Yamla Pagla Deewana Phir Se…

4.0
Yamla Pagla Deewana Phir Se...
「Yamla Pagla Deewana Phir Se…」

 2018年8月31日公開の「Yamla Pagla Deewana Phir Se…」は、「Yamla Pagla Deewana」(2011年)、「Yamla Pagla Deewana 2」(2013年)に続く「Yamla Pagla Deewana」シリーズの3作目である。「Yamla」も「Pagla」も「Deewana」も「頭のおかしい人」という意味で、「Phir Se…」とは「再び・・・」という意味だ。このシリーズは、往年の名優ダルメーンドラと、彼の2人の息子サニー・デーオールとボビー・デーオールが共演するコメディー映画という共通点がある。続編ながら、ストーリー上のつながりはない。

 「Yamla Pagla Deewana」シリーズの監督は交替し続けており、3作目の監督はパンジャービー語映画で活躍するナヴァニーヤト・スィンになっている。ダルメーンドラ、サニー・デーオール、ボビー・デーオール親子の他に、クリティ・カルバンダー、ビンヌー・ディッローン、シャトゥルガン・スィナー、アスラーニー、サティーシュ・カウシク、モーハン・カプール、パレーシュ・ガナートラー、ラージェーシュ・シャルマーなどが出演している。また、エンドクレジット曲「Rafta Rafta Medley」にはサルマーン・カーン、レーカー、ソーナークシー・スィナーが特別出演している。

 プーラン(サニー・デーオール)は先祖代々伝わるアーユルヴェーダの知識を受け継ぐ伝統医で、パンジャーブ州アムリトサルでカザーンチー薬局を経営していた。カザーンチー薬局の「ヴァジュラカワチ」という薬はあらゆる病気に効くと評判で、地元の人々の健康を守り続けていた。プーランもこの薬のおかげで強靱な肉体を身に付けていた。しかし、プーランの弟カーラー(ボビー・デーオール)はお調子者で、プーランの助手ビッラー(ビンヌー・ディッローン)と喧嘩ばかりしていた。

 グジャラート州スーラトを拠点とするマールファーティヤー製薬の社長マールファーティヤー(モーハン・カプール)は長年ヴァジュラカワチの製造方法を研究し続けたが成功しなかった。そこでマールファーティヤーはアムリトサルをプーランに会いにきて、ヴァジュラカワチの製法を多額の金で買おうとするが、プーランはマールファーティヤーが儲けのことしか考えていないと見抜いており、拒否する。そしてプーランはマールファーティヤーを殴って追い出す。

 ある日、グジャラート州からアーユルヴェーダを研究しにチークー(クリティ・カルバンダー)という女医がやって来る。チークーはプーランの家に住み込んで研究をする。チークーに一目惚れしたカーラーは彼女にアムリトサルを案内したりするが、彼女に告白することはできなかった。1週間の滞在期間を終え、チークーはグジャラート州に帰った。

 それからしばらく後に、マールファーティヤー製薬がヴァジュラカワチをコピーし、「トータルキュア」という薬を発売し、しかもその製法の特許を取得したことが分かる。マールファーティヤーはプーランに通知を送り、ヴァジュラカワチの製造を停止するように要求した。そこでプーランは、彼の貸部屋に居座り続ける少し変わった弁護士パルマール(ダルメーンドラ)を弁護士に雇い、マールファーティヤーと法廷で戦うことを決める。プーラン、カーラー、パルマールはスーラトに飛び、家を借りる。偶然、その家の隣にはチークーが住んでいた。

 裁判が始まった。裁判長はパルマールの旧友スニール・スィナー(シャトゥルガン・スィナー)、マールファーティヤーの弁護士は百戦錬磨のバーティヤー(ラージェーシュ・シャルマー)であった。裁判では、双方が互いに薬の製法を盗んだと主張した。スィナー裁判長は両者に対し証拠を出すように要求する。

 裁判が行われている裏でマールファーティヤーはカーラーとパルマールを呼び出し、12億ルピーの示談金を提示する。二人はそれを受け取ろうとするが、プーランは拒絶する。そのとき、実はチークーがヴァジュラカワチの製法を盗み出したことを自白し、裁判に証人として出ると約束する。チークーは自分の診療所を開く金を欲しており、マールファーティヤーからヴァジュラカワチを盗み出す仕事を請け負ったのだった。これで一気に裁判は有利になった。

 ところがマールファーティヤーはチークーが裏切ったことを察知し、裁判の直前に彼女を拉致させる。パルマールは裁判を長引かせる一方、プーランはチークーを探し、彼女を裁判所に連れて来る。彼女の証言のおかげでプーランは勝訴し、信頼を失ったマールファーティヤー製薬は倒産する。

 「Yamla Pagla Deewana」シリーズは基本的にサニー・デーオールが実直なキャラを演じ、残りの2人、ダルメーンドラとボビー・デーオールが詐欺師などの小悪党を演じる構成になっている。この「Yamla Pagla Deewana Phir Se…」でもそれが踏襲されており、サニー演じるプーランは真面目で寛大な伝統医、ボビー演じるカーラーはその不真面目な弟、そしてダルメーンドラ演じるパルマールはエキセントリックな弁護士という配置になっていた。

 元々この三人は親子であるため息はピッタリなのだが、三人の演じるキャラの方向付けが絶妙で、どんな設定にしても機能する。今回は先祖代々伝わるアーユルヴェーダの伝統医学と、現代医学に則った製薬会社との戦いにこの三人をはめ込んでいるが、やはり非常にうまく行っていた。カーラーとパルマールを動かして抱腹絶倒のコメディー劇に仕立てあげている上に、プーランによって感動の要素も加えている。

 また、パンジャーブ人とグジャラート人の伝統的な対立も笑いのネタにしている。一般的にパンジャーブ人は肉食で酒好きというイメージである一方、グジャラート人は菜食主義で酒を飲まないイメージである。この正反対のコミュニティーは映画の中でよく面白おかしく取り上げられる。「Kal Ho Naa Ho」(2003年)はその一例だ。

 特に飲酒を巡ってこの2つのコミュニティーが対立する場面があり、ついつい笑ってしまう。パンジャーブ人は酒がなければ生きていけないし、グジャラート人は酒飲みが近所にいることすら許せない。どちらにとっても死活問題なのだ。アスラーニー演じるナーヌーが、グジャラート人ながら、酒を飲んで元気になるシーンも爆笑モノだった。

 クリティ・カルバンダーはパンジャーブ人ながら今回はグジャラート人女性チークーを演じていた。実はチークーは酒好きで、夜な夜なダマンへ行っては酒を飲んでいた。グジャラート州は禁酒州だが、隣接するディーウ&ダマン準州では酒が飲める。ちなみに、スーラトからダマンまでは陸路で120kmほど、自動車で行くと2時間以上は掛かる。夜な夜な酒を飲みに行くには多少現実的ではない距離だ。

 基本的には脳みそを家に置いて楽しむタイプのコメディー映画だが、一応バイオプロスペクティングの問題にも触れられていた。インドには種々の薬草を使って治療を行う伝統医学アーユルヴェーダがあるが、海外の製薬会社がその知恵を勝手に抜き出して特許を取り、独占して金儲けをしようとしているのだ。インド政府は既にそれを取り締まる方策も立てている。

 「Yamla Pagla Deewana Phir Se…」では、往年の名優であるダルメーンドラとシャトゥルガン・スィナーが久しぶりに共演したことも話題になっている。この二人は親友として知られており、「Blackmail」(1973年)、「Dost」(1974年)、「Teesri Aankh」(1982年)など多くの映画で共演してきた。彼らが最後に共演したのは「Zulm-O-Sitam」(1998年)であり、実に20年振りに彼らはスクリーン内で肩を並べたことになる。ダルメーンドラ演じるパルマールとシャトゥルガン演じるスィナー裁判長は映画内でも旧友ということになっており、彼らが交わす会話は現実世界にも通じるものがある。「黒髪の女性」について話すシーンがあったが、これはダルメーンドラと結婚したへーマー・マーリニーのことを指しているのだろうか。昔からのヒンディー語映画ファンには嬉しいサービスである。

 前述した通りだが、エンドレクジット曲の「Rafta Rafta Medley」ではシャトゥルガンの娘ソーナークシー・スィナーが特別出演しダンスを踊る。なぜか往年の女優レーカーまで登場するが、彼女はダルメーンドラとシャトゥルガンと同年代の女優枠で選ばれたのだろうか。さらにはどういう脈絡か分からないがサルマーン・カーンまで顔を出す。

 「Yamla Pagla Deewana Phir Se…」は、「Yamla Pagla Deewana」シリーズの第3作で、ダルメーンドラ、サニー・デーオール、ボビー・デーオールの親子が出演してドタバタ劇を繰り広げるフォーマットは継承している。今までシリーズで培ってきた黄金パターンにさらに磨きを掛けており、シリーズ内では一番面白いと感じた。さらに、外国企業によるバイオプロスペクティングに狙われるインドの伝統医学アーユルヴェーダの問題も取り上げられていた。単なるコメディー映画とあなどれない作品であるし、何よりコメディー部分が優れている。必見の映画である。