Jab We Met

5.0
Jab We Met
「Jab We Met」

 シャーヒド・カプールとカリーナー・カプールはここ3年間、ヒンディー語映画界の仲良しカップルとして有名だった。二人とも映画人家系に生まれており、肌の色も白く、役柄や俳優としての位置も似ており、お似合いのカップルだと思っていた。二人は過去に「Fida」(2004年)や「Chup Chup Ke」(2006年)などで共演して来ており、2007年10月26日には新たな共演作「Jab We Met」も公開された。だが、公開直前になって、シャーヒドとカリーナーが別れたとの噂が流れた。当初は映画プロモーションのための茶番劇と考えられていたが、どうも本当に別れたらしいことが分かって来た。サイフ・アリー・カーンがカリーナーと付き合っていることを公表したことにより、それは決定的となった。そんな訳で、タイムリーなゴシップのおかげで一躍注目を集めた「Jab We Met」だが、作品自体の評判も上々で、このままヒット作になりそうな勢いである。

監督:イムティヤーズ・アリー
制作:ディリン・メヘター
音楽:プリータム
振付:サロード・カーン、アハマド・カーン
衣裳:マニーシュ・マロートラー、ヒマーンシュ・ナンダー
出演:シャーヒド・カプール、カリーナー・カプール、タルン・アローラー、ダーラー・スィン、サウミヤー・タンダン
備考:PVRプリヤーで鑑賞。

 死んだ父親から会社を継いだアーディティヤ・カシヤプ(シャーヒド・カプール)は、ガールフレンドに振られたことでひどく落ち込み、誰にも告げずに会社を去って、ムンバイーを放浪した挙句、どこへ行くかも分からない列車に乗り込んだ。そのまま走っている列車から飛び降りて死のうと考えた。そこで出会ったのが底抜けに明るい女の子ギート(カリーナー・カプール)だった。乗り込んだ列車はデリー行きで、パンジャーブ州バティンダー生まれのギートは久し振りに故郷へ帰ろうとしているところだった。アーディティヤの落ち込み様を見て心配したギートはあれこれ話し掛けるが、彼は決して心を開こうとしなかった。深夜、アーディティヤがこっそり途中の駅で降りたのに気付いたギートは、彼を追い掛けてプラットフォームに降り、彼を元気付けようとする。ところがそうこうしている内に列車が発車してしまった。ギートはアーディティヤを責めるが、深夜の駅には怪しげな男たちがうろついていて危険だった。こんなところに取り残されては堪らないので、ギートは態度を変えて彼を無理矢理説得してホテルで一夜を過ごすことになる。

 アーディティヤの失恋の悩みを聞いたギートは、元恋人の写真を燃やしてトイレに流せばきれいに忘れることができると助言する。その通りにしたら、確かに気分が晴れ晴れした。これを機にアーディティヤもギートに心を開くようになる。二人はバスやタクシーを乗り継いでバティンダーへ向かった。

 バティンダーでギートの家族に歓迎されたアーディティヤは数日間滞在することになる。そこへギートの許婚がやって来ることになった。実はギートにはアンシュマン(タルン・アローラー)というボーイフレンドがおり、彼と結婚しようとしていた。ギートは家から逃げ出そうとする。アーディティヤもドサクサに巻き込まれる形でギートと一緒に夜逃げすることになってしまった。だが、ギートの妹ループ(サウミヤー・タンダン)に見つかってしまい、大騒ぎになる。ギートの家族は、アーディティヤがギートを誘拐したと血眼になって2人を探し出す。

 アーディティヤとギートは、アンシュマンの住むマナーリーへ向かった。その旅の中で常にポジティブなギートの人間性に惹かれたアーディティヤであったが、そこで彼女と別れ、ムンバイーに帰ることにした。

 ムンバイーに帰ったアーディティヤは、ギートの生き方を参考に、見違えるように積極的に会社の舵取りをするようになった。そのおかげで倒産寸前にあった会社は持ち直し、9ヶ月の内に父親のとき以上の業績を上げるようになる。だが、アーディティヤの心には常にギートがいた。彼は新たに通信事業に進出し、テレホンカードの名前を「ギート」と名付けた。だが、そのTVCMを見たギートの家族は、彼の会社に乗り込んでくる。なんとあれ以来9ヶ月間、ギートから何の連絡もないと言う。心配になったアーディティヤは、10日以内にギートをバティンダーに連れ帰ると約束し、マナーリーへ向かう。

 アーディティヤはマナーリーでアンシュマンに会ったが、彼はとっくの昔にギートを振っており、彼女の消息は不明だった。アーディティヤは必死にギートを探し、シムラーで見つけ出す。彼女は孤児院の先生をして暮らしていた。アンシュマンに振られたギートの顔からは昔の明るさが消え、悲しみで満たされていた。アーディティヤはかつてギートが自分を励ましてくれた言葉をそのまま返し、彼女を勇気付ける。そしてアンシュマンに電話をさせ、思いっきり罵倒させて、彼女の気分を晴らさせる。全てがうまく行こうとしていた。

 だが、そこへアンシュマンが突然やって来て、やり直したいと言い出す。迷ったギートであったが、それを受け入れることにする。アーディティヤは、アンシュマンとギートを連れてバティンダーへ向かう。

 早とちりなギートの家族は、アーディティヤとギートが結婚したと思い込んでいた。バティンダーでは結婚式の準備が進められており、問答無用で二人は結婚させられそうになった。だが、二人とも悪い気はしていなかった。面白くないのはアンシュマンである。彼は度々、ギートと結婚するのは自分だと言おうとするが、何かと妨害が入り、それができない。その内にギートは本当に愛しているのはアンシュマンではなくアーディティヤだと気付き、独特の方法でアンシュマンを振った後、そのまま結婚式を続けさせる。こうしてアーディティヤとギートはめでたく結婚することになった。

 イムティヤーズ・アリー監督は、ロマンスという最も古典的なテーマを新鮮な手法で映画にすることができる特別な才能を持った映画監督のようだ。デビュー作「Socha Na Tha」(2005年)も、古風なようで新しいロマンス映画だったが、監督2作目になる「Jab We Met」はそれ以上によく練り込まれた恋愛映画になっていた。

 イムティヤーズ・アリー監督が前作から描き続けているのは、フィーリングの大切さだ。誰にでも、「あれ、この人といると何だか安心する」と感じる異性がいるものだが、いろいろな状況から、それを愛だと気付くことができなかったり、取り返しがつかないほど遅れてしまったりすることが多々ある。しかし、そういう感覚こそ、一生の関係である結婚において最も大切なのだとイムティヤーズ監督は映画を通して若い人々に訴えている。

 ムンバイーから古都ラトラーム(マディヤ・プラデーシュ州)、バティンダー(パンジャーブ州)からマナーリー(ヒマーチャル・プラデーシュ州)と、ロードムービー的に場所と景色がどんどん移り変わって行ったのも良かった。それぞれの土地の風俗も巧みに映像化されており、インドの美しさの多様性を感じることができる映画に仕上がっていた。

 主演のシャーヒド・カプールとカリーナー・カプールはベストの演技をしていた。シャーヒドはここのところ軽めの役柄が増えて来ており、そのままキャラが確定してしまいそうだったが、この映画のおかげでシリアスな演技もできる俳優であることが証明された。これから芸の幅ができてくるだろう。今年は「Kya Love Story Hai」(2007年)でのアイテムガール出演を除けばスクリーンから遠ざかっていたカリーナーは、「Jab We Met」で改めて大女優の片鱗を見せ付けた。彼女は能天気なイケイケギャルが得意で、デビュー当初はそんな役ばかりだったが、本領を発揮するのは悲哀の演技をするときである。本作ではその両方の顔を使い分けており、優れた演技力を持っていることが再確認された。

 皮肉にも、主演の実生活カップルが破局を迎えた直後に公開されることになった「Jab We Met」は、失恋をどのように克服すればいいかが話題になっていた。カリーナー演じるギートは、元恋人の写真を燃やし、トイレに流せば忘れると助言し、シャーヒド演じるアーディティヤは、元恋人に思いっ切り罵声を浴びせかければせいせいすると助言する。シャーヒドとカリーナーのどちらが失恋したのか知らないが、失恋した方は映画から学んだ秘策を実行したのだろうか?

 ほとんどこの2人ばかりが出ている映画だったが、脇役陣の中では、レスリング・チャンピオンのダーラー・スィンがギートの祖父役で出演し、威厳のある演技をしていたのが印象的であった。

 音楽はプリータム。ラトラームからバティンダーまでの道中に流れる「Aao Milo Chalo」は、深夜の駅や安ホテルの薄暗い雰囲気を吹き飛ばす爽快なナンバーだったし、バングラー・ナンバーの「Mauja Hi Mauja」や「Nagada Nagada Nagada Baja」もノリノリであった。

 題名の「Jab We Met」はちょっと変則的だ。「Jab」はヒンディー語で「~するとき」という意味の言葉、「We Met」は英語である。実はこの映画の題名は3案あり、監督も決めかねていた。3案とは、「Ishq via Bhatinda」、「Panjab Mail」、「Jab We Met」である。監督は妙案を思い付き、これらの中から映画ファンの投票によって題名を選ぶことにした。結局選ばれたのは「Jab We Met」。ギートの破天荒な性格にピッタリの題名だと言える。

 「Jab We Met」は、題名やポスターなどを見る限りでは陳腐なボーイ・ミーツ・ガール的映画のように思えるが、使い古されたロマンスというジャンルを驚くほど新鮮でしかも完成度の高い手法によって描いている、観て損はない映画である。今年のロマンス映画の傑作の一本に数えられるだろう。


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