
2025年12月19日からNetflixで配信開始された「Raat Akeli Hai: The Bansal Murders」は、コロナ禍に配信されたNetflixオリジナル映画「Raat Akeli Hai」(2020年/邦題:孤独の夜)の続編である。ナワーズッディーン・シッディーキー演じるジャティル・ヤーダヴ警部補が主人公のダークなサスペンス映画が好評を博し、シリーズ化されることになった。
監督はハニー・トレーハンが続投。プロデューサー陣の中にはロニー・スクリューワーラーやアビシェーク・チャウベーの名前もある。
ナワーズッディーン・シッディーキーが引き続き主演を務める他、ラーディカー・アープテーとイーラー・アルンも再度出演している。その他のキャストは刷新されているが、演技力に定評のある実力派俳優たちが多数起用されており、玄人向けの顔ぶれだ。チトラーンガダー・スィン、ディープティー・ナヴァル、レーヴァティー、プリヤンカー・セーティヤー、ラージーヴ・グプター、アールシ・バジャージ、ラハーオ・バーリー、ディルザード・ヒワーレー、ラジャト・カプール、サンジャイ・カプール、アキレーンドラ・ミシュラーなどが出演している。
ウッタル・プラデーシュ州カーンプル在住の警察官で、サミール・ヴァルマー警視総監(ラジャト・カプール)の信頼厚いジャティル・ヤーダヴ警部補(ナワーズッディーン・スィッディーキー)は、大手新聞プラバート・マンタン紙を発行するバンサル家が一家惨殺された事件を担当することになる。バンサル家では1月26日にほとんどの家族が殺害された。その直前にはヴァルマー警視総監の命令でヤーダヴ警部補はバンサル家の邸宅を訪れ、違和感を感じ取っていた。家長であるマヘーンドラをはじめ、家族の面々は宗教家グル・マー(ディープティー・ナヴァル)の熱心な信者であった。ヤーダヴ警部補が訪れたときには、グル・マーが呼ばれ、1年前に病死したアルジュンの一周忌が行われていた。アルジュンは、マヘーンドラの孫娘でCFO(最高財務責任者)のミーラー・カンナー(チトラーンガダー・スィン)の息子であった。ヤーダヴ警部補が呼ばれたのは、グル・マーが「バンサル家に呪いが掛けられた」と言ったからだった。この日、バンサル家の庭では豚の頭が置かれ、大量のカラスの遺体が転がっていた。ヤーダヴ警部補は監視カメラの映像から豚の頭を置いた2人の男を特定し逮捕する。マヘーンドラは甥のラージェーシュ(サンジャイ・カプール)と不仲であった。ラージェーシュは報道局ニューライズの経営者で、プラバート・マンタン紙と対立していた。ヤーダヴ警部補はラージェーシュの関与も疑うが、立証はできなかった。その日の夜に惨殺事件が起きてしまった。
生き残ったのは、ミーラー、彼女の姪アースター、甥リハーンだけだった。また、警備員のオームプラカーシュ(ラハーオ・バーリー)が重傷を負って生死をさまよっていた。ヤーダヴ警部補は目撃者のミーラーに話を聞き、アーラヴ(ディルザード・ヒワーレー)が鉈を持って暴れる様子を見たとの供述を得る。アーラヴはプールに浮かんで死んでおり、プールの底からは凶器の鉈も見つかる。アーラヴは薬物依存症の治療中で禁断症状が出ており、ヤーダヴ警部補が前日に訪れたときにも暴れていた。ヴァルマー警視総監は、アーラヴの犯行と断定し事件の早期幕引きを図ろうとする。鑑識のロージー・パニカル(レーヴァティー)も同様の見解であった。だが、腑に落ちないヤーダヴ警部補はそれを制止し、捜査を続行する。彼が疑っていたのはミーラーであった。
犯行前、バンサル家のメンバーや警備員たちには睡眠薬が盛られていた。その成分はミーラーが服用していた睡眠薬と一致した。ミーラーの夫はロンドン在住の医師であり、彼女は薬を入手しやすい立場にいた。また、彼女の息子アルジュンの死因も偽造された診断書によってでっち上げられていた。ヤーダヴ警部補は小さな証拠を積み上げてミーラーを真犯人だと特定しようとする。
ところが、ヤーダヴ警部補は一枚の写真から重要な情報を得る。バンサル家がシェルカンパニーを通して経営していたプラスチック工場があり、1年前には、その近くのスラム街の学校で、子供たちが有毒ガスによって大量死する事件が起きていた。そのときに死んだ子供の一人が、オームプラカーシュの娘だった。当時、オームプラカーシュはミーラーの運転手をしており、アルジュンも連れて学校に来ていた。実はアルジュンもこのときの有毒ガス漏れによって死んでいたのだった。
重傷を負って入院していたオームプラカーシュの意識が戻り、ヤーダヴ警部補は彼を問い詰める。オームプラカーシュは犯行を認め、自供の様子を撮影した動画が世間に流出する。ヴァルマー警視総監はオームプラカーシュを犯人だと断定するが、彼はそのまま息を引き取ってしまった。
第2作が作られたことで、「Raat Akeli Hai」シリーズの特徴がよりはっきりした。第1作と第2作に共通するのは、殺人事件が発生し、無口だが頭の切れる警察官ヤーダヴ警部補がその真相を解明する点、当初から怪しい人物が複数提示され、あたかもその中に犯人がいるように印象操作されるが、実際には意外なところから真犯人が現れる点である。もっとも、この手のサスペンス映画ではありがちな構造であり、それ自体に目新しさはない。いかに意外なところに真犯人を置いておけるかが腕の見せ所だ。
「Raat Akeli Hai: The Bansal Murders」で殺人の舞台になるバンサル家には、怪しい宗教家が入り浸り、一室に閉じこめられた薬物依存症の若者やゲーム中毒の少年がおり、また、商売敵の親戚もいる。一家殺害事件が起き、当然のことながら、彼らが容疑者として浮上する。だが、ヤーダヴ警部補はミーラーに不信感を抱き、彼女こそが真犯人だと断定して捜査を進める。彼女には真犯人であってもおかしくないほど怪しい点がいくつもあった。だが、最後の最後でもう一段階サプライズがあり、犯人、手口、そして動機が明らかになる。つまり、三段構えの構造になっている。
この作品を、真犯人が二転三転するスリラー映画として楽しんでもいいのだが、そこからいくつか社会的なメッセージを読み取ることもできるだろう。もっとも痛烈な批判が浴びせかけられていたのはメディアだ。メディアはしばしば「民主主義の第四の柱」と呼ばれ、権力を監視する重要な責務を負っているが、そのメディアが社会的弱者に寄り添わず、「報道しない自由」を振りかざして真実を隠蔽することで、社会に大きな歪みが生まれていることへの警鐘を鳴らしていた。報道機関の多角経営にも疑問が呈されていた。「報道しない自由」を握りながら各種の事業に乗り出すことで、自グループに不祥事などがあっても情報を操作してやり過ごせるようになり、公平性が著しく損なわれる。バンサル家の一家惨殺も結局は、大手報道機関が深刻な不祥事をもみ消し、貧困層を踏みにじったことを動機として発生したものであった。
事件の捜査と並行して、ヤーダヴ警部補の私生活の変化も描かれる。彼は前作で出会ったラーダー(ラーディカー・アープテー)を自宅に迎え入れ、母親サリター(イーラー・アルン)に紹介し、さらに彼女を家に住まわせるのである。サリターは前作からヤーダヴ警部補の結婚を極度に気にしていたが、それが本作で報われた形である。
ヤーダヴ警部補役を演じたナワーズッディーン・シッディーキーの演技はもはや改めて褒めそやす必要はないだろう。どんな役柄でも演じられるが、今回はシリアスな演技に徹していた。ディープティー・ナヴァルやラジャト・カプールといったベテラン俳優陣ももちろんピンポイントで好演していたし、チトラーンガダー・スィンが起用された理由もその必要があったからだと分かったのだが、その中でももっともインパクトを残していたのは鑑識課のパニカル役を演じたレーヴァティーだ。ヤーダヴ警部補に匹敵する存在感を放っており、彼女のスピンオフが作られるのではないかと予想してしまうくらいキャラが立っていた。
「Raat Akeli Hai: The Bansal Murders」は、「Raat Akeli Hai」シリーズの2作目に位置づけられる作品で、二転三転するスリリングな展開が売りだ。主演ナワーズッディーン・シッディーキーをはじめ、ベテラン俳優が勢揃いしており、彼らの競演を楽しめるのもポイントが高い。観て損はない映画だ。
