Ruslaan

3.0
Ruslaan
「Ruslaan」

 2024年4月26日公開の「Ruslaan」は、テロリストの息子がテロを阻止するヒーローになるという筋書きのスパイ・アクション映画だ。アーユシュ・シャルマーの再ローンチ映画という位置づけでもある。アーユシュ・シャルマーはサルマーン・カーンの養妹アルピター・カーンと結婚しており、サルマーンの義弟になる。これまで「Loveyatri」(2018年)と「Antim: The Final Truth」(2021年)に主演したが、ブレイクは得られていない。

 監督は「Phamous」(2018年)のカラン・ブーターニー。シュリー・サティヤ・サーイー・プロダクションの名の下にテルグ語映画を製作してきたKKラーダーモーハンが初めてプロデューサーを務めたヒンディー語映画である点も注目である。

 主演がアーユシュ・シャルマーであるのに対し、ヒロインはスシュリー・シュレーヤー・ミシュラーである。彼女は「Zero」(2018年)と「Malaal」(2019年)に端役で出演していた女優で、本作で初めてヒロインの座を手にした。

 テルグ語映画界の俳優ジャパガティ・バーブーが重要な役で出演していることも見逃せない。ヒンディー語映画への出演は初めてではないが、このキャスティングにはプロデューサーがテルグ人であることと関係があるだろう。

 他には、ヴィディヤー・マーラヴァデー、ビーナー・バナルジー、サル・ユースフ、サンガイ・ツェルティムなどが出演している。また、ナワーブ・シャー、スニール・シェッティー、ザヒール・イクバールが特別出演している。

 日本人としては、ロンドンを拠点とする日本人俳優、三原英二が出演していることに注目したい。ただし、中国人役である。一昔前には日本人役を中国人俳優が演じるのが世界で一般的だったが、遂に日本人俳優が中国人役を演じる時代がやって来たのだと思うと感慨深い。

 ルスラーン(アーユシュ・シャルマー)は、2004年のムンバイーにおいて、対テロ部隊(ATS)の作戦によって殺されたテロリスト、アブドゥッラシード(ナワーブ・シャー)の息子だった。その作戦を指揮したサミール・スィン(ジャガパティ・バーブー)がルスラーンを養子にして育てた。ルスラーンに音楽の才能があることを見抜いたサミールは彼を音楽の道に進ませようと思ったが、ルスラーンは密かに対外諜報機関RAW(研究分析局)のアセット(協力者)として働いていた。だが、命令を無視して行動する癖があり、上司のマントラー(ヴィディヤー・マーラヴァデー)から叱られてばかりいた。

 マントラーから情報収集の任務を受けたルスラーンは、ムンバイー大学に音楽教師として着任する。音楽祭にて彼は怪しい人物を追跡し、中国人諜報員リー(サンガイ・ツェルティム)と対峙する。彼らは何かが入ったバッグを搬送していた。だが、リーを取り逃し、大した情報は得られなかった。

 その後、ルスラーンはカースィムを名乗る男から電話を受ける。カースィムこそRAWが過去20年間追ってきたテロリストの親玉で、決して姿を現さないことから「ゴースト」の異名を持っていた。マントラーはカースィムの手掛かりを得るためルスラーンを泳がすことにする。また、彼はRAWエージェントのヴァーニー(スシュリー・シュレーヤー・ミシュラー)を紹介される。

 カースィムから、ムンバイーを訪れていた米国人実業家バーニー・サンダースの命を狙うと情報を得たルスラーンは彼を守ろうとするが、バーニーは殺されてしまう。しかも、ルスラーンがその犯人にされてしまった。駆けつけたサミールに降伏するように言われるが、ルスラーンは逃亡に成功する。世間では、テロリストの息子はテロリストだと烙印を押され、サミールも責められる。この失態により、マントラーとヴァーニーは停職処分となる。

 ルスラーンはヴァーニーと共にアゼルバイジャンへ飛び、一連の事件と関連していると思われる中国人実業家ウー(三原英二)と接触しようとする。ルスラーンはウーに捕らえられ殺されそうになるが、何とか逃げ出す。また、彼はウーがムンバイーのガスラインに有毒の化学物質を混入させて市民を皆殺しにしようとしているのを知る。ルスラーンとヴァーニーはムンバイーに戻る。

 ルスラーンからテロ計画の詳細を聞いたマントラーは何者かに殺されてしまう。ルスラーンとヴァーニーはムンバイーのガス会社に潜入し、ウーの手下たちがテロを行うのを阻止する。そこへサミールがやって来る。実はサミールこそがカースィムであった。ショックを受けたルスラーンだったが、最後には育ての父親を殺す。おかげで、ルスラーンに掛けられた嫌疑は晴れる。

 ルスラーンはデリーのRAW本部に呼ばれ、シノイ局長(スニール・シェッティー)から正式にRAWエージェント採用の通知を受ける。最初の任務はウーの抹殺であった。

 2000年代、インドの各都市が頻繁にテロの脅威にさらされるようになったこともあって、ヒンディー語映画でもテロやテロリストを主題にした映画が多数作られた。この「Ruslaan」も、2004年から物語が始まり、テロ未遂のシーンが映し出されるが、当時の世相をよく表している。ただ、この映画の主な時間軸は2024年だ。あれから20年後、この映画がまず提示したのは、テロリストの子供たちの存在である。主人公ルスラーンは、正にテロリストの息子だった。しかも、テロリストを殺したATSの警察官サミールによって育てられた。彼は、テロリストの息子としての汚名と、ATSの隊長にまで登り詰めた有能な警察官の息子としての栄誉の2つに板挟みになっていた。設定としては非常に面白い。

 サミールはルスラーンを一般市民として育てたかったが、ルスラーンは尊敬する育ての父親のように警察官や軍人として国に貢献したいという強い願望を持っていた。彼はサミールに内緒でRAWのアセットとして働いていた。この辺りから無理のある設定になってくる。

 ルスラーンは米国人実業家暗殺の濡れ衣を着せられ、逃亡の身となってしまう。指名手配されたルスラーンはマスコミによって「テロリストの子供」として紹介され、「テロリストの子供はテロリストだ」という心ない批判まで受ける。何より、サミールからそういう言葉を投げ掛けられたことが彼にとって大きなショックだった。ルスラーンは、自身の汚名を晴らすばかりでなく、育ての父親の信頼を取り戻すべく、自分がテロリストではないことを証明するため、インドの平和を乱そうとするテロ組織を壊滅させようとする。その黒幕は、中国人実業家ウーと、「ゴースト」の異名を持つ謎のテロリスト、カースィムであった。

 カースィムの正体が実はサミールだったという点がこの映画の大きなどんでん返しであり、最大のアピールポイントであろう。確かに衝撃は大きかったが、そのおかげで、家族の絆というインド映画が伝統的に大事にしてきた要素が弱まってしまった。ルスラーンの実の父親であるアブドゥッラシードが実はテロを未然に思い止まっていたという真相が明かされるものの、テロに加担しようとしていたのは紛れもない事実で、それでもって免罪符にはならない。むしろ、育ての父親であり、対テロ部隊の隊長という立場のサミールと、テロリストの濡れ衣を着せられたルスラーンの間の葛藤に満ちた対決を純粋に見せてくれた方が、よりエモーショナルな映画になったのではなかろうか。

 アーユシュ・シャルマーは決してスターになる潜在力のない俳優ではない。「Ruslaan」での立ち振る舞いを見ても、十分に次世代のスターに名乗りを上げる資格を持っていると感じた。だが、いかんせん作品に恵まれていない。サルマーン・カーンの威光もさすがに一朝一夕でスターを創り上げてしまうほどのものではない。地道にいい作品に出演していくことが涵養だ。逆にいえば、今後作品に恵まれれば、第一線で活躍するスターに飛躍する可能性は十分にある。

 トルコのイスタンブールやアゼルバイジャンでロケが行われており、スケールは大きかった。ドローンによる空撮も効果的に使われていた。ただ、海外ロケの強い必要性がある映画だとは感じなかった。異国情緒を醸し出すのに貢献していたくらいだ。イスタンブールはヒンディー語映画界で人気のロケ地になっているが、アゼルバイジャンは珍しい。

 「Ruslaan」は、サルマーン・カーンの義弟アーユシュ・シャルマー主演のスパイ・アクション映画である。ストーリーを捻りすぎて、インド人観客が好む家族愛の物語に昇華し損ねた作品という印象を受けた。興行的にも大失敗に終わっており、なかなかアーユシュはヒット作に恵まれない。ただ、それほど悪い作品でもない。