Aetbaar

2.5
Aetbaar
「Aetbaar」

 2004年1月23日からアミターブ・バッチャン主演の映画が2本同時に公開された。「Aetbaar」と「Khakee」である。新聞には「BigB vs BigB」などと書かれていた(BigBとはアミターブ・バッチャンの愛称)。どちらも観るつもりだが、さてどっちから観ようかと迷った。デリーでインド映画を観ようと思った際、いい映画にありつくコツは、高級映画館やシネマコンプレックスでの上映状況をザッと見てみることだ。高い映画館で上映されている映画は、上質の映画であることが多い。「Aetbaar」と「Khakee」を見比べてみると、PVR系列や3C’s、チャーナキャーなどでは「Aetbaar」優先、ウェーヴやサッティヤムでは「Khakee」優先、M2Kでは同程度の扱いという感じだった。結局今日はPVRアヌパム4で「Aetbaar」を観ることにした。

 「Aetbaar」とは「信頼」という意味。主演はアミターブ・バッチャン、ビパーシャー・バス、ジョン・アブラハム。ビパーシャーとジョンは「Jism」(2003年)に引き続き、2度目の共演である。監督は「Raaz」(2002年)のヴィクラム・バット。音楽はラージェーシュ・ローシャン。

 医者のランヴィール・マロートラー(アミターブ・バッチャン)は、15年前に交通事故で息子を亡くしたことから、一人娘のリヤー(ビパーシャー・バス)を目に入れても痛くないくらいかわいがって育てていた。大学で経済学を学ぶリヤーは、「一生に一度の恋」に憧れる純粋な女の子だった。

 ある日、偶然の事故によって、リヤーはアーリヤン(ジョン・アブラハム)という男と出会う。アーリヤンは画家志望ながら、バイクを乗り回すゴロツキだった。一方的なアプローチを受ける内に、リヤーはアーリヤンを「一生に一度の恋」の相手だと思い込むようになる。しかし、アーリヤンは切れやすい危険な男だった。

 リヤーの家を訪れたアーリヤンは、彼女の両親とも顔を合わせる。母親は彼のことを気に入るが、ランヴィールは「こいつをどこかで見た」と不審な気分になる。それは、オフィスのクリップ・ボードに貼ってあった新聞の切り抜きだった。そこには、「父親殺し」という題でアーリヤンの写真入りの記事があった。ランヴィールはすぐさまアーリヤンの家を訪れ、リヤーとは2度と会わないよう言いつける。しかしアーリヤンはそれを拒否する。ランヴィールはリヤーにも彼の正体を明かし、彼と会うことを禁止する。

 ショックを受けたリヤーはアーリヤンのところへ行き、新聞記事を見せる。しかしアーリヤンは、事の真相を明かす。アーリヤンの父親は毎晩酒に酔って母親を殴っていた。ある日父親が母親を殴り殺したため、切れたアーリヤンは父親を燃やして殺したのだった。それを聞いたリヤーはアーリヤンを疑ったことを謝り、彼をますます愛するようになる。一方、ランヴィールとリヤーの仲は最悪の状態となる。

 ランヴィールは奪ってでも娘を取り戻すことを誓い、アーリヤンの家に忍び込む。そこで彼は、アーリヤンが昔入っていた精神病院のファイルを見つける。ランヴィールはその精神病院を訪れる。院長はアーリヤンのことを教えてくれなかったが、彼の母親の住所は教えてくれた。実はアーリヤンの母親は生きていたのだった。

 ランヴィールがアーリヤンの母親を訪ねると、母親は父親殺しの真相を語る。アーリヤンの父親は学校の校長をしており、アーリヤンもそこで学んでいた。アーリヤンは学校の若い女教師サンジャナーに恋したが、彼女は結婚して去って行ってしまうことになった。怒り狂ったアーリヤンはサンジャナーを引きとめようとするが、父親によって部屋に閉じ込められてしまう。サンジャナーが去った後、アーリヤンは部屋に火を放ち、それに驚いて部屋に入ってきた父親を火の中に投げ込んで殺したのだった。アーリヤンは3年間の懲役となったが、それ以来、母親はアーリヤンとは会わずに暮らしていた。

 ランヴィールはサンジャナーの名前をうまく利用して、アーリヤンをある家に誘い込む。サンジャナーが自分とリヤーの仲を引き裂こうとしていると思ったアーリヤンは、ナイフを持ってその家に忍び込む。しかしそこにはランヴィール、リヤーや警察が待ち構えており、アーリヤンは現行犯逮捕されてしまう。これで一件落着かと思われたが、アーリヤンは護送車から脱走する。別荘に滞在していたマロートラー一家は、アーリヤンとその仲間の襲撃を受けるが、ランヴィールは一人一人殺して行き、最後にアーリヤンにも引導を渡す。こうしてマロートラー一家にようやく平和が訪れたのだった。

 駆け出しの頃のシャールク・カーンが得意とした、狂恋ストーカー映画の一種。だが、最近インドのご意見番と化しているアミターブ・バッチャンの説教が入っており、「Baghban」(2003年)のようにお説教映画的役割も果たしている。総合的に言って、あんまり楽しくない。しかし筋やセリフは分かりやすかった。最近ビパーシャー・バスが出る映画は、「Gunaah」(2003年)や「Footpath」(2003年)など、ビパーシャーの肌の露出度が高いだけで中身のない映画が多いが、この映画はそれらの映画よりはマシだった。

 「Baghban」で高い演技力を証明したアミターブ・バッチャンは、この映画でも娘思いの優しく強い父親役を演じて、さらに俳優としての評価を高めている。物語の序盤、アーリヤンに恋したリヤーは、父親がせっかく準備した旅行中にソワソワイライラしていた。アーリヤンとのデートを無断でキャンセルして家族と旅行に来てしまったからだ。ランヴィールはリヤーに「パパはお前の友達でもあるんだ。友達にも話せないことだって話していいんだよ。何かあったのかい?」と尋ねる。リヤーは「何でもないわ」と答えるが、ランヴィールは「本当に何でもないなら、それを証明しなきゃ。さ、そんなにふてくされてないで、もっと楽しもう」と促す。この辺りの会話が、とても印象的だった。また、終盤、父親の言うことを聞かずにアーリヤンに恋した自分を責めるリヤーに対して、優しい言葉を投げかけるシーンも、なかなかよかった。ただ、アミターブとビパーシャーの2ショットは、なぜかしっくり来なかった。

 ビパーシャー・バスは・・・いつものように無意味に露出度の高い衣服を着ており(着せられており?)、演技もオーバー気味。しかし心なしか痩せたようで、外見的には魅力が増していた。ビパーシャー・バスの出演する映画を観ると、もうちょっとどうにかならないかな・・・といつも思ってしまうが、そう思っているからこそ、また彼女の映画を観てしまうという悪循環に陥っている。ビパーシャーはデビュー作「Ajnabee」(2001年)が一番よかった。

 危ないストーカー役を演じたジョン・アブラハムは、特徴的な顔の形をしたモデル出身の若手男優。目を血走らせて「リヤーは絶対に俺のもんだ!」と我がままを言う姿は恐ろしい。今までインド映画界にいなかったオーラを持つ男優なので、少しだけ成長を期待している。おそらく観客の賛否が非常に分かれる男優だと思う。

 なぜか2箇所、ロケ地に見覚えがあった。と言っても、実際に行ったことはなく、他の映画で何となく見たような気がするだけだ。ひとつは湖畔にあるマロートラー家の別荘。「Shakti: The Power」(2002年)で出ていたと思う。もうひとつは、アーリヤンが売春婦を殴打する現場となる売春宿。「Mumbai Matinee」(2003年)で、やっぱり売春宿として使われていた場所と同じような気がする。どちらも気のせいかもしれないが。

 この映画のメインテーマは、恋に狂った凶暴な男に怯える家族だが、もうひとつ重要なテーマとなっているのが、父と娘の愛情である。アミターブ・バッチャンの名演があったおかげで、何とかギリギリ見れる映画に仕上がっていると思う。この映画の予告編では、「これは!あなたの!家族にも!起こりうる!」と大袈裟に宣伝されていたが、こんな事件はあんまり起こらないと思うのだが・・・。