日本でもJリーグが成功したことでサッカーの底上げが実現し、他のスポーツにも数々の「リーグ」が誕生したように、インドでも、2008年にローンチされたクリケットのインディアン・プレミアリーグが成功したことで、様々なスポーツの「リーグ」化が進んだ。サッカーのインディアン・スーパーリーグ、バドミントンのプレミア・バドミントン・リーグ、カバッディーのプロ・カバッディー・リーグなどである。その「リーグ」熱の中で生まれたのが、異種格闘技のスーパー・ファイト・リーグであった。俳優のサンジャイ・ダットと実業家のラージ・クンドラ(女優シルパー・シェッティーの夫)が仕掛け人となった。
2015年4月14日公開の「Brothers」は、スーパー・ファイト・リーグをモデルにしたような異種格闘技リーグを中心にストーリーが展開する映画である。監督は「Agneepath」(2012年)のカラン・マロートラー。カラン・ジョーハルなどがプロデューサーとして名を連ねている。ハリウッド映画「ウォーリアー」(2011年)の正式リメイクである。
主演はアクシャイ・クマールとスィッダールト・マロートラー。ヒロインはジャクリーン・フェルナンデス。他に、ジャッキー・シュロフ、シェーファーリー・シャー、アーシュトーシュ・ラーナー、キラン・クマール、ラージ・ズトシーなどが出演している。また、カリーナー・カプールがアイテムソング「Mera Naam Mary Hai」でアイテムガール出演している。
ピーター・ブラガンザ(キラン・クマール)はインド初の異種格闘技リーグ、Right2Fightを立ち上げ、インド人ストリートファイターたちを国際的な格闘家たちと戦わせる計画を立てた。8人の格闘家の中に選ばれたのが、デーヴィッド・フェルナンデス(アクシャイ・クマール)とモンティー・フェルナンデス(スィッダールト・マロートラー)の兄弟だった。 二人の父、ギャリー(ジャッキー・シュロフ)は元格闘家で、アル中だった。デーヴィッドは妻マリア(シェーファーリー・シャー)との子だったが、モンティーは愛人との間にできた子供だった。だが、マリアはモンティーに平等に愛情を注ぎ込んで育てた。しかし、ある日ギャリーとマリアの間で喧嘩が起き、ギャリーがマリアを殴って死なせてしまう。それを機に家族はバラバラになる。ちょうどRight2Fightが発足する頃、ギャリーは服役を終え、娑婆に出て来た。迎えに来たのはモンティーのみだった。モンティーは父親から訓練を受けてストリートファイターとして大成し、Right2Fight出場権を獲得する。 一方、デーヴィッドは最愛の母親を殺した父親を憎んでいた。デーヴィッドは元ストリートファイターだったが、ジェニー(ジャクリーン・フェルナンデス)との結婚を機に格闘技の世界から足を洗い、物理の教師をしていた。だが、娘が肝臓疾患を抱えており、手術のために大金を必要としていた。デーヴィッドは再び格闘技の世界に足を踏み入れる。 デーヴィッドとモンティーは順調に勝ち進み、決勝戦で戦うことになる。モンティーは兄との戦いを心待ちにしていた。二人は死闘を繰り広げるが、デーヴィッドが勝つ。そして、戦いの中で二人は絆を取り戻す。
男同士が血まみれになって殴り合うアクションシーンに家族愛の要素がミックスされた、インド人がもっとも好むストーリーラインの映画であった。前半はフェルナンデス家に起こった事件と、そのわだかまりが現在でも解けていないことが、時間を掛けてじっくりと映し出される。後半の1時間は異種格闘技リーグ、Right2Fightで埋め尽くされており、主人公のデーヴィッドとモンティーが対戦相手と戦う様子が迫力ある映像で描かれる。
兄弟と格闘技のインド映画というと、過去に「Apne」(2007年)があった。ボクシングの映画であるが、兄と弟がボクシングで戦うことはなく、弟の敵を兄が取るような物語だった。一方、「Brothers」では、兄と弟が拳を交えて戦う。インドの叙事詩「マハーバーラタ」も兄弟同士の戦争であり、兄弟同士が戦うことはインドでは珍しくない。だが、兄と弟が戦うようになった経緯と、戦いの結末をしっかり作り込まないと、容易に駄作になってしまう可能性を秘めていた。
「Brothers」については、ハリウッド映画の原作があったおかげでもあるのだろう、そのどちらもうまくまとめられていた。まず、兄と弟が対立するようになった理由であるが、これはアル中の父親に大きな原因がある。だが、弟のモンティーは、出所した父親を迎えに来ていたことからも分かる通り、父親を憎んでいなかった。彼が憎んでいたのは兄のデーヴィッドであった。なぜモンティーがデーヴィッドを憎んでいたかというと、母親のマリアが死ぬとき、デーヴィッドがモンティーに母親を触らせようとしなかったからだ。デーヴィッドは母親を愛する余り、母親の死の原因を、父親に加えて、不義の子であるモンティーに押しつけていた。モンティーにとって、マリアはデーヴィッドにとっての母親と同じくらいの存在だった。それなのに、デーヴィッドは母親の最期を独り占めしようとした。このことから、モンティーはいつかデーヴィッドに復讐しようと機会をうかがっていたのである。
兄弟対決となった決勝戦をどのような結果で終わらせるかは、脚本家のセンスが問われるところである。これも原作そのままだと思われるが、兄の勝利に終わっていた。だが、死闘を繰り広げる中でモンティーは兄への恨みをぶちまけ、デーヴィッドは弟に謝罪する。ギリギリの状態で二人はようやく兄弟の絆を取り戻すことができ、二人で支え合いながらリングを後にする。考えられる限りで最高のエンディングだったと言える。
アクシャイ・クマールは元々バンコクでマーシャルアーツの訓練をしていただけあり、格闘技シーンはお手の物のはずだ。ただ、撮影時40代後半であり、さすがにその年齢で自らアクションシーンを演じるのは疲れたはずである。それでも、自身のルーツに立ち返るような、生き生きとした演技をしていた。対するスィッダールト・マロートラーは、「Student of the Year」(2012年)でのデビュー時に見せたキュートなイメージを覆すかのような、ダークでマッチョな役柄を堂々と演じ切っていた。
ヒロインのジャクリーン・フェルナンデスはほとんど添え物で、これと言った見せ場はなかった。主人公二人の父親を演じたジャッキー・シュロフは、多少オーバーアクティング気味ではあったが、熱演と言えよう。アイテムガール出演のカリーナー・カプールは妖艶であった。
「Brothers」は、異種格闘技リーグでぶつかり合う曰く付きの兄弟を主人公にした男の映画だ。ハリウッド映画を原作としており、逸脱もあまりないようで、構成はしっかりしている。そこにインド映画お得意の家族愛が増幅されており、完成度の高い娯楽作に仕上がっている。