Romeo Akbar Walter

3.5
Romeo Akbar Walter
「Romeo Akbar Walter」

 1971年の第三次印パ戦争はインドの完全勝利に終わった戦争であるため、インド映画の題材にしやすい。ここに来てこの頃の印パ関係に関する映画が続いている。「The Ghazi Attack」(2017年)や「Raazi」(2018年)などである。2019年4月5日公開の「Romeo Akbar Walter」も、第三次印パ戦争の頃を時代背景としたスパイ映画である。過去に「Amar Akbar Anthony」(1977年)という似た題名の映画があったが無関係である。「Romeo Akbar Walter」の頭文字は「RAW」となり、これはインドの対外諜報機関「Research & Analysis Wing」の頭文字となる。

 監督は「Aloo Chaat」(2009年)などのロビー・グレーワール。主演はジョン・アブラハム。他に、モウニー・ロイ、ジャッキー・シュロフ、ラグビール・ヤーダヴ、スィカンダル・ケール、ラージェーシュ・シュリンガールプレーなどが出演している。

 1971年。東パーキスターンでは独立の気運が高まっていた。銀行員のロミオ・アリー(ジョン・アブラハム)は、RAWの局長シュリーカーント・ラーイ(ジャッキー・シュロフ)に抜擢され、パーキスターン潜入のスパイとなる。訓練を受けたロミオは、アクバル・マリクを名乗り、パーキスターン領カシュミールから入国する。

 アクバルはパーキスターンの諜報機関ISIに通じているイサーク・アフリーディーの信頼を勝ち取り、カラーチーの彼のオフィスで働くことになる。カラーチーにはRAWが張り巡らせたネットワークがあり、アクバルはそれらを使ってインドに情報を送り続ける。パーキスターンは、東パーキスターンのバドリープルに爆撃を計画していた。バドリープルはインドと国境を接する地域で、インドから支援を受けるゲリラ部隊ムクティ・バーヒニーの活動拠点となっていた。

 しかしながら、ISIのカーン大佐(スィカンダル・ケール)は、アクバルがインドのスパイだと勘付き、警戒を強める。カーン大佐はアクバルを逮捕し、嘘発見器に掛けたり、拷問をしたりするが、アクバルは口を割らなかった。アフリーディーが介入したことでアクバルは解放される。だが、アフリーディーは暗殺され、アクバルが犯人にされる。

 アクバルは、シュリーカーントが自分を殺そうとしたことにショックを受け、ISIに投降し、RAWのスパイ網を暴露してしまう。しかも、アクバルはバドリープル爆撃を自ら行う。これでISIから信頼を得たアクバルは、ウォルター・カーンとしてISIの高官となった。だが、実は彼はシュリーカーントの指示通りに動いたのであり、ずっとインドに機密情報を送り続けていたのだった。

 一般人が突然スパイに抜擢され、数ヶ月の訓練を受けた後にパーキスターンに送り込まれ、数々の苦難を巧妙に乗り越えながらインドに情報を送り続ける。そんな非現実的なスパイ映画だった。だが、主人公ロミオにスパイとして天賦の才能があったのだと自分に言い聞かせることに成功すれば、後はスパイ映画としてなかなか楽しめる作品である。特に、暗号が隠された台詞で情報を交換し合う様子はスリリングで、エンディングのどんでん返しの伏線にもなっていた。

 主に男性キャラが繰り広げる硬派な映画だったが、若干女性キャラもいた。まず印象的なのはロミオの母親である。軍人の夫を亡くし、一人息子のロミオを大事に育てていた。ロミオも母親のことを非常に慕っていた。だが、スパイとしてパーキスターンに送り込まれ、ISIの高官になったことで、二度とインドの地を踏めなくなり、母親の死に目にも会えなかった。ロミオと母親のストーリーはとても悲しい結末となるが、多くの名もなき勇者たちが、家族と会えなくなることを覚悟で危険な任務につき、国に貢献していることが最後に伝えられ、美談にまとめられていた。

 もう一人の女性キャラはモウニー・ロイ演じるシュラッダー・シャルマーである。当初はロミオと同じ銀行に勤める銀行員かと思われたが、ロミオがカラーチーに住み始めると、インド大使館の外交官としてカラーチーにやって来る。実は彼女もRAWのエージェントだった。アクバルとは恋仲にあり、一度は二人でインドに逃げることも考えたが、状況がそれを許さず、アクバルはISIに投降してしまう。シュラッダーは逮捕され、インドに送り返される。ロミオとシュラッダーの関係も何だかうまく発展せずに終わってしまっていた。

 このように、全てが丸く収まった映画ではなかったが、RAWのスパイとしてパーキスターンに潜入した人物がISIの高官になるというプロットは斬新であった。ただ、スパイ網を自ら一網打尽にしてしまったロミオがどのようにインドと連絡を取り合っていたのかは不明である。

 映画の中で重要な出来事となっていたのはバドリープル爆撃である。これは1971年11月19日に起こったとされていたが、実際にはバドリープルという地名は存在しない。第三次印パ戦争は12月3日から公式に始まったが、その前月である11月に、インド空軍とパーキスターン空軍の間で空中戦があったり、パーキスターン空軍によるムクティ・バーヒニー基地への空爆があったりした。おそらくこれらの出来事をモデルにして架空のバドリープル爆撃が考案されたのであろう。

 主演のジョン・アブラハムは、ロミオ、アクバル、ウォルターと3つの名前を持つ役であったが、一人三役ではなく、演じ分けもほとんどなかった。演じ分けなど必要ないと言わんばかりに、とにかく緩急なく突っ走った演技だった。彼らしいと言えば彼らしいが、もっと繊細な演技もできたのではないかと感じた。ジャッキー・シュロフ、ラグビール・ヤーダヴ、ラージェーシュ・シュリンガールプレーなどは好演していた。スィカンダル・ケールとモウニー・ロイはあと少しと感じた。

 「Romeo Akbar Walter」は、第三次印パ戦争が迫る1971年のインドと東西パーキスターンを舞台にしたスパイ映画である。ストーリーや演技の面で大味なところもあるが、かなり大胆かつ斬新な結末は見物だ。