2015年10月16日公開の「Wedding Pullav」は、結婚を題材にした古典的なロマンス映画である。題名中の「Pullav」とは炊き込みご飯プラーオのことである。「Wedding Pullav」に込められた意味は2つ考えられる。ひとつは、結婚を通して人間関係が煮込まれていく様子を表しているというもの、もうひとつは、「夢想」という意味で「プラーオ」を使っているというものである。ヒンディー語の慣用句で「プラーオを作る」は「夢想する」を意味する。
監督はビノード・プラダーン。「Devdas」(2002年)や「Bhaag Milkha Bhaag」(2013年/邦題:ミルカ)など多数の映画で撮影監督を務めてきた人物で、本作が監督デビュー作となる。音楽監督はサリーム・スライマーンである。
主演はディガントとアヌシュカー・ランジャン。ディガントはカンナダ語映画俳優だが、ヒンディー語映画への出演は初だ。アヌシュカーは俳優シャシ・ランジャンの娘であり、シャシ・ランジャンはこの映画のプロデューサーも務めている。完全にアヌシュカーのローンチ映画である。
主演を新人で固めた代わりに、往年の名優リシ・カプールを重要なチョイ役で起用している。他に、ソーナーリー・サイガル、カラン・V・グローヴァー、サティーシュ・カウシク、ウパーサナー・スィン、パルミート・セーティー、キトゥー・ギドワーニー、ヒマーニー・シヴプリーなどが出演している。
舞台はデリー。バイクデザイナーのアーディ(ディガント)は、勤務する会社の社長クマール(パルミート・セーティー)の娘リヤー(ソーナーリー・サイガル)と恋に落ち、結婚することになる。婚約式の日、ロンドンからアーディの親友アヌシュカー(アヌシュカー・ランジャン)がやって来て、二人の婚約を祝う。アヌシュカーには画家をする恋人ジェイ(カラン・V・グローヴァー)がいることが分かる。アヌシュカーとジェイの結婚もアーディとリヤーの結婚と同時に行うことになり、舞台はタイに移る。 アーディ、リヤー、アヌシュカー、ジェイやその家族が滞在するホテルの支配人はラヴ・カプール(リシ・カプール)という人物だった。結婚式の準備が次第に進んでいくが、その中でアーディはリヤーとの結婚に疑問を感じ始め、代わりにアヌシュカーに対する感情を自覚し始める。それはアヌシュカーも同様だった。周囲の人々も、アーディとアヌシュカーが惹かれ合っていることに気付いていた。リヤーのことを大切に思うクマールは、アーディやリヤーに友情は友情に留めるように忠告する。 アーディとリヤーは結婚の儀式を行う。だが、アヌシュカーとジェイは儀式を待たずに去って行ってしまった。それを知ったアーディは儀式を放り出してアヌシュカーを追う。アーディとアヌシュカーは再会し、お互いに愛の告白をする。ジェイも二人の仲を認める。こうして改めてアーディとアヌシュカーの結婚式が行われた。
インドのロマンス映画に一番多いパターンは、一目惚れから始まって紆余曲折を経て結婚に至るというものだ。だが、「Kuch Kuch Hota Hai」(1998年)や「Jaane Tu… Ya Jaane Na」(2008年)など、友情との境界線が曖昧な、無自覚の恋愛の成就を描く映画もいくつかあり、この「Wedding Pullav」も後者のパターンの映画だった。アーディは、勤務先の社長の娘リヤーと婚約するが、幼馴染みのアヌシュカーへの恋愛感情に気付き、最終的にはアヌシュカーと結婚する。インド映画をよく観ている人なら、序盤の展開からエンディングを容易に想像することができただろう。
ストーリーが予想通りという点は残念だったが、ストーリーテーリングが巧ければそれほどマイナスにはならない。「Wedding Pullav」が弱ったのはむしろ脇役やサイドストーリーの方だ。アーディの許嫁リヤーやアヌシュカーの恋人ジェイはパートナーを取られる形になるのだが、どちらも意外に物分かりがよく、泥沼化しないばかりか、最終的には自ら進んでパートナーを差し出している。全体的に映画に修羅場がなく、物事が非現実的なほどスムーズに進む。また、アーディは社長の娘との結婚を蹴ったわけであり、その後のキャリアに大きな影響が出ると思うのだが、この種の葛藤もほとんど描かれていなかった。もっとゴチャゴチャするのを心の中で期待していたのだが、肩透かしであった。この辺りは予想を裏切った展開ではあったが、物足りなさを強く感じた。
アヌシュカーがロンドンへ行った理由には、どうも過去にアーディとの喧嘩があったからだと示唆されるのだが、プロローグ的なエピソードもほとんど語られなかった。途中に回想シーンを差し挟んでアーディとアヌシュカーの過去を長めに提示することで、もっと深みのある映画になったのではないかとも感じた。
サリーム・スライマーンによる音楽は、この種の低予算映画にしてはよくできており、結婚式やパーティーの雰囲気を盛り上げるアップテンポな楽曲が多かった。「Party Karni Hai」や「Ishq Da Panga」など、人気が出そうな曲だ。
「Wedding Pullav」は、幼馴染みの男女が恋愛感情に気付き、それぞれのパートナーを足蹴にして結婚するというプロットのロマンス映画である。極度に沈痛するような場面がなく、基本的には明るい雰囲気で進行する映画であり、とにかく楽しい映画を観たい人にはいいかもしれないが、深みのある映画ではない。無理して観なくてもいいだろう。