撃が始まり、ディレールは撃たれて倒れてしまう。怪我を負いながらも応戦するが多勢に無勢、最終的にディレールはラフィーの歌声を聴きながら戦死する。

 映画の冒頭で、兵士たちが故郷からの手紙を楽しみに待っているシーンがあったが、大ヒットした戦争映画「Border」(1997年)に似たシーンがあった。過去の戦争映画へのオマージュなのだろうが、オマージュすら据わりが悪く、二番煎じという印象の方が強かった。

 映画自体が駄作なので、サニー・デーオール以下、出演した俳優たちも、いかに優れた演技をしようが、映画を救うことはできていない。彼らにとって黒歴史の映画になっていることだろう。

 ところが実はこの映画は2002年のヒンディー語映画興行成績トップ10に入っている(参照)。実は2002年はヒンディー語映画の外れ年で、ほとんどヒット作が出なかった。そんな中、カールギル紛争後、愛国心に目覚めたインド人観客をターゲットに作られたこの「Maa Tujhhe Salaam」は、駄作ながらも一定の観客を集めたようだ。このようなチープな映画がトップ10入りしてしまったということは、他の映画がよほどふがいなかったのであろう。

 ちなみに、ページの冒頭にこの映画のポスターを掲載しておいたが、そこに写っているヘリコプターは映画中には出てこない。

 「Maa Tujhhe Salaam」は、カールギル紛争をベースにして作られた架空の戦争映画である。スターパワーがあるが、監督の力量不足で、とにかく雑な映画になっている。偶然の産物で2002年の興行成績トップ10になっているが、それに騙されて観てはならない。無視するのが吉である。


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