Jewel Thief: The Heist Begins

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Jewel Thief: The Heist Begins
「Jewel Thief: The Heist Begins」

 2025年4月25日からNetflixで配信開始された「Jewel Thief: The Heist Begins」は、題名の通り宝石泥棒を主人公にした、いわゆる「コン映画」である。ちなみに、1967年に公開されたアショーク・クマール主演のヒット作「Jewel Thief」とは全く無関係の映画だ。

 監督は「Visfot」(2024年)などのクーキー・グラーティーと「Romeo Akbar Walter」(2019年)などのロビー・グレーワル。主演はサイフ・アリー・カーン。ヒロインは「Lekar Hum Deewana Dil」(2014年)や「Dange」(2024年)などのニキター・ダッター。他に、ジャイディープ・アフラーワト、クナール・カプール、クルブーシャン・カルバンダー、ガガン・アローラー、ミーナル・サーフーなどが出演している。

 日本語字幕付きで、邦題は「宝石泥棒:ハイスト・ビギンズ」になっている。

 著名な美術収集家でアンダーワールドとの黒いつながりも噂されるラージャン・アウラク(ジャイディープ・アフラーワト)は、ムンバイーでアフリカのガムヌ王子が所有する有名なダイヤモンド、レッド・サンが展示されることを知り、それを盗みだそうと考える。だが、展示されるのは厳重に警戒された美術館であり、盗難が可能なのは世界中でただ一人、宝石泥棒のレハーン・ロイ(サイフ・アリー・カーン)だけだった。ラージャンは貧しい人々のために診療所を運営する医師ジャヤント(クルブーシャン・カルバンダー)を使ってラージャンを脅す。レハーンはブダペストにいたが、弟から父親の危機を聞いてムンバイーに降り立つ。だが、長年レハーンを追っていた特別作戦部隊(STF)のヴィクラム・パテール(クナール・カプール)も活動を活発化させる。

 レハーンはラージャンと会い、レッド・サン盗難の依頼を受ける。レハーンはラージャンの邸宅に住み込みながら作戦を練るが、そこでラージャンの妻ファラー(ニキター・ダッター)と出会い、心惹かれる。ファラーは日常的にラージャンから暴力を受けていた。また、レハーンは過去にファラーと会ったことがあった。ラージャンはレッド・サンをイスタンブールのマフィア、アニース・ムーサーに売り渡そうと考えていた。

 レッド・サンが展示されると、レハーンは美術館に忍び込むが、失敗してしまう。レハーンは何とか脱出し、ラージャンの元に戻る。ラージャンは失敗したレハーンに暴行を加えるが、既に彼はムーサーとレッド・サン売買の話をまとめてしまっており、彼も危機に陥っていた。だが、レハーンはまだレッド・サンを盗み出すチャンスはあると言う。ガムヌ王子はレッド・サン盗難未遂事件に腹を立て、レッド・サンを持ってロンドンへ渡ろうとしていた。レハーンは、運搬中の飛行機でそれを盗む計画を立てる。そしてそのチームにファラーを加える。

 ガムヌ王子のプライベートジェットはレハーンの仕込みによって飛べなくなり、彼は民間航空機でムンバイーからロンドンに移動することになった。レハーン、ラージャン、ファラーたちはその飛行機に乗り込み、協力してレッド・サンを盗み出す。飛行機はイスタンブールに降り立ち、彼らはヴィクラムの追っ手を巻いて逃亡する。

 ラージャンはレッド・サンをムーサーに届ける。そして彼はレハーンを殺そうとするが、レハーンはレッド・サン盗難後に殺されることを見通しており、反撃の準備をしていた。しかも、ラージャンがムーサーに渡したレッド・サンは偽物であった。レハーンはラージャンとムーサーもろとも爆死させ、自分はファラーと共にロンドンに渡っていた。

 世界を股に掛けた大泥棒が主人公の映画であり、日本人には何となく見覚えのあるストーリーである。主人公レハーンは宝石泥棒とのことだが、美術品全般に関心があるようで、彼が狙うのは宝石にとどまらない。また、映画が始まった時点で既に彼は百戦錬磨の有名な宝石泥棒であり、彼が宝石泥棒になった経緯はすっ飛ばされている。よって、レハーンがいかに周囲の人々をだまして宝石泥棒を完遂させるかを楽しむ映画になっている。

 ただ、レハーンが金銭的な富を追い求めるようになった理由については簡単に触れられていた。彼の父親は10ルピーという低額の診療代で人々を診療する良心的な医者であった。だが、あまりに金に無関心だったために貧困と隣り合わせの生活であり、レハーンは子供の頃からそれに強く不満を抱いていた。金銭的な理由から病気になった母親の治療ができず死なせてしまったトラウマからレハーンは父親と袂を分かち、泥棒の道を歩み始めたのだった。父親はレハーンを勘当しており、息子とも認めていなかったが、レハーンは父親から承認されたいという強い欲求を持っていた。宝石泥棒誕生秘話に家族のドラマを入れ込んでくるあたりはいかにもインド映画らしい。

 「Jewel Thief」の欠点は、キャラが立っていなかったことだ。映画を一通り観てもレハーンのことがよく分からないし、レハーン逮捕に躍起になるヴィクラムも全くの添え物であった。悪役のラージャンにしても、大物なのか小物なのか不明瞭だ。特に主人公レハーンに魅力があれば、少々散らかっていても押し切ることができるタイプの映画だったが、それがなかった。それは、レハーン役を演じたサイフ・アリー・カーンの責任でもある。企画段階で詰めが甘かったとしかいいようがない。

 もちろん、サイフはトップスターであるが、それ以外の配役に話題性は乏しい。ヒロインのファラー役を演じたニキター・ダッターはいまいちブレイクできていない女優であり、この映画でもやはり存在感は出せていなかった。ヴィクラム役を演じたクナール・カプールにいたっては久々に見た。最後に彼を見たのは「Koi Jaane Na」(2021年)あたりであった。このブランクが彼を大きく成長させていたということもなく、どこか場違い感のある演技しかできていなかった。ラージャン役を演じたジャイディープ・アフラーワトが好演していたくらいである。

 「Jewel Thief: The Heist Begins」は、サイフ・アリー・カーンが国際的な宝石泥棒を演じるコン映画である。題名から察するにシリーズ化が想定されているようだが、1作目からこけており、続編は望めそうにない。無理して観る必要のない映画である。