The Ghazi Attack

3.5
The Ghazi Attack
「The Ghazi Attack」

 1971年の第三次印パ戦争は、東パーキスターン(現バングラデシュ)の独立を巡る戦争であり、主戦場は東パーキスターンの国土だった。だが、実はベンガル湾の海中も戦場となっていた。パーキスターン海軍の潜水艦I30ガーズィーが単独でベンガル湾を航行しており、その目的は、インド海軍の空母ヴィクラーントの破壊だったと言われている。だが、1971年12月4日~5日にガーズィーはヴィシャーカーパトナム沖で沈没した。インド側の主張では、駆逐艦ラージプートの攻撃によりガーズィーは沈没したとする一方、パーキスターン側の主張では、機雷敷設中の事故により沈没したとしている。

 2017年2月17日公開の「The Ghazi Attack」は、潜水艦ガーズィー沈没を主題にしたフィクションの戦争映画である。この映画は、ガーズィーは潜水艦同士の戦闘によって沈没したとしており、インド海軍の潜水艦S21カランジの乗組員を主人公とした「インド初の潜水艦戦争映画」を銘打っている。テルグ語とヒンディー語で作られており、プロデューサーにはカラン・ジョーハルが名を連ねている。ヒンディー語版タイトルは「The Ghazi Attack」、テルグ語版タイトルは「Ghazi」であり、ヒンディー語版を鑑賞した。

 監督は新人のサンカルプ・レッディー。この映画を作るために潜水艦の研究をし、本も著している。主演はラーナー・ダッグバーティ。他に、ケー・ケー・メーナン、アトゥル・クルカルニー、タープスィー・パンヌー、オーム・プリー、ナーサル、ミリンド・グナージー、ラーフル・スィンなどが出演している。オーム・プリーは2017年1月6日に死去しており、本作は彼の遺作の一本となった。

 1971年。東パーキスターンの情勢がきな臭くなっており、インド海軍はベンガル湾の警戒を強めていた。潜水艦S21は偵察ミッションを遂行することになり、ヴィシャーカーパトナムを出港した。司令官のランヴィジャイ・スィン(ケー・ケー・メーナン)は血気盛んな将校として知られており、そのお目付役として、副官アルジュン・ヴァルマー(ラーナー・ダッグバーティ)が付けられた。潜水艦の艦長はデーヴァラージ(アトゥル・クルカルニー)であった。

 ベンガル湾には、パーキスターン海軍の潜水艦I30ガーズィーが極秘裏に航行しており、インド海軍空母ヴィクラーントを狙っていた。司令官は有能な将校ラザーク(ラーフル・スィン)であった。ラザークはインド軍を陽動するために、ベンガル湾を航行中だったインドの商船を撃沈する。それに気付いたS21は、近くにパーキスターン軍の潜水艦がいるのを察知し、魚雷で攻撃するが外す。

 ガーズィーは機雷を設置してインド軍の潜水艦を誘き寄せた。その罠にはまってしまったS21は損傷を受け、危機に陥る。そのときの衝撃でランヴィジャイ・スィンは死亡する。潜水艦の舵取りを引き継いだアルジュンは、ガーズィーに反撃を開始する。ダメージを受けて航行能力を失っていたS21は防戦一方となるものの、一瞬の隙を突いて反撃し、ガーズィーの撃沈に成功する。

 実際に起こった戦争を扱った戦争映画は、どうしても事実に縛られるため、娯楽に振りきった逸脱が難しい。だが、フィクション映画である「The Ghazi Attack」の中では、S21によるガーズィーの撃沈は、上層部と通信不能の状態の中で現場の乗組員たちによって秘密裏に行われた作戦によるものとされており、公式記録に残らない戦果として、自由に想像力の翼を広げて作られていた。第三次印パ戦争やガーズィーの沈没は事実であるため、ある程度リアルな実感を持って捉えることもできる構成となっていた。

 潜水艦の操作や、潜水艦同士の戦闘がどのようなものなのか、一般人は知る由もないので、「The Ghazi Attack」で描写されていた様子が実際のものとどれだけ近いのか、判断は不可能だ。限られた知識の中にかろうじて比較対象としてあるのは、「不思議の海のナディア」に出て来る万能潜水艦ノーチラス号くらいである。だが、潜水艦内部の様子、計器や器具の様子など、作り物感は全くなく、よく研究されていたのではないかと感じた。それに加えて、インド人乗組員が潜水艦に食料としてバナナや卵を持ち込んでいる様子が面白かった。

 潜水艦同士の戦闘は、派手なドンパチがない分、人によっては退屈だろう。だが、ソナーなどを頼りにして相手の位置を割り出し、潜水・浮上や進行方向を決めたり、攻撃をしたりという神経戦が楽しめる人にはとても緊迫感のあるものに思える。長く戦闘をやっていると、どうしてもワンパターンになってしまいがちだが、S21が早々に損傷を受けて選択肢が限られていたことと、ワンパターンになる前に切り上げていたことで、スリルを保つことができていた。

 人間ドラマも要所を押さえていた。司令官ランヴィジャイ・スィンは命令遵守よりも攻撃重視の人間で、命令を絶対視する副官アルジュン・ヴァルマーと衝突してばかりいた。だが、アルジュンはランヴィジャイの息子の戦死が命令遵守から来たことを知って、急に手の平を返す。そして、ランヴィジャイよりもさらに強硬派となってしまう。あまりに急な転向ではあったが、これも退屈になってしまいがちな潜水艦戦争映画をスパイシーに味付けしていた。

 戦争映画なので、無理に女性を入れなくてよかったとは思うが、ガーズィーに撃沈された商船から救出された2人の女性の1人として、タープスィー・パンヌーが出演していた。彼女の役は完全に添え物であった。

 ちなみに、ガーズィーが空母ヴィクラーントを狙っているという情報は、インドがパーキスターンで行っていた諜報活動によって事前に手に入っていた。その諜報活動をテーマにした映画が「Raazi」(2018年)である。「The Ghazi Attack」と併せて観ると面白い。

 「The Ghazi Attack」は、1971年の第三次印パ戦争時にベンガル湾に沈没したパーキスターン海軍潜水艦ガーズィーを主題にした、インド初の潜水艦戦争映画を銘打った作品で、国威発揚愛国主義映画の一種である。潜水艦をよく研究して作られており、フェイク感は全くなかった。戦争映画の佳作と言える。