
2026年10月15日公開のタミル語映画「Jailer 2」は、大ヒットしたラジニカーント主演「Jailer」(2024年)の続編である。前作から物語がしっかり続いているタイプの続編であるため、本作の前に前作を鑑賞するのが望ましい。
監督は前作に引き続きネルソン。音楽はアニルッド。主演はもちろんラジニカーント。前作から続投のキャストは、モーハンラール、シヴァ・ラージクマール、ジャッキー・シュロフ、ラーミヤー・クリシュナン、ミルナー、リトヴィクなどである。前作で悪役を演じたヴィナーヤカンやヴァサント・ラヴィは、前作で死んでいるため、回想シーンなどで顔を出しているのみだ。
それに対して今回新たに起用されたのは、SJスーリヤー、ミトゥン・チャクラボルティー、スーラジ・ヴェンジャラムードゥ、ヴィディヤー・バーラン、ヨーギー・バーブー、ジャティン・サールナー、ハキーム・シャージャハーン、ナモー・ナーラーヤナ、バガバティー・ペルマール、ラージェーシュ・シャルマーなどである。また、アイテムガールとして「Ala Bolelo」にプールナー、「Bindaas」にノラ・ファテーヒーが出演している。
さらに、リティク・ローシャンとヴィジャイ・セートゥパティがサプライズ出演している。
このキャスティングを一言で表現すれば、完全なる汎インド映画布陣である。前作もタミル語映画としては異例なくらいインド全土の市場を狙ったキャスティングだったのだが、今作でそれがさらに推し進められている。特にヒンディー語映画色が強まった。
「Jailer 2」は、スペースボックスの努力により印日同時公開となった。ただし、日本語字幕はなく、英語字幕のみなので、「一般公開」ではない。2026年10月17日にキネカ大森で鑑賞した。多くのタミル人観客が詰め掛けており、最高の鑑賞体験になった。
骨董品密輸マフィアのヴァルマン(ヴィナーヤカン)と寝返った息子アルジュン(ヴァサント・ラヴィ)を殺した「タイガー」ムトゥヴェール・パーンディヤン(ラジニカーント)は、妻ヴィジャヤー(ラミヤー・クリシュナン)、息子の嫁シュエーター(ミルナー)、そして孫のリトヴィク(リトヴィク)と共に、タミル・ナードゥ州とケーララム州の州境地帯に住み、地元スーパーマーケットの管理責任者をして静かに暮らしていた。
ムトゥヴェールは地元のいざこざに巻き込まれている内に、自称ギャングスターの果物店主ムールティ(ナモー・ナーラーヤナ)に腕を買われ、彼の運転手になる。ムトゥヴェールは骨董品密輸マフィアの完全壊滅を狙っており、ムールティを使ってその組織の中核に潜り込むことを密かなミッションとしていた。ムールティはムトゥヴェールにそそのかされて骨董品密輸業に興味を持ち、その元締めであるディリープ(スーラジ・ヴェンジャラムードゥ)に会う。ディリープは、商売仲間だったヴァルマンを殺した人物を探していたが、ムールティのギャングに探りを入れていた部下が殺されたのをきっかけに、ムトゥヴェールが張本人であることを突き止める。ディリープはパーティーを開いてムトゥヴェールを誘い出し、彼を殺そうとするが、逆にムトゥヴェールの反撃によって部下を失い降参して、彼に協力することになる。
ディリープのボスは、ゴアを拠点にしてインド全国から神像などの骨董品を収集し海外に売り飛ばして巨万の富を築き上げていたボーディ・カルパク(SJスーリヤー)という名のドンだった。ディリープはボーディと面会するが、ボーディは彼の裏切りに気付いており、逆に彼を殺す。そして、ムトゥヴェールの相棒ナラスィンハ(シヴァ・ラージクマール)を負傷させ、彼の妻と息子を誘拐し、ムトゥヴェールがヴァルマンから奪った神像入りの3つのコンテナを返すように要求する。ムトゥヴェールは、ボーディの父親チャクリー(ミトゥン・チャクラボルティー)の誕生日パーティーにコンテナと共に現れるが、その受け渡しを拒否し、コンテナを爆破すると脅す。そしてボーディの眼前でチャクリーを誘拐し人質にする。
父親を誘拐され激昂したボーディと彼の弟ヴェード(ジャティン・サールナー)、シャルヴァー(ハキーム・シャージャハーン)は暴れ回り、手当たり次第に殺し回る。警察の仲介によりムトゥヴェールとボーディの間で和解が成立し、お互いの人質を交換することになる。ボーディはナラスィンハの息子の杖にカメラを仕込み、ムトゥヴェールの隠れ家を見つけ出そうとするが、ムトゥヴェールもチャクリーの耳に盗聴器を仕込んでおり、彼らの会話は筒抜けだった。ボーディによって送り込まれた刺客はムトゥヴェールによって皆殺しにされた。
懲りたボーディは別の方法でムトゥヴェールを追いつめようとする。彼は、ムトゥヴェールが息子アルジュンを自ら殺したことを知り、その秘密を彼の家族の前で暴露する。ショックを受けたヴィジャヤーは警察を呼び、ムトゥヴェールは逮捕される。だが、ムトゥヴェールを恩人と慕うロディー(リティク・ローシャン)が助けに入り、ムトゥヴェールは牢屋から脱出する。
ムトゥヴェールはボーディの邸宅に乗り込んで、彼の部下たちを惨殺する。同時に、既に潜入していたロディーと4人の女刺客もヴェードやシャルヴァーを殺す。チャクリーは車椅子に仕込んだ爆弾でムトゥヴェールもろとも爆死しようとするが、ムトゥヴェールは間一髪でそれをかわす。爆発にはチャクリーの娘カーンター(ヴィディヤー・バーラン)が巻き込まれる。ボーディは秘密の通路を通って脱出し、自家用飛行機に乗って逃げようとする。だが、ボーディ、ナラスィンハ、マシュー(モーハンラール)、カームデーヴ(ジャッキー・シュロフ)がそれを止め、ムトゥヴェールがボーディにとどめを刺す。
ラジニカーント演じるムトゥヴェールが神にも等しい最強の存在であることは観客の誰もが知っている。知らないのは、劇中に登場し、彼をこぞって小者扱いする哀れな悪党たちのみだ。特に自称ギャングスターのムールティは自分と彼の間にあるどうしようもない格の違いを全く理解しておらず、あろうことかムトゥヴェールを運転手として雇い、こき使おうとする。後々どんな大変なことになるのか知らないムールティの愚かな言動をほくそ笑むのが前半の主な楽しみになる。賢いムトゥヴェールは逆にそんなムールティを利用して、真の標的であるディリープに近づく。そして今度はディリープを踏み台にして、骨董品密輸マフィアの大元締めボーディにたどり着く。
ただ、ムトゥヴェールはひとつ悲しい秘密を抱えていた。前作の最後で、彼は息子のアルジュンを自らの指示で殺していたのである。ムトゥヴェールは家族にそれを明かしていなかった。決して保身のためではなく、アルジュンが父親を裏切り悪の寝返ったという事実を家族に知らせないようにという配慮からであった。暴力や策略ではムトゥヴェールにかなわないと悟ったボーディは、ムトゥヴェールのこの秘密を使って彼の家族を内部から崩壊させ、彼をひざまずかせようとする。
前半から常に無敵の強さを誇っていたムトゥヴェールであるが、アルジュンの死の真相が家族に暴露される前後になると途端に弱みを見せ、負傷もする。彼は愛する家族から責められることになり、警察に通報され逮捕される。だが、彼を親友や恩人と慕う者は前作で登場したマシュー、ナラスィンハ、カームデーヴの他にもたくさんいた。本作ではロディーという新キャラが登場し、ムトゥヴェールの危機を救う。このロディー役を演じたのがヒンディー語映画界のスーパースター、リティク・ローシャンであった。リティクのタミル語映画出演はこれが初である。
本来、ラジニカーント主演の作品群は、とかく郷土愛の強いタミル語映画の中でも特にタミル至上主義がひしひしと感じられるものだった。だが、近年になって徐々に変化が感じられるようになっており、とりわけ「Jailer」シリーズからは、タミル語映画をタミル・ナードゥ州やタミル人だけのものにとどめず、全インドの市場に届けようという野望がひしひしと感じられた。「Jailer 2」には、前作にも登場したジャッキー・シュロフに加えて、多くのヒンディー語映画俳優が出演している。北インドの大衆から熱狂的な支持を受けるミトゥン・チャクラボルティー、タミル人家庭に生まれながらヒンディー語映画界で「主演を張れる女優」としての地位を築き上げたヴィディヤー・バーラン、そしてサプライズ出演のリティク・ローシャンなどである。
また、タミル語映画としては異例であるが、セリフや歌詞の中にはヒンディー語が多く含まれている。たとえばムトゥヴェールは「タイガー・カ・フクム(タイガーの命令)」という決めゼリフをよく使うが、これは完全にヒンディー語である。タミル語映画でヒンディー語が使われるときは、タミル人に根強い反ヒンディー語精神を反映し、悪役や道化役に関連することがほとんどなのだが、「Jailer 2」からはそういう悪意をほとんど感じず、純粋にタミル・ナードゥ州の外にもラジニ映画を快く観てもらいたいという配慮を感じる。一足先に汎インド的成功を収めたテルグ語映画をお手本にしていることは確実で、今後タミル語映画もタミル至上主義を捨てて汎インド映画化していくのかが見ものである。
ラジニカーントは既に75歳になっている。彼は25歳のときに俳優デビューしているので、彼のキャリアは半世紀に及ぶ。この年齢の人物がスーパースターの地位を堅持しているのは世界的にも稀な現象でギネスブックものであろう。彼の演じるムトゥヴェールが悪役ボーディにとどめを刺すときに吐き捨てる「この50年間、多くの敵が私を倒そうとしてきたができなかった」というセリフは彼のこの半世紀にわたる輝かしいキャリアを土台にしており、もしかしたら地球上で彼にしか口にすることのできない決め文句かもしれない。ただ、やはり老齢のため身体を機敏に動かすようなアクションはあまりなく、不動のまま敵を倒す場面ばかりだった。それでアクション映画が成立してしまうのもすごいことだ。
ラジニ映画はどうしてもラジニカーントが見どころを独占してしまうが、「Jailer 2」では曲者俳優SJスーリヤーが堂々とスーパースターと渡り合い、インパクトを残していた。出番は少なかったが、カーンター役を演じたヴィディヤー・バーランもすごみがあった。カルパク家の中では唯一生き残っているため、もし「Jailer 3」が作られるとしたら、彼女が悪役の中心になっていくことだろう。
「Jailer 2」は、ラジニカーント主演の典型的なラジニ映画だ。ラジニカーントに始まり、ラジニカーントに終わる。それを楽しむ作法を身につけている人には最高の体験になる。それと同時に、タミル語映画が必ずしもタミル愛を前面に押し出さなくなってきている昨今の現象を象徴する作品ともいえ、個人的には注目している。タミル語映画がタミル人とタミル・ナードゥ州の枠内で発展していく道を選ぶなら従来の作り方で問題ないが、もしテルグ語映画のように汎インド的成功を望むならば、本作で示したように、何でもかんでもタミル万歳とアンチ中央に結びつけるのを控える必要がある。
