Karz

4.5
Karz
「Karz」

 1980年6月11日公開の「Karz(負債)」は、インド映画が誇る輪廻転生モノ映画の代表である。後世に多大な影響を与え、挿入歌にも不朽の名作が目白押しであり、後にカルト的な人気を博すことになったものの、公開当時の興行は失敗に終わった。

 監督はスバーシュ・ガイー。音楽はラクシュミーカーント=ピャーレーラール、作詞はアーナンド・バクシー。主演はリシ・カプール、ヒロインはティナ・ムニーム。他に、ラージ・キラン、スィミー・ガレーワル、プラーン、プレームナート、ドゥルガー・コーテー、アーバー・ドゥーリヤー、ジャラール・アーガー、ピンチュー・カプール、イフテカール、アルナー・イーラーニー、マック・モーハン、ムクリー、ビールバル、ヴィージュー・コーテー、ユースフ・カーン、カマルディープなどが出演している。

 1959年、ボンベイ。ラヴィ・ヴァルマー(ラージ・キラン)は、父親がウーティー(現ウダガマンダラム)に所有していた遺産を巡ってサー・ジュダー(プレームナート)との間で行われていた裁判に勝利する。だが、サー・ジュダーは使用人カーミニー(スィミー・ガレーワル)をラヴィと結婚させ、遺産を奪おうとしていた。サー・ジュダーの思惑通り、ラヴィはカーミニーと結婚し、彼女を連れて、母親シャーンター(ドゥルガー・コーテー)と妹ピンキー(アーバー・ドゥーリヤー)の待つウーティーの自宅へ向かっていた。その道中、カーリー女神寺院の前でカーミニーはラヴィを交通事故を装って殺害する。

 それから20年以上の歳月が過ぎ去った1980年。孤児ながらGGオベロイ(ピンチュー・カプール)に拾われ育てられたモンティー(リシ・カプール)は歌手として成功し、若者に人気になっていた。モンティーは親友ダヤール(ジャラール・アーガー)の上司が催したパーティーで歌を歌うが、そこで出会ったティナ(ティナ・ムニーム)という女性に一目惚れする。ティナはウーティーから一時的にやって来ていた女学生だった。

 モンティーは、特定のメロディーを奏でると特定のイメージが思い浮かび体調を悪くするようになった。医者のダニエル(イフテカール)はモンティーに休養を勧める。モンティーはウーティーにしばらく滞在することにし、ティナと再会する。ティナの両親は既に亡くなっていたが、カビーラー(プラーン)が後見人になっていた。カビーラーは、10年前に殺人で有罪判決を受け服役していたが、刑期を終えティナに会いにウーティーに戻っていた。カビーラーはティナと再会し、また、モンティーをティナの結婚相手として認める。

 ところで、かつてラヴィの所有だったウーティーの茶園、工場、邸宅は、彼の寡婦カーミニーのものになっていた。カーミニーはシャーンターとピンキーを追い出し、「女王」として振る舞っていた。カーミニーは、カビーラーが服役している間、ティナの面倒も見て来た。ティナはモンティーをカーミニーに会わせる。モンティーはカーミニーの顔に見覚えがあった。

 モンティーはラヴィの生まれ変わりであり、ウーティーに滞在している間、次第に前世の記憶を取り戻していく。モンティーはシャーンターとピンキーがまだ生きていると知り、二人を探す。彼女たちは村で貧しい生活をしていた。モンティーは二人と再会する。

 モンティーから秘密を明かされたカビーラーは、カーミニーへの復讐に協力することになる。だが、ただ彼女を殺しただけではモンティーが逮捕されてしまう。彼女に20年前の罪を自白させなければならなかった。モンティーはカーミニーに接近し、彼女を口説く。カーミニーも年下の男性に言い寄られていることに気を良くし、彼を恋人として扱い始める。モンティーのその姿を見てティナは嫉妬するが、カビーラーから真実を明かされ、彼女も納得する。

 モンティーはあの手この手でカーミニーを精神的に追いつめていく。サー・ジュダーが異変を察知しウーティーにやって来るが、カビーラーがモンティーたちを守る。サー・ジュダーは死に、カーミニーは脱走するが、モンティーが追跡する。そして、カーミニーはカーリー女神寺院の前でモンティーをひき殺そうとして崖から落ち、自滅する。モンティーはティナと結婚し、カシュミールへハネムーンに向かう。

 輪廻転生を導入し、仇敵への復讐の実現と母子の感動の再会を物語の軸にしながら、そこにキャッチーでメロディアスな歌と踊りを掛け合わせた、マサーラー映画の完成形である。ただ、低予算映画として作られたこともあって、安っぽさを感じないこともない。特に終盤、カーミニーを怖がらせるシーンなどは、完全にチープなコメディー映画のノリだ。こんなことで大の大人が驚くものなのか。悪役の人間関係が必要以上に入り組んでいることも混乱を招きがちだ。興行的には苦戦した理由はよく分かる。だが、そのような欠点があっても、時代を超えて幅広い観客層に訴求力のある、インド映画史に名を刻むべき作品になっている。

 輪廻転生をストーリーに組み込んだインド映画では、前世と現世を同じ俳優が演じることが多いが、「Karz」ではあえて前世のラヴィをラージ・キランが、現世のモンティーをリシ・カプールが演じている。顔が異なるため、ラヴィを知っている者はモンティーを見てもすぐにはそれがラヴィの生まれ変わりとは気付かないという仕掛けになっている。

 また、ラヴィは自然に輪廻転生したのではなく、やり残したことをこの世に残して死んだために生まれ変わることになったという説明をされていた。やり残したこととは、カーミニーに対する復讐であり、母親シャーンターとの再会であった。また、ラヴィはカーリー女神寺院の前で死に、シャーンターはカーリー女神の信者であった。これらの理由で、ラヴィはカーリー女神の加護を受けて輪廻転生したと解釈することもできるようになっている。カーミニーが死んだのもカーリー女神寺院の前だった。これは天罰であり、因果応報でもある。おかげで、ヒンドゥー教の熱心な信者にも受け入れられやすいストーリーだ。

 宗教という観点では、イスラーム教徒にも配慮が成されている。モンティーが前世で母親と妹だったシャーンターとピンキーに再会できたのは、カビーラーがアッラーに祈ったからだということになっていた。つまり、カーリー女神とアッラーが手に手を取り合ってラヴィおよびモンティーによる復讐と再会を手助けしたことになる。

 本来ならば悪役はカーミニーだけでいいはずだった。強欲な女性カーミニーがラヴィと結婚し、彼を殺して財産を奪い取ったというだけで十分物語は成立したが、カーミニー役を打診されたスィミー・ガレーワルが悪女のイメージが付くことに難色を示したため、カーミニーを操る黒幕を用意して彼女の悪質さを軽減したようである。

 「Karz」の面白さの半分以上は楽曲にあるといっても過言ではない。まず、メロディーが前世の記憶を呼び覚ますトリガーになっていた点が挙げられる。そのメロディーは、終盤で「Ek Hasina Thi」となって、歌詞付きで上演される。この曲は、カーミニーが20年前に犯した罪を糾弾する内容になっており、歌詞とストーリーの見事なシナジーが実現している。それのみならず「Karz」は名曲揃いだ。「Om Shanti Om」は若者の恋愛賛歌のようなダンスナンバーであり、「Om Shanti Om」(2007年/邦題:恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム)でも使われた。モンティーがティナへの愛情を表現するためにおもむろに歌い出す「Dard-E-Dil Dard-E-Jigar」もバラードとして秀逸である。「Tu Kitne Baras Ki Tu Kitne Baras Ka」も、カビーラーから結婚を認められたモンティーとティナの躍動する心情を歌ったかわいい曲だ。歌詞の中では「君は16歳、僕は17歳」となっていて、ティナはいいものの実際のモンティーの年齢とはズレがあるのだが、きちんと直前のセリフの中で弁明がされていて、芸の細かさを感じた。

 ちなみに、「Karz」は多くのリメイクやオマージュを生んだことでも、その影響力の強さをうかがい知ることができる。「Karz」自体のリメイクは、タミル語映画「Enakkul Oruvan」(1984年)、テルグ語映画「Aatmabalam」(1985年)、カンナダ語映画「Yuga Purusha」(1989年)、ヒンディー語映画「Karzzzz」(2008年)など複数ある。また、「Karz」の挿入歌の歌詞からは、「Paisa Yeh Paisa」(1985年)、「Main Solah Baras Ki」(1998年)、「Ek Hasina Thi」(2004年)、「Aashiq Banaya Aapne」(2005年)などが作られたし、前述の「Om Shanti Om」もそのひとつである。

 題名の「Karz」は「負債」という意味だが、劇中では2つの意味で使われていた。ひとつは「母乳の負債」。シャーンターは、ラヴィが死んだ後に、息子から母乳を与えた恩を返させてほしいとカーリー女神に懇願する。もうひとつは「前世の負債」。ラヴィを殺したカーミニーに対してモンティーは仇討ちに乗り出す。見事に復讐と再会という2つの要素をひとつの言葉で言い表していた。

 「Karz」は、輪廻転生をストーリーに組み込んだマサーラー映画の代表例としてインド映画史に永遠に名を刻まれるべき傑作である。一部に安っぽさはあるものの、時代を超え、世代を越えて楽しむことのできる娯楽作品だ。必見の映画である。


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