Players

3.5
Players
「Players」

 ヒンディー語映画界にとって近年稀に見る当たり年となった2011年も終わり、2012年が始まった。1月6日、今年最初の公開作はアッバース・マスターン監督の「Players」。ハリウッド映画「The Italian Job」(2003年)の公式リメイク作品で、アビシェーク・バッチャンを初めとしたビッグネームが揃ったマルチスター映画である。

監督:アッバース・マスターン
制作:ヴィアコム18モーション・ピクチャーズ
音楽:プリータム
歌詞:アーシーシュ・パンディト
振付:ボスコ=シーザー、ラージュー・カーン
衣装:アナーヒター・シュロフ・アダジャニヤー
出演:アビシェーク・バッチャン、ソーナム・カプール、ビパーシャー・バス、ボビー・デーオール、スィカンダル・ケール、ニール・ニティン・ムケーシュ、オーミー・ヴァイディヤ、ヴィノード・カンナー、ジョニー・リーヴァル、アーフターブ・シヴダーサーニー
備考:PVRプリヤーで鑑賞。

 チャーリー・マスカレナス(アビシェーク・バッチャン)は「プレイヤーズ」と呼ばれる世界最高の専門技術を持った泥棒。相棒のリヤー(ビパーシャー・バス)と共に貴重な宝石を盗んだばかりであった。チャーリーは6ヶ月後の再会を約束し、リヤーと別れる。

 一方、ラージ(アーフターブ・シヴダーサーニー)はロシアで、ソビエト連邦がルーマニアから接収した金塊を盗もうとしていた。その価値はおよそ1,000億ルピーだった。しかし、ラージは単身その仕事に取り組んだために失敗し、ロシア人マフィアに殺されてしまう。死ぬ直前にラージはチャーリーにこの金塊の情報を託す。

 チャーリーは刑務所に10年間服役している泥棒の師匠ヴィクター・ブリガンザ(ヴィノード・カンナー)に協力を仰ぐ。ヴィクタ―は、娘のナイナー(ソーナム・カプール)にもう間違ったことはしないと約束していたが、学校を開く夢を叶えるためにチャーリーに協力することになる。ヴィクタ―の呼び掛けに応じ、プレイヤーズが集結する。爆薬スペシャリストのビラール(スィカンダル・ケール)、イリュージョニストのロニー(ボビー・デーオール)、メイクアップの達人サニー・メヘラー(オーミー・ヴァイディヤ)、そしてリヤーである。

 ただヴィクタ―は、この計画のために欠かせない天才ハッカーのスパイダー(ニール・ニティン・ムケーシュ)と連絡を取れずにいた。しかしながら大学でコンピューター・サイエンスを勉強していたナイナーはスパイダーのことを知っており、彼の発見に協力する。スパイダーはゴアにいることが分かり、五人は彼の居場所を訪ねる。スパイダーは居場所を特定されたことを察知し逃げ出すが捕まってしまう。チャーリーに説得され、スパイダーも計画に協力することになる。

 金塊はロシアからルーマニアに列車で運ばれることになっていた。セキュリティーは厳重で、コマンドー部隊が警備しており、衛星の監視もあった。しかしチャーリーはプレイヤーズを適材適所に使い、まんまと金塊を盗み出す。

 ところが喜びも束の間、脱出地点でスパイダーが裏切り、チャーリーらは窮地に立たされる。ロニーとリヤーは撃たれ、チャーリー、ビラール、サニーも極寒の湖に沈められる。しかしながらチャーリー、ビラール、サニーは何とか命拾いする。また、スパイダーは刑期を終えて出所したヴィクタ―にも刺客を差し向けていた。ヴィクタ―はナイナーの目の前で殺されてしまう。

 それから1年が経った。チャーリーはスパイダーへの復讐を計画していたが、なかなか彼の居所を掴むことができなかった。ナイナーは、父親を再び悪事に導き、結果として彼の死を招いたチャーリーに対して怒っており、彼と話そうともしなかった。しかしながら、スパイダーの手掛かりがニュージーランドにあることが分かる。ナイナーも父親の復讐をすることを誓い仲間に加わる。こうしてチャーリー、ビラール、サニー、ナイナーの四人はニュージーランドへ向かう。

 ニュージーランドで四人はスパイダーがウェリントンの豪邸に住んでいることを突き止める。しかし警備は厳重で、突破は困難であった。また、ウェリントンでは偶然リヤーと再会する。てっきりロシアで死んだものと思われていたが、地元ロシア人に命を救われ、その後はチャーリーと同じくスパイダーへの復讐を練っていた。彼がウェリントンにいることまではリヤーも独自に察知し、当地に住んで機会をうかがっていたのだった。

 チャーリーはナイナーをスパイとしてスパイダーの豪邸に送り込むことにする。ところがスパイダーはチャーリーの行動を全て把握していた。ナイナーはスパイダーに捕えられてしまう。チャーリーは予め用意していた装甲車に乗って豪邸に特攻し、スパイダーのところまで突進する。そこで対面したチャーリーは、48時間以内に金塊を盗み出すことを約束する。スパイダーもその挑戦に受けて立つ。

 チャーリーは、スパイダーが金塊を外に避難させようとしていることを知り、それを盗み出すことにする。だが、実はリヤーは元々スパイダーと通じており、リヤーを通してチャーリーの行動を事前に掴んでいた。スパイダーは空の搬送車を移動させる。一方、チャーリーの方もそれは読んでおり、一応盗み出す振りをして次の手を考えていた。スパイダーが本物の金塊を運び出し始めたところでそれを盗み出すことに成功する。

 チャーリーらの脱出地点でスパイダーとリヤーは待ち構えていたが、チャーリーは金塊をどこかに隠して来ていた。スパイダーはリヤーを人質に取って在処を聞き出そうとするが、自責の念に駆られたリヤーは自ら命を絶ってしまう。隙を見てチャーリーらは反撃し、スパイダーに攻撃する。最後はナイナーが引き金を引き、父親の仇を取る。

 ところが息を引き取る前にスパイダーはロシア人マフィアにルーマニアの金塊のことを連絡していた。ロシア人マフィアはすぐにニュージーランドに駆けつける。チャーリー、ナイナー、ロニー、ビラールの四人は3台の自動車に乗って走行中だったが、それをロシア人マフィアが止める。しかしながら自動車から金塊は見つからなかった。仕方がないのでロシア人マフィアも彼らを解放する。一体どこに金塊があるのか?実は彼らの乗っている自動車そのものが金でできていたのだった。

 前述の通り、この映画はハリウッド映画「The Italian Job」のリメイクである。アッバース・マスターン監督によると、「The Italian Job」という映画は2作あり、2003年の作品だけでなく、1969年のものも参考にしたようなのだが、それらを観たことがないため、比較しての評価はできない。単純にこの「Players」を観ての感想になる。

 ちょうど昨年末に公開された「Don 2」(2011年)と非常に似た流れのアクションスリラー映画だった。チームワークで「ミッション・インポッシブル」を成功させるという点でも、裏切りを素材としたあっと驚くどんでん返しを用意していた点でも、酷似していた。ただ、全体の面白さから言ったら、この「Players」の方が上であった。「Players」では盗みの部分は前半にまとめられており、後半は裏切り者スパイダーとの戦いに徹していた。そのくせ、盗みの部分の緊迫感も「Players」の方が上だった。何しろ走っている列車に列車を併走させ、そこから金塊を盗み出すのである。「Don 2」はシャールク・カーン一人のスターパワーへの依存が大きいが、「Players」の方は、シャールク・カーンほどではないものの、現在一線で活躍している複数の俳優が出演しており、より豪華さがあった。よって、「Don 2」よりも「Players」の方が、多くの娯楽要素が詰め込まれていた印象であった。

 「Players」のストーリーのターニングポイントとなるのは2つの裏切りである。ひとつはスパイダー、もうひとつはリヤーだ。スパイダーはラージの存命中からルーマニアの金塊を狙っており、わざとチャーリーに情報を流して彼に盗みを実行させることにした。そしてまんまとチャーリーのチームの一員になり、彼が盗みを成功させた途端に反旗を翻して金塊を奪って行く。リヤーはこの金塊を盗む計画段階でスパイダーの裏切りを察知していたが、彼がいないとこの計画は成功しないことも知っており、わざとそれを黙認する代わりにスパイダーの仲間となる。スパイダーが裏切ったときに死んだと見せ掛けるが実は生きており、その後はスパイダーと共に金塊の主となる。そしてスパイダーはチャーリーが自分の手掛かりを掴んだことを知るとリヤーをわざと送り込み、スパイとして活動させる。スパイダーの裏切りとリヤーの裏切りは時間差を持って明かされるが、リヤーの裏切りの方は賢い観客なら予想可能である。しかしながら、この2つの裏切りによって、映画のアップダウンをうまく形成できていた。

 ただ、チームワークという点では各人の役割がはっきりしていなかった。ハッカーのスパイダーがもっとも明確な役割を受け持っていたが、例えばメイクアップの達人サニーがメイクアップの腕を披露するのは金塊奪取のときのみであった。後半、スパイダーの豪邸に潜入する際に彼のその特技が活かされなかったのが不思議である。どちらかというと各人とも雑用を受け持っている時間の方が長かった。各分野のエキスパートを集めたはずなのだが、深く考えると、その必要もなかったのではと感じずにはいられない。それでも、前半の金塊奪取のシーンはそのチームワークがもっとも活かされており、非常に迫力があった。これだけでもこの映画は大きな価値を持っていると言える。

 後半の見所は、3台の小型車でもって街中(地下道や地下鉄を含む!)を疾走するシーンだ。ナイナーがウェリントンの信号システムをハッキングして渋滞を引き起こし、街中を「ムンバイー化」してしまった中、小型軽量の利点を活かし、隙間を塗ってバイクの集団とカーチェイスを繰り広げる。しかもエンディングではその自動車のボディーに隠された秘密が明かされる。金塊を加工してしまったら価値が下がるのではないかという突っ込みもあるが、オチとしては優秀であった。

 キャスト陣の顔ぶれを見るとかなり変わったコンビネーションになっている。まず強く感じたのが女優の世代交代。ビパーシャー・バスがメインヒロインの座をソーナム・カプールに奪われる形になっていた。何しろ主人公チャーリーの恋人的存在として登場し、最後には悪役に墜ちてしまうのである。ビキニを着たりして一生懸命アピールしていたが、失礼ながらかなり老けてしまった印象を受けた。ソーナム・カプールは今回なかなかの演技をしていた。まだ所々で垢抜けないところがあるが、若さは力。既に彼女の世代の時代が来ていることを強く印象づけていた。

 男優陣の方も世代交代を暗示する配役があった。それはボビー・デーオールとニール・ニティン・ムケーシュである。まず、ボビー・デーオールが脇役で出演していたのには非常に違和感を感じた。昨年は「Yamala Pagla Deewana」(2011年)のヒットで株を上げたのだが、こんなつまらない役を演じなければならないほど身を落としてしまったのかと思うと悲しくなる。それに対しニール・ニティン・ムケーシュは今回とてもおいしい役だった。最初はオタッキーなハッカーの容貌で登場しながら、すぐに正体を現わし、後半では本作の悪役として君臨する。

 他に「3 Idiots」(2009年)でブレイクしたオーミー・ヴァイディヤがすっかりヒンディー語映画界にコメディアンとして馴染んでいるのを見るのも楽しかった。一発屋になる可能性もあったのだが、彼自身の才能もあったのだろうし、「Dil Toh Baccha Hai Ji」(2011年)や「Desi Boyz」(2011年)など作品にも恵まれ、このまま定着するだろう。それに対し、長年ヒンディー語映画の「顔」として多数の作品に出演して来たコメディアン俳優ジョニー・リーヴァルがすっかり隠居のような形で出演していた。これも世代交代の一環だと言える。

 最後になってしまったが、主演アビシェーク・バッチャンは最近同じような役柄が多くなっており、多少マンネリも感じるようになった。「Dhoom」シリーズで演じた沈着冷静大胆不敵な警察官、ACPジャイ・ディークシトの役柄が発端であろう、「Game」(2011年)、「Dum Maaro Dum」(2011年)など、同様の役が続く。今回は泥棒であるが、その頭脳の切れと落ち着きは「Dhoom」譲りである。他にはヴィノード・カンナーやアーフターブ・シヴダーサーニーの出演が特筆すべきである。

 音楽はプリータム。多分本腰を入れて作った音楽ではないだろうが、映画を盛り上げるだけの存在感はあった。

 ところで、公式リメイクということはつまり著作権者から正式に許可を得たということであろう。ヒンディー語映画ではハリウッド映画や国内外の映画の無断リメイク(いわゆるパクリ)が横行しているのだが、最近は正式な手続きを踏んだ公式リメイク作品が出て来た。ハリウッド映画「Stepmom」(1998年)の公式リメイク作品「We Are Family」(2010年)はその一例である。ヒンディー語映画界のリメイク映画に対しては個人的には必ずしも好意的な感情を抱いていないが、もしリメイクをするのなら、これらの作品のように正式な手順を踏んで欲しいものである。

 「Players」は2012年最初のヒンディー語映画作品。純粋にアクションスリラー映画としての楽しさや迫力から言えば「Don 2」を越えていた。しかしながら、ハリウッド映画のリメイクということもあり、インド人観客や、インド映画を普段から楽しんでいる外国人インド映画ファン層以外に格別勧められる作品ではない。