Veere Di Wedding

3.5
Veere Di Wedding
「Veere Di Wedding」

 2010年代のヒンディー語映画界の大きな特徴のひとつは、女性が主人公の映画が増えたことだ。女性が主人公と言うことは女優が主演の映画であり、しかも観客層は女性となる。かつては男優の添え物に過ぎなかった女優たちにとって、自身の真の実力を試す機会が与えられるようになった。その中で、ヴィディヤー・バーランやカンガナー・ラーナーウトなど、単身で映画を背負える女優たちが育って来たのである。

 2018年6月1日公開の「Veere Di Wedding」は、4人の同世代の女性たちが主人公の、「セックス・アンド・ザ・シティー」的なガールズ映画である。監督は「Khoobsurat」(2014年)のシャシャーンカ・ゴーシュ。アニル・カプール一族のホームプロダクション的な映画で、プロデューサーには、エークター・カプールなどに加えて、アニル・カプールと娘のリヤー・カプールが入っており、主演女優の一人をソーナム・カプールが担っている。ただ、4人の中でもっとも中心的な役柄を演じていたのはカリーナー・カプールである。他の2人は、スワラー・バースカルとシカー・タルサーニヤーである。

 通常のインド映画とは異なり、「Veere Di Wedding」では男優が添え物だ。スミート・ヴャース、ヴィシュワース・キーニー、イシュワーク・スィン、スーラジ・スィンなど、主演女優たちのお相手役が登場するが、ほとんど無名の俳優たちで、スターパワーは比べるべくもない。他に、カヴィター・ガイー、ニーナー・グプター、マノージ・パーワー、アーイシャー・ラザー・ミシュラーなどが出演している。

 題名の「Veere Di Wedding」とは「親友の結婚式」という意味である。同様の題名の映画は「Mere Yaar Ki Shaadi Hai」(2002年)などがあったが、女性視点での「親友の結婚式」という点で斬新である。また、この映画の公開から3ヶ月前に「Veerey Ki Wedding」(2018年)というよく似た題名の映画が公開されたが、全く別の映画である。

 カーリンディー(カリーナー・カプール)、アヴニー(ソーナム・カプール)、サークシー(スワラー・バースカル)、ミーラー(シカー・タルサーニヤー)の4人は高校時代の仲良しグループで、卒業と共に別々の人生を歩んでいた。

 10年後、カーリンディーが、オーストラリアで2年間同棲して来た恋人リシャブ(スミート・ヴャース)と結婚することになる。結婚式はデリーで行われ、四人は久々に顔を合わせる。だが、彼女たちの人生はそれぞれだった。

 アヴニーはデリーで離婚訴訟専門の弁護士になっていた。母親(ニーナー・グプター)からは早く結婚するように圧力を受けていた。サークシーはヴィニート(スーラジ・スィン)と結婚し、ロンドンに住んでいたが、ヴィニートと不仲になり、デリーの実家に戻って来ていた。ミーラーは米国人のジョンと結婚し、二人の間にはカビールという息子が生まれていたが、親の反対を押し切って駆け落ち結婚していた。カーリンディーの母親リトゥ(カヴィター・ガイー)は死去しており、父親キシャンは再婚していた。キシャンは叔父のクーキーと不動産を巡って対立していた。

 カーリンディーは、夫婦喧嘩が絶えない家庭で育ったため、家庭に信頼が持てず、リシャブとの結婚にも完全に乗り気ではなかった。婚約式の当日、カーリンディーはリシャブと口論し、式場から逃げ出してしまう。これがきっかけで縁談は破談となり、四人の仲も険悪となる。

 しばらく後に、サークシーの提案で四人はタイのプーケットにバカンスに行く。気晴らしをする中で、四人はそれぞれの悩みを打ち明ける。すっかり昔の絆を取り戻した四人は、デリーに帰って来た後、様々な問題を解決しようと試みる。特に、キシャンとクーキーを和解に持ち込むことができたのが大きかった。

 カーリンディーは改めてリシャブにプロポーズし、二人は結婚することになる。カーリンディーが育った家で結婚式が行われる。

 2010年代の雰囲気を決定したガールズ映画「Aisha」(2010年)を送り出したチームによる映画なだけあって、女の女による女のための映画だった。映画の中で執拗に描かれるのは男女や家族の出会い、混乱、爆発と和解であり、男性が好むようなスリリングな事件はほとんど起こらない。主人公の四人が仲間内で交わす会話の中の言葉も、男子禁制のいわゆるガールズトークであり、完全に女性受けしか狙っていない。2010年代を代表する映画の一本と言っていいだろう。

 また、スターパワーも半端ではない。カリーナー・カプールとソーナム・カプールと言うと、映画カースト出身のA級スターであるだけでなく、ヒンディー語映画業界内で気難しい女優のトップ3に入るくらいの存在だ。この二人が共演したという事実だけでも驚きである。残りの二人、スワラー・バースカルとシカー・タルサーニヤーは、カリーナーやソーナムに比べたらランクは落ちる女優たちである。それでも、全く気後れせず、堂々とやり合っていたので感心した。異質の組み合わせではあるが、仲が良さそうな雰囲気は出せていたので、キャスティングには成功していたと言えるのではなかろうか。

 ストーリーの中心となるのは、カリーナー・カプール演じるカーリンディーの結婚である。夫婦喧嘩の絶えない家庭に育って来たカーリンディーは結婚に対して消極的で、ストーリーが進むにつれて、それがやはり障害になって行く。ただ、幼少時のトラウマがなかったとしても、彼女の結婚相手の家族がかなり強引な性格で、結婚を躊躇するのは無理もないと感じた。

 カーリンディーの結婚や家族のドラマを中心としながらも、ソーナム・カプール演じるアヴニーの婿探し、スワラー・バースカル演じるサークシーの離婚、そしてシカー・タルサーニヤー演じるミーラーと彼女の父親との和解などが織り込まれ、最後には全てが丸く収まる。

 女性監督が男性3人の友情を描いた青春映画「Zindagi Na Milegi Dobara」(2011年)があったが、この「Veere Di Wedding」は、男性監督が4人の女性の友情を描いた作品で、ちょうど対極に位置している。だが、「Zindagi Na Milegi Dobara」がどちらかというと結婚から逃げる内容になっていたのに対し、「Veere Di Wedding」は、最後には結婚でまとまっていた。この辺りに、ターゲットとする観客のジェンダーの違いが見られるかもしれない。

 四人が話す会話の中にはかなり際どい話題も出て来た。オーガズム、セックスレス、分娩の痛みなど、彼女たちはいとも当たり前のようにそれらのことを話す。極めつけはサークシーのマスターベーションである。彼女は夫にマスターベーションをしているところを見られてしまい、離婚の原因のひとつにもなった。このとき、バイブレーターを「ジャガンナート」と表現していたのを聞き逃さなかった。ジャガンナートとは、オリシャー州ジャガンナートプリーで祀られている神様の名前で、手足がないユニークな外観をしている。日本の「こけし」と似た使われ方をしているようだ。

 「Veere Di Wedding」は、2010年代を代表するガールズ映画である。監督は男性ながら、女の女による女のための映画だ。カリーナー・カプールとソーナム・カプールの共演にも注目したいが、彼女たちと堂々と渡り合うスワラー・バースカルとシカー・タルサーニヤーも見逃せない。女性中心映画としてはヒットとなった。多くの女性観客を引きつけたものと思われる。